【 別荘 ① 】
別荘地に入ると右に左に、車は何度も何度も十字路を曲がった。酔いしそうなくらい車が揺れる。
「到着―っ!」
ようやく別荘へ到着だ。
「やっと着いた――!」
みんなは勢いよく車を降りた。
ジジジジジジッ ミ―ンミンミンミンッ
ここぞとばかりに合唱する蝉たち。
ただでさえ暑いのにさらに暑さを増長させる。
「あっついな……」
噴き出す汗。
僕はカバンからタオルを出し頭からかぶった。
別荘は少し高台になっていて、駐車場からは階段を上らないとその全貌を拝むことができない。
「どれどれ、今年はどんなかな……」
この旅の目的は別荘の大掃除。
今年の荒れ状況がどんなものか、荷物を残したまま僕は一足お先に階段を上った。
「うわっ、なんだこれ!!」
階段を半分登ったところで僕は足を止めた。
ザワザワザワザワ~~。
まるで草原だった。
胸の高さほどの雑草が気持ちよさそうに風に音を立てながらなびいていたんだ。
「どうだい翔ちゃん、すごいだろう!」
階段の下から得意げに言う一さん。
「これはシャレにならないよ。別荘全然見えないじゃん!」
予想をはるかに上回る状態だ。
「アッハッハッハッハッ!」
一さんはまるで時代劇の悪代官のよう。
「なになに、そんなにすごいの!?」
「うっわ! 何だこれ!」
あっけにとられるみんな。
「大丈夫大丈夫、見た目ばかりさ。機械で刈ればあっという間にきれいになるさ」
一さんはなんとものんきなもんだ。
カシャッ、カシャッ。
「大掃除のビフォ―写真だな…」
あまりの光景に、僕はカメラのシャッターを切った。
「はいはい!みんなどいたどいた―!」
車に積んでいた電動草刈り機を持って階段を上ってきたジョージ。
ギュイ――――――ン!
音はすごいが先端の刃がナイロンでできている安全性の高いコ―デレスの草刈機だ。
「とりあえず通れるように刈ってくる!」
「頼むよ、ジョージ!」
一さんから状況を聞いていたのか、ジョージは驚きもせず手ぎわよく人が通れるように雑草を刈り始めた。
ギュイ――――――ンッ、ジャジャジャジャジャッ。
「うわッ、うわうわッ!」
一人で何を騒いでいるんだ? 時折ジョージは声を上げていた。
「じゃあみんな、荷物を持って別荘に入りましょ!」
「は―い!」
僕たちは一さんを先頭に、荷物を抱えながらできたばかりの雑草の小道をゆっくりと進んでいった。
刈ったばかりの雑草たち。あたり一面に漂う青臭い香り。
ブ~~ンッ、ブ~~ンッ。
その香りに交じって大量の小さな虫たちが塊になって飛び交っていた。
虫たちも、自分たちの住処を突然追い出されたのだ。当然と言えば当然だ。
「うわっ、なんつー虫の量!」
ブ~~ンッ、ブ~~ンッ!
奴らは特に耳元で羽音を鳴らす。
両手が荷物でふさがっているため、顔に向かってくる虫を払うことができない。
ブ~~ンッ、ブ~~ンッ!
「う、うわっ!」
僕はたまらず顔を左右に振った。
ものすごい量の虫、虫、虫!!
さっきジョ―ジがこの虫に騒いでいたのだと、僕はようやく理解した。
「うわっ! ちっちゃい虫がいっぱいいる!」
「いや――っ! こっちに飛んでくる――っ!」
突然できた広い空間。雑草の小道はまるで虫だまりだった。
みんなギャ―ギャ―大騒ぎ。
早く家に避難しようと、玄関前では前が詰まって押しくらまんじゅう状態だ。
「一さん早く! 早く玄関けてよっ!」
「待って、待って、もうすぐだから」
一さんを必死にせかす僕。一さんは全く虫に動じない。
年の功なのかもともと平気なのか、のんびり鍵を開けていた。
そしてこれまた古い家でなかなか鍵が開かないのだ。
「一さんっ、早く――っ!」
僕らはたまらず叫んでいた。
ガチャガチャ、ガラガラガラ~~っ。
やっとこさ開いた玄関のドア。
「翔ちゃん早く! 早く入ってよぉ――っ!」
賢治が大慌てでグイグイと靴を脱ぐ僕の背中を押した。
奥行きのない玄関の土間から続く式台に上り框。
大きな段差に阻まれてリアフリーなんてどこ吹く風だ。
「そんなに押すな! 危ないだろ!」
賢治一人の力とは思えない。後ろに続く井上と由美さん。大量の荷物も加勢しているようだった。
「キャーー!!」
「嫌~っ!」
列の一番後ろにいた三田さんと山峰さんはまだ玄関の外。
玄関のすりガラスガラス越しに虫を払い慌てふためく二人のシルエットが見えていた。
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次話【 別荘 ② 】
毎週水曜日 お昼の12時更新予定です。