【 僕の恋愛観 】
バタン! カラ―ン カラ―ン
「お騒がせしてすみませんでした!」
お騒がせカップルをなだめたジョ―ジは店に戻るなり頭を下げた。
「気にしないでぇ」
「マスターが謝ることじゃないよ。若いってことさ」
そう言って今井さん夫婦は笑った。
「青春ですよね! いい男には惚れた腫れたは付きものですから! ハッハッハ――っ! 俺と一緒!」
いつものように大声でがさつに笑うジョージ。
そう、これが僕の叔父、ジョージだ。
いつもふざけていてすぐに調子にのるし適当で大げさなんだ。僕のことも事あるごとにすぐからかおうとする。
「またジョ―ジは適当なことばっかり言って」
僕は刺々しくジョ―ジに言った。
「適当とはなんだよ。れっきとした経験談だぞ!」
僕の一言に眉をひそめるジョージ。
「それ本当に経験談かよ」
キュッキュッキュッ。
グラスを拭きながら僕は冷ややかに、それでいてまくし立てるようにジョ―ジに言った。
「そりゃ顔ビンタこそないけど、俺だって昔はすごくモテたんだぞ!」
いやに自信に満ちた顔をするジョージ。
「ふ―ん」
僕は目を細め疑いの目でジョ―ジを見た。
「そう言う翔ちゃんは彼女いないのかい? 好きな子の一人や二人いいるんだろ?」
突然何を言い出すのやら。
カウンターからキッチンにいた僕を一さんが覗き込んだ。
「俺、そういうの興味ないから。女なんて面倒なだけだじゃん」
「はぁ、これだから最近の若いもんは。好きな子くらい本当はいるんだろ? 男なら男らしく! ビシっと告白するくらいの根性がないと。ねぇ、一さん」
「うんうん、そうだそうだ」
ジョージと一緒に大きくうなずく一さん。
「で、翔、どんな子が好みなんだ? 好みくらいはあるんだろ?」
「別にない」
僕は即答だ。
「ないってことないだろ」
僕の恋愛観なんてどうでもいいだろう。
人に干渉されたくない僕は、そのやり取りが面倒になってきていた。
「翔ちゃんモテそうだし選り取り見取りだろう?」
「一さん、ダメダメ! こいつ顔はいいけど無愛想だから。今時の女の子にはサービス精神の強いアイドルみたいな男の方がモテるんだから」
「そうなのかい?男らしい方がモテそうだけどなぁ」
「翔はもうちょっと愛想よくしろって。そしたら俺みたいにもっとモテるぞぉ!」
「はいはいっ!」
人のことを勝手にあれこれ言いたい放題。
煩わしさMAX。限界だ。
僕は台布巾を念入りに洗いキュッと硬く絞った。
「サービス精神旺盛なジョージ様にはさぞかし立派な武勇伝があるんだろうね。その武勇伝、今度由美さんに聞いとくよ」
台布巾を置き、その場を逃げるように休憩に入った。
由美さんというのはジョ―ジの奥さん。
つまり僕のおばさんだ。
「お、おい、翔! あいつ機嫌悪くなるから勘弁してくれよぉ。おい、翔! 由美には聞くなよぉ! 俺はずっと由美一筋だからな――っ!」
ジョージはだいぶ慌てていた。
いつも偉そうなことを言っているジョージも由美さんには頭が上がらないんだ。
トントントントントンっ。
僕は足早に2階へ上った。
2階はお店の倉庫兼休憩室になっている。
冷蔵庫からキンキンに冷えたコ―ラを手に取ると僕は窓際の椅子に腰かけた。
プシュ、ゴクゴクゴクッ。
しみわたる炭酸にヒリつく喉。
僕は一気にコーラを喉の奥に流し込んだ。
窓の外では桜の木々が青々と豊かに葉を茂らせ、風が吹く度ザワザワとその葉を揺らしていた。
この席からは桜並木がちょうどいい具合に見えるのだ。
ちょっと窓を開けて風を感じながらの一服。
これがいつもの僕の休憩スタイルだった。
「それにしても騒々しいカップルだったな」
好きだの嫌いだの、浮気しただのしないだの。
どうせすぐ別れてしまうなら最初から付き合わなければいい。
どうしてみんながこぞって愛だの恋だの言いたがるのか、僕には全くもって理解不能だった。
恋愛なんて面倒なこと、今の僕にはどうでもいいことだった。
「もうすぐ夏だな……」
朝夕の風にはまだ心地よさを感じるが、もうすぐそこに夏が近づいていた。
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