【焼きそば対決】
突然険しい表情で黙り込んだ山峰さん。
僕には何が起こったのか分からなかった。
さっきまで楽しく二人でお喋りをしていたのに、突然どうして……?
容赦なく突き放された僕。
僕はどうしていいかわからなかった。
こんな時なんて声をかけるのが正解だったんだろう。
人付き合いの上手い井上ならなんて声をかける?
お調子者の賢治なら?
山峰さんと仲のいい三田さんなら……?
霞がかかったように鈍る思考回路。
いくら考えても導き出せない答え。
自分の対応力のなさに嫌気がさす。
"人付き合いなんて面倒くさい"
大人ぶってクールなふりをして。
これまで僕は人と向き合うことからただ逃げていただけなのかもしれないと思った。
庭で楽しそうに騒ぐみんなの声が現実とは思えないほど遠くの方で嫌に鈍く響いていた。
膝を抱え、二人でどのくらいそうしていたのだろう。
夏の熱気と裏腹に冷え込んでいく胸の内。
でもその長く気まずい沈黙を破ったのは山峰さんの方だった。
しばらくして彼女は申し訳なさそうに僕に優しくこう言ったんだ。
「ねぇ、糸倉君、〆の焼きそば……、食べたくない…?」
「え……?」
その問いかけに僕はどんな顔をすればいいかわからなかった。
明らかに戸惑う彼女。
でも戸惑いながらも優しく彼女は僕の腕を引っ張ったんだ。
優しい声、彼女の熱い手の温度――――。
冷えた心にじんわりと熱がしみ入るような感覚だった。
苦虫を噛み潰すというのはこう言うことをいうのだろうか。
混乱する頭。
胸の中はクシャクシャだった。
「糸倉君特製の、スペシャル焼きそばが食べたいな……」
そこには懸命に笑おうとする彼女がいた。
「と、特製焼きそばって……スーパーの激安特売焼きそばだよ?」
「でも糸倉君の腕なら、きっとスペシャルなのができちゃうんでしょ?」
困惑する僕に彼女はまた申し訳なさそうに笑ったんだ。
「じゃ、じゃあ……、焼きそば対決だ!」
僕は彼女に焼きそばの袋を半分ポンっと手渡した。
「え? 私も作るの?」
使う材料は全て用意されていた。
「山峰さん真似すんなよな!」
「違うよ、真似なんてしてないよ!」
隠し味にと僕がビールを入れれば彼女もわざと真似をした。
お酒も飲んでいないのに、僕たちはテンション高く笑い合ったんだ。
あの気まずい時間をまるで無理やりかき消すように。
胸に引っかかるような違和感をぬぐうことはできなかった。
でも僕らは必死に笑うしかなかったんだ。
同じ材料に同じ工程。
結局2人が作った焼きそばは全くもって同じ味。
結果は明らか。当たり前だ。
でも世の中そう甘くはなかった。
『可愛い春花ちゃんの作った焼きそばの方が翔のよりも何十倍も美味いよ♡』
その酔っぱらい共の意見から結局僕の大敗となったのだ。
「やったぁ! 私の勝ち♪」
山峰さんは嬉しそうに両手を上げて喜んだ。
「なんでだよ―! 絶対同じ味だって!」
僕は必要以上に悔しそうにしてみせた。
そんな僕を見て、彼女は楽しそうに笑っていた。
BBQを全力で楽しんだ酔っぱらい達は、ほぼ全員がそのままダウン。
賢治と井上、ジョ―ジの3人は居間でひっくり返ってタカいびきをかいていた。
和室に布団を敷いて、一人静かに横になった僕。
「はぁ――っ」
大きなため息が出た。
あの時の彼女の険しい表情が頭から離れなかった。
あんなに楽しそうに笑っていたのに。
僕は何かいけないことを言ってしまったのか?
〝大人しい、静かな人だと思ってた〟
僕はただ、そう言っただけ……。
答えが見つかるはずもなかった。
僕はモヤモヤした気持ちのまま重たい瞼を閉じ、そのままゆっくり眠りに落ちていったんだ。