【 打ち合わせ③ 】【 出発前夜 】
【 打ち合わせ③ 】
僕はしばらくしてみんなにバイトの詳細を配った。
一さんはすでに現地入りしていて今日は欠席だ。
今時手書きのFAXというのが一さんらしい。
「へぇ〜。結構古い別荘みたいだな」
内容を読みながら井上が言った。
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『3泊4日 伊豆大掃除バイト旅行』
仕事内容 : 別荘の大掃除
・庭と畑の草刈りと整備、屋内の清掃。
(屋内の清掃:荷物の整理、カ―ペットの交換、トイレのドア修理、雨樋の掃除、障子の張替え、畳の陰干し、カ―テンの洗濯、その他)
※みんなで過ごしやすい空間にしてもらえればなお嬉し。
設備:24時間かけ流し温泉あり〼。水洗トイレ、エアコン完備。冷蔵庫・洗濯機あり。片付けば庭でのBBQも可。
近隣によき釣り場あり。車で行ける海水浴場もあり〼。
注意:とても年季の入った別荘です。まずは寝床の確保から。虫よけグッズは多数用意あり。
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「何これ!温泉入り放題! バイトしながら旅行も楽しめるなんて最高じゃん!」
一さんの別荘は田舎がない糸倉家にとって昔から行き慣れた特別な場所。
バイトは大変だがきっとみんなも気に入ってくれるはずだ。
「お前ら遊びに行くんじゃねぇんだぞ? ちゃんと向こう行ったら仕事しろよぉ!?」
笑いながらみんなに念を押すジョージ。
「大丈夫ですって!わかってますよ!!」
特に井上と賢治は大はしゃぎだ。
「あかねちゃん、花火したいね!」
「いいね、いいね!大賛成♡」
BBQや海水浴に花火もしたい。バイトの話しはそっちのけでジョージとみんなは盛り上がっていた。
遠慮気味だが間近で楽しそうにする山峰さん。
その姿に僕の胸は旅行への期待でどんどん大きく膨らんでいった。
【 出発前夜 】
「翔、一さんのバイト今回は女の子も一緒なんだって?」
旅行の前夜、家に帰ると母さんが駆け寄ってきた。
「賢治の奴が女の子も誘いたいって、人数が増えたんだよ」
「あんたの彼女はいないの?」
「そんなのいないよ」
僕はちょっとドキッとした。
「じゃあ、今回の旅行でいいことあるかもしれないわね!」
「普通親がそういうこと言う? 変なことするんじゃなわよ! とか心配するもんじゃないの?」
「あら、変なことってなぁに⁇ 一さんとこ行くのになんの心配があるのよ。母さんも都合がつくなら行きたかったなぁ―」
むくれ顔で残念そうにする母。
子供っぽいというかなんというか。
僕の母は昔からこういう人なんだ。
僕は部屋に戻って旅行の準備をした。
「みんなで旅行か‥」
考えてみれば個人的に友達と旅行に行くなんてはじめてだ。
僕は大学に入ってから大きな変化を感じていた。
特に一番変わったのは友達だ。
高校までと違い6年間同じ顔触れで勉学に励む同じ医者を目指す仲間。キャラクタ―も濃い。
実習で班を組むメンバーは常に一緒に過ごすし、自然と深い付き合いになっていく。
なんでも言い合う仲間。
“医者の息子”そんなレッテルのない世界。
突拍子もないことを言い出して僕の平穏を崩していく賢治や井上に、最初はムッとすることも多々あった。
でも文句を言いながらも、そんな仲間との付き合いにも最近はだいぶ慣れてきていた。
そんな関係性を自分自身も嫌いじゃないんだと実感する。
伊豆の旅行もどうやら賑やかになりそうだ。
井上の友達はどんな人?
賢治と三田さんの恋の行方はどうなるだろう?
山峰さんは‥、一体どんな人なんだろう‥‥?
山峰春花。
彼女のことを意識すると僕の鼓動はトクントクンと音を立てて響き出す。
でも僕は彼女のことをよく知らない。
会話をしたのも今日が初めて。
それでも、なぜか彼女のことが気になるんだ。
だからこの旅行でもっと彼女のことを知ってみたい。
そう僕は思ったんだ。
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次話【 伊豆バイト旅行 出発 ① 】
[いよいよ伊豆バイト旅行が始まった。山峰さんとの初めての旅行。井上の友達に驚く翔と賢治。道中どんなことが起こるのだろう]
毎週水曜日 12時更新予定です。