【 伊豆バイト旅行 出発③ 】
伊豆半島の沿岸の入りくんだ道を進み、ようやく到着した一さんとの待ち合わせ場所。
車を降りると外のすさまじい熱気に見る見るうちに汗が垂れていった。
ジジジジジジッ!
ミ―ンミンミンミン!
蝉は種類によって鳴く時期が違うが、異常気象のせいか様々な種が一緒くたに鳴いた。
伊豆の豊かな自然の中、すぐ近くで大合唱が鳴り響く。
まるで南国。
熱を帯びたアスファルトからはモヤモヤと立ち上る陽炎が見えていた。
「お―お―、みんなよく来たね!」
今日の一さんは長靴にぶかぶかのパンツとTシャツ姿。
麦わら帽子をかぶって完全に田舎のおじいちゃんだ。
「はじめまして!」「よろしくお願いします!」
井上、鈴香さん、三田さん、山峰さんは一さんと初対面だ。
「こちらこそ遠路はるばるありがとう!バイトも頑張ってもらわにゃならんがしっかり伊豆も楽しんでください!」
一さんはそういうと大黒様のようにニッコリと微笑んだ。
到着直後、僕らは定食屋で昼ご飯を食べることにした。
「海の幸たっぷりの海鮮丼です!」
「おお〜!てんこ盛り!」
キラキラ光る新鮮豪華な海の幸7点盛り!
「では別荘の大掃除!どうぞよろしく!」
「カンパ―イ!」
僕らは海鮮丼にがっついた。
僕のはす向かいに座った山峰さん。
どうやら海鮮は好きな様子だ。
「糸倉君、そっちのお醤油とってくれる?」
「醤油なくなったの?」
「ありがとう」
手渡すと山峰さんはニコッと笑った。
傍から見たら大した会話じゃない。
でもそこにはソワソワしてしまう僕がいた。
つい先日まで話したこともなかったのに。
まだ信じられないでいた。
「別荘どんなかな? 本当に楽しみだね!」
「ハッハッハッ!古い家だからあまり期待しないでね」
はしゃぐみんなに眉毛をクイっと上げる一さん。
「きっと相当荒れ放題だから覚悟してね!」
由美さんも横から付け加えた。
その後、僕らは一さんの買い物リストを握りしめホ―ムセンタ―に向かって車を走らせた。
夏の海水浴グッズとキャンプ用品がこれでもかと並べられた店内。
「今日中に庭が片付いたら早速BBQでもやりたいねぇ」
「やりたい、やりた―い!」
一さんの一言にテンションを上げるみんな。
「お前らわかってんのか? 庭が片付いたらだぞ?」
念を押すジョージ。
「わかってますよ!頑張りますって!」
息ぴったりで言い返すのは井上、賢治、三田さんの3人だ。
そばでは普段大人しい山峰さんや知らない人ばかりなのにきてくれた鈴香さんも楽しそうに笑っていた。
僕らは炭に着火剤、網にトングなどBBQグッズを色々買い込んだ。もちろん大掃除に使うバケツや軍手、手袋や長靴、洗剤にゴミ袋、障子紙や障子用のノリも買った。
「それではいざ別荘へ、出発、進行―!」
ギュギュギュっ! ギュギュギュギュギュッ!
ブオ―――ンっ。
一さんのおんぼろな軽トラのエンジンはなかなかの音を立てた。
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次話【 別荘 】
毎週水曜日 12時更新予定です。