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【 打ち合わせ② 】

春花とはじめて話しをすることとなった翔。 

打ち合わせのために来たフェルマ(カフェ)の雰囲気をとても気に入る春花。

わずかな時間で色々な彼女の表情を目の当たりにし、触れられそうなくらいの距離感に翔の心臓はドギマギしっぱなし!

天井から下がる年季の入った照明たちが落ち着いたレトロでノスタルジックな雰囲気を醸し出す。

上品ながら懐かしさを感じる店内。



アンティーク調の古い家具たちは開業当初から大事に修理しながら使っていた。

おじいちゃんがコレクションしたレコードや大きな古いオルゴール、暖炉や柱時計、おばあちゃんの趣味だった美しい刺繍やレース編みなども飾られていた。

ビンテージなフィルムカメラと当時のヨーロッパの写真は特に僕のお気に入りだ。



「春花ちゃん、この店いい感じだろ? 古いもんばっかりだけどそれがまたいいんだよ。興味あれば色々見てやってよ」


ジョージは一人店の中を気にしていた山峰さんに自慢するように言った。


「素敵なお店ですね」

「レコードもかけられるからね。気になるのがあれば翔に言ったらいいよ。ゆっくり見てやってね」


彼女はジョージの言葉にうなずくと席を立ってゆっくり店の中を見て歩いた。



山峰さんは、この店の雰囲気がすっかり気に入ったようで店の中を楽しそうに眺めていた。

自分のお気に入りの場所を彼女も気に入ってくれたことが僕も嬉しかった。


棚にぎっしりと収められたレコードをじっと眺める山峰さん。


「何か一曲かけようか?」

僕はさりげなく彼女に声をかけた。


彼女との初めての会話。

緊張感からドキドキと早鳴っていく胸の鼓動。


「じゃぁ、糸倉君のお気に入りの一曲をリクエストしてみようかな」

山峰さんはそう言うと、僕に向かって優しくにこっと微笑んだ。


やわらかな口調、僕に向けられた優しい微笑み。

僕の胸はちょっとアップテンポな心地いいリズムを打っていた。


レコードを聴くのが初めてという彼女。

僕は定番すぎるとは思ったけど一番のお気に入りの曲をチョイスした。


ちょっとした儀式のように丁寧に丁寧にレコードをセットし、静かに回る盤にそっと針をのせると耳馴染みのいい優しい音がスピーカーから鳴り響いた。


♩~♬♩♬♪♩~

「わぁ、素敵な音……」

彼女はスピーカーから流れる音に聴き入った。


1960年代にある映画のワンシーンで歌われたこの曲は誰もが一度は耳にしたことのある名曲だ。


雨を人生の困難に見立てたこの曲は、とても明るい弾むようなリズミカルな楽曲。

人生には色んなことがある。それでも僕はへっちゃらさ。

そんなとても前向きな歌なんだ。


「あ、この曲知ってる。 聴いているとなんか元気になれる曲だよね」

彼女は嬉しそうにそう言うと、渡した歌詞カードを見つめながら静かにレコードの音に聴き入った。


隣りに山峰さんがいることが信じられない気持ち半分。

僕は胸の鼓動を感じながら彼女の横顔をそっと見つめていた。




「おい、みんな、とりあえず腹ごしらえだ!」

しばらくしてジョージはみんなに声をかけた。


「オ―ダ―入りま―す」

賢治の注文を聞くと僕とジョ―ジは手早く調理に取り掛かった。


「春花ちゃん、ペラペラたまごのケチャップ味と、ふわふわたまごのデミグラスソースのオムライス。両方作れるけどどっちがいい?」

「じゃぁ、ケチャップ味で」

ジョージの問いかけに迷わず答えた山峰さん。


僕は少し嬉しくなった。

ペラペラたまごのオムライスは昔っからおじいちゃんがよく作ってくれた僕の大好物なんだ。


「糸倉君、料理もできちゃうなんてさすがだね~」

三田さんの言葉に山峰さんもうなずいているのがわかっていた。

みんなに見られているという変な緊張感。


「俺はただ手伝ってるだけだよ」

僕は恥かしさもあっていつもよりそっけなくそう答えたんだ。



他のお客さんの対応で忙しい賢治に代わって、僕がみんなのもとに料理を運んだ。


井上は好物のナポリタン。

三田さんは薫り高いキノコパスタだ。


「うわ―! これは美味しそう!」

二人は料理を前に急にテンションを上げた。



 山峰さんの所に来ると、僕はその距離感に緊張した。

カウンター席は少し高めの椅子になっていて、料理を置こうとすると自然と彼女と顔が急接近した。


「美味しそう♪」

料理を前にした、ちょっと高く上ずった声―――。


あまり化粧っ気のないナチュラルメーク。

長いまつ毛が印象的だ。

彼女の後姿に、自然とうなじに視線が落ちる。


白い肌に垂れるおくれ毛が、何とも言えず僕の緊張感を掻き立てた。


「どうもありがとう」


ドキンッ!


目と鼻の先。

手で触れることができるような距離で嬉しそうにニコッと笑う彼女の笑顔に、僕の顔は火が付いたように熱くなる。


キッチンに戻ってからも料理を作りながら、僕は彼女のことをチラっと見ては、彼女の反応にドギマギした。

僕の作ったペラペラたまごのオムライスを美味しそうに頬張る山峰さん。


彼女は言葉数も少なく大人しかったが、学校や桜並木では見られない彼女の表情に僕の視線は釘付けだった。


お読みいただきありがとうございます!


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 打ち合わせ ③ 】 


[一さんの伊豆の別荘を片付けるというバイト旅行の内容とは? 彼らの青春の舞台となるその別荘は果たしてどんなところなのだろうか]


毎週水曜日 12時更新予定です。

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