【 視線の先に 】
「二人とも疲れてない?」
スーパーへの買い出しの途中、車中で由美さんが後部座席の二人に聞いた。
「はい、大丈夫です!」
三田さんと山峰さんに疲れた様子はなかった。
「そう言えば私、新発売のシャンプー持ってきたんで後で温泉の時由美さんも使いません?」
後部座席から乗り出すように三田さんが言った。
「それって香りがいいって評判のやつ?」
「そうですそれ! メチャクチャいい香りなんですよ♪」
「いいの? 私まで使ったらなくなっちゃわない?」
「あかねったら大きなボトル一本で持ってきてるんで心配ないと思いますよ」
明らかに山峰さんは笑っていた。
声のトーンから表情は見えずとも彼女の表情が目に浮かぶ。
「ボトル一本?張り切ったわね!」
楽しそうに繰り広げられ女子トーク。
「いっぱいあるから糸倉君も使っていいよ。私たちとお揃いの香り♡ どう?」
「俺はいいよ。女の子のシャンプーなんて使わないし」
「なんだ、つまんないの!」
三田さんは僕をからかっていた。
さっきのまでの恥ずかしさが残っていた僕は助手席で一人、大人しくしていた。
僕らはス―パ―に着くと買い物リストを持って分散した。
「春花〜、ねぇこっちにもあるよー!」
「あかねどこ〜?」
田舎特有のやけに広いスーパー。
二人の声が店内のどこからか聞こえてきていた。
「ねぇ翔ちゃん、あの二人仲良しねぇ。しかも可愛くていい子だし♡」
僕の横でニヤニヤと笑う由美さん。
「そうだね」
僕はそっけなく答えた。
「あかねちゃんは賢治君が狙ってるみたいだし、翔ちゃん、春花ちゃんはどうなの? もしかしてこの旅行でみんなくっついちゃったりして~っ!」
テンション高く僕の背中をバシバシ叩く由美さん。
「由美さん痛い、痛いよ! 普通親戚のおばさんがそういうこと言う?」
急に顔をしかめた由美さん。
「ちょっと、おばさんとは何よ!」
「イテテテッ!」
由美さんは僕の二の腕をこれでもかというくらいツネった。
「あぁ、ごめんなさいごめんなさい! お姉さんっ!」
「よろしい! 大事な甥っ子を心配して当然よ。変な女に引っかかったら困るでしょ?」
お姉さんという言葉に満足した様子の由美さん。
糸倉家はどうしてみんこうなんだろう。
由美さんもジョ―ジも母さんもみんなお節介だ。何かと人の恋愛にもすぐに首を突っ込もうとする。
「気持ちは嬉しいけど、そういうのにあんまり興味ないし俺のことは放っておいてもらって大丈夫です」
「何よ人の気も知らないで。全くこの子ってば本当に可愛げがないんだから!」
僕は嘘をついた。
愛とか恋だとか付き合うとか、僕にはそういうのは正直よくわからない。
でも、興味がないなんて大嘘だ。
「由美さ―ん! 全部揃いましたよ―!」
遠くから手を振る三田さんと山峰さん。
「ありがとう! 今行くわね~!」
由美さんと僕は彼女たちのいる方へ歩き出した。
山峰さん。
山峰春花。
僕が彼女のことを意識しているのは間違いない。
好きかどうかなんてよくわからない。
でも気になって気になって仕方がなかった。
あの二人が並んでいても、真っ先に目に入るのは間違いなく山峰さんなんだ。
黒のジャ―ジにピンクのライン。
白のTシャツにポニ―テ―ル。
どうやったって目が追ってしまうんだ。
「ふーん、まぁいいわ」
由美さんはそう言うと僕の顔を横目で見ているようだった。
由美さんの視線にざわつく心。
嘘を見透かされやしないかと僕は内心ドキドキしていた。
「じゃあ、さっさとお会計して帰ろうか。BBQが待ってるわよ―!」
「は―い!」
楽しそうに笑う山峰さんの表情を視線が追う。
僕の胸にはまだ少し、さっきのざわつきが残っていた。
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次話【 最近どうも調子が狂う 】
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