表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/86

【最近どうも調子が狂う②】

風呂上がりの山峰さん。

彼女は縁側に座っていた僕のすぐ隣に腰を下ろした。


トクン、トクン、トクン!

突然の出来事に早鳴る鼓動。


冷静に普通に、いつも通りを装うことに僕は必死になった。

「け、賢治の奴は、ちょっとはしゃぎすぎだよ」


僕はチラッと彼女を盗み見た。


髪がまだ少し濡れていた。

やわらかな風に乗って何とも言えないシャンプ―のいい匂いがした。


車の中で言っていたシャンプーか?

甘く女の子らしいその香りに僕の胸はますますドキドキと音をたてた。


僕はハっとした。

高鳴る鼓動とじっとりとにじんでいく汗。


汗でベトベトの汗臭い体。

忘れてはいけない。

自分だけまだ風呂に入っていないこの状況を。


「賢治君ってばあかねのこと大好きだもんね。わかりやすいから面白くって」

僕の気も知らず楽しそうに笑う山峰さん。


「見てるこっちが恥ずかしくなるよ」


汗臭くないだろうか。

それとなく座りなおして彼女との距離を少し開けた僕。

実際賢治の三田さんへのアピールはわかりやす過ぎだ。


「でも、あかねもまんざらでもなさそうじゃない? この旅行であの二人どうなるんだろうね」

彼女は僕の顔を少し覗くように言った。



不意打ちの上目遣い。

山峰さんの顔が近い……!


早鐘を鳴らすように激しく高鳴る心臓。


「け、賢治のやつ、張り切りすぎてやらかさなきゃいいんだけどね」


急にドキドキがハラハラに変わっていく。


彼女と二人っきり。

もっとゆっくり話していたい。

でも汗のせいで話しに集中できない自分がいた。


迷えば迷うほどじっとりにじみ出る汗。


せっかく話しかけてくれたのに。

でも汗臭い男にはなりたくない‥‥。



「山峰さんごめん。俺汗だくだからちょっと風呂に入ってくるよ…」

僕は意を決して、スクっと立ち上がった。


「いってらっしゃい。温泉すごく気持ちよかったよ♪ ゆっくり入ってきてね」

彼女はそう言うと可愛らしく小さく僕に手を振った。


しばらく胸のドキドキが残っていた。


せっかく話しかけてくれたのにな…。

僕はとても残念な気持ちに襲われていた。




ザッバ――ン!!

浴槽から溢れ出たお湯が風呂桶を遠くまで押し流していく。


「ふ――――っ」

何とも気持ちがいい。


「きゃはははっ♪」

静かな風呂場に外から聞こえるみんなの声が響いていた。

不思議な感覚だ。


毎年来ている一さんのこの別荘。

でも友達を連れてきたことは一度もなかった。


たまにはこういうバタバタした奇想天外な旅行も悪くない。



それにしても井上に彼女がいたのは驚いた。

でも美鈴さんはとてもいい人で二人はとてもお似合いだ。


賢治と三田さんもなんだかんだいい感じだ。


山峰さんは思っていたより明るくて話しやすかった。

割とよくしゃべるし決して大人しいわけじゃなさそうだ。

話していて楽しいしもっと話してみたいと思った。


僕はふと、さっきの彼女のことを思い出した。

頬は赤く、髪はまだ濡れていた。

彼女からそよぐ風にはとてもいい香りがしていたんだ。


この風呂場に置いてあるシャンプ―とは別のもっと華やかで甘いやわらかな香り。



僕はなぜか急に恥ずかしくなった。

胸がドキドキ、急に激しく鼓動していく。

最近こんなんばっかりだ。


“ 侍クールボーイ ” と呼ばれる僕らしからぬ状況だ。

いついかなる時も冷静沈着に…そんないつもの僕はどこにいったんだろう。



大きく大きくい息を吸い込んだ僕。

ザブッと顔半分、勢いよく体をお湯に沈め込んだ。


精神統一、精神統一……。

心穏やかに……平常心、平常心……。


「きゃはははっ!」

「ちょっと、あかね! 何すんのよ―!」

外から聞こえる三田さんと山峰さんの声。


外から聞こえる彼女たちの声に敏感に反応する僕の耳。


火照った体は熱いお湯のせいなのか?

ドキドキドキドキさらに大きく早く脈を打った。


水音と共に耳に鼓動が響いていく。

穏やかどころかのぼせるように僕の顔はどんどんどんどん熱くなっていった。


山峰さんもさっきまでこの風呂に入ってたんだよな……。

 

『お前も女の子達と一緒に入って来いよ♡』

ジョ―ジのふざけたその言葉と同時にあるこうけいが脳裏に浮かんだ。


それは…

湯煙あがるこの温泉とお湯の流れゆく柔く白い肌…。



ボッ!!


煩悩の塊のようなその妄想に自分が一番驚いた。

 

ゴホっ!! ゲホッ!!!


顔に火が付くと同時に僕は思いっきりお湯を吸い込んだ。

それも大量、急激に!


ゲホゲホゲホゲホッ!


一気に気管支のまでお湯が入り込む。

とんでもない苦しさだ。

口いっぱいに広がる温泉の硫黄。


ゴホッ、ゴホッ、ケホケホケホケホっ。 



最近どうも調子が狂う。

心穏やかでないというか、よこしまな考えが浮かんでくるというか、自分らしくない。


「はぁ――――っ」

僕は呼吸を整えながらゆっくり大きくため息を付いた。


むせ込んだせいでひどくヒリつく喉の違和感。

頭を冷やそうとシャワ―で水を浴び、僕は風呂を出ることにした。

お読みいただきありがとうございます!


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 おかしな踊り 】 


毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ