【 大掃除 開始 ② 】
玄関に入ると三田さんと山峰さんが雑貨を整理していた。
山峰さんを見て僕は笑った。
「山峰さん、頭にでっかい埃付いてるよ」
「え? うそっ!」
すぐに手で頭部を払った彼女。どこでつけたのだろう。
大きな埃が3つ、ふわふわと落ちてきた。
「やだ、いつから付いてたんだろう」
恥ずかしそうにする山峰さん。
きっと一生懸命頑張って片付けてくれていたのだろう。
「クククっ…」
密かに笑う三田さん。
「あかね、もしかして気付いてたでしょ!」
山峰さんは頬を膨らませ、怒った表情で三田さんを可愛く睨みつけた。
「だって、春花全然気付かないんだもん!」
「もう! なんで教えてくれなかったの?」
教えてくれなかった仕返しに、山峰さんは目の前に落ちてきた埃を三田さんの頭に乗せた。
「やだ春花ぁ! 取ってよぉ!」
「あははっ! 教えてくれなかったあかねが悪い!」
仲良さそうに大騒ぎする2人。
山峰さんは控えめな大人しい人かと思っていたけどどうやらそうでもないらしい。
彼女の楽しそうな表情に僕の顔も自然に緩んでいった。
家中に所狭しと置かれる仕分けされた荷物。
「おい翔、ちょっとそっち持ってくれ!」
「わかった、持ち上げるよ。せーのっ!」
僕とジョ―ジは仕分けされた家具や荷物をどんどん運び出していった。
スッキリと片付いていく客間。
「なんとか片付いたわね。これで今夜寝られるわ!」
由美さんを筆頭に女の子たちは寝床が確保できたことに、ホッと一息。
「男共にまみれてながらの雑魚寝にならなくてよかったね」
それは何気なく言った僕の一言だった。
「翔君、がっかりしてるんじゃないのぉ? 本当は私たちと一緒に寝たかったんでしょ!」
三田さんは腕を組みその豊満な胸を強調するようにニヤけた顔で、僕の顔を覗き込んだ。
突然迫られ僕の視線は当然自然と三田さんの胸元へと落ちていった。
「やだ、翔ちゃんってば意外といやらしいのねぇ」
悪ふざけに便乗する何ともいやらしい表情の由美さんの顔。
「な、何言ってんだよ!」
僕は途端に恥ずかしくなった。
そしてとどめの一発は山峰さんだった。
「糸倉君、私たちの部屋で一緒に寝る?」
「え!?」
こともあろうか山峰さんまでもが僕をからかったのだ。
僕の声は裏返っていた。
「なっ、がっかりなんてしてません!一緒になんて寝るわけないでしょっ!!」
慌てる僕を見てイタズラっぽい笑顔で可愛く笑う山峰さん。
ドッ、ドッ、ドッ、ドッ!
僕の心臓は驚きと恥ずかしさから急に忙しく脈を打った。
「翔君、耳真っ赤!侍クールボーイが動揺してる! 可っ愛い――! 」
三田さんの甲高い笑い声が響く。
冷静沈着。そんな僕につけられたあだ名が"侍クールボーイ"だった。
そんな僕を三田さんはわざとからかったんだ。
「あー、もうっ!そんなじゃないってばっ!」
そんなつもりじゃなかったのに、必死になればなるほど怪しくなる。
耳と顔が熱くなる。全くなんて恥ずかしいんだ。
女子ってどうしてこうすぐみんなでキャ―キャ―騒ぐんだろう。
冷静になろうと一人必死になる僕。
でも山峰さんの楽しそうな笑顔に僕は恥ずかしながらもちょっと役得を感じていた。
大学で見る彼女は本当に控えめでどこかいつも遠慮がち。
あまりしゃべらないしこんなはじけるような笑顔では笑わない。
でもその落ち着いた雰囲気が清楚大人びた山峰さんらしさなんだと僕は勝手に思っていたんだ。
みんなとの旅行で気持ちが高ぶったのか。
もしくは実はこっちの方が素だったりして?
旅行はまだ一日目。
どちらにしても一緒に楽しく笑い合えることに僕は何とも言えない満足感を覚えていた。
「おい由美、そろそろ残りの買い出し行ってきてくれよ」
「もうそんな時間? じゃあこの3人連れてくからジョージたちはBBQの準備はお願いね!」
今回はなんせ9人の大所帯。
別荘の小さな冷蔵庫に入りきらない食材を追加で買い出しに行くことになっていた。
「じゃぁ、三人とも車に乗ってね!」
「はーい!」
元気よく車に乗りこむ三田さんと山峰さん。
まだ恥ずかしさの残っていた僕は最後に助手席に乗り込んだ。
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次話【 視線の先に 】
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