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【 打ち合わせ ①】

再試験の終了日、伊豆のバイトに行くメンバ―が昼過ぎに打ち合わせのためフェルマに集まることになっていた。


「早くあかねちゃん達来ないかな♡」

「賢ちゃんの意中の子かぁ! こりゃ楽しみだ!」


いい歳して賢治の色恋沙汰に首を突っ込みたくて仕方がないジョージ。仕事中だというのにテンション高く賢治とジョージは大騒ぎだ。



でも僕だけは完全に不機嫌だった。


店の常連、(はじめ)さんの伊豆の別荘を大掃除するバイト旅行。


大学の同級生も誘うことになり今年の伊豆バイトはいつもより大人数。一さんが張り切って大量の仕事を用意しているというのに、なんと昨夜になって女の子が二人ドタキャンしてきたのだ。


他の同級生のほとんどが夏休みが始まると同時に実家へ帰省。代わりの人を見つけるのは大変だ。


大掃除を早く終え残りをバカンスにあてる予定なのに、人数が確保できなければ最悪バイトの時間を増やしてバカンスを削ることになるかもしれない……。


そんな状況が僕を不機嫌にさせていた。


「で、代わりの人はどうなったんだよ」

「翔ちゃん大丈夫! 人数の変更はあっりませ〜ん!」

賢治は得意げにピースをした。


「なんだ、案外あっさり見つかったんだな」


バイト旅行は3泊4日。突然の誘いにも関わらず参加する人が見つかるなんて暇な奴もいたもんだ。


イライラしていた僕だったがどうやら勝手な取り越し苦労だったようだ。



僕はラテアートを作りながら賢治と話していた。

エスプレッソの表面にきめ細かく泡立てたミルクの泡で様々な絵を描いていく。



「いのさんの地元の友達と春花ちゃんが来てくれるんだって!」

うるさいくらいにテンション高く話し続ける賢治。


でも僕はラテアートに集中していた。

大事な予定があるという山峰さんが来るはずもなし。

僕にとっては誰が来ても同じこと。

人数さえ確保できていればそれでよかった。


「ふ~ん。井上の女友達とはるかちゃんね……」


コーヒーカップに猫を描きながら賢治の言葉は僕の耳を右から左へと流れていった。


「春花ちゃんが来るからあかねちゃんすごく喜んでるんだぁ♪」


「…ん?」


一瞬の違和感。

僕は賢治の言葉を頭の中で反芻した。



(井上の友達と…、はるかちゃん。井上の友達と‥‥、春花ちゃん!? )


「お、おい賢治、はるかちゃんって‥‥もしかして山峰さんか!?」


「翔ちゃん何言ってんの? 他に春花ちゃんはいないでしょ!?」

不思議そうな顔をする賢治。


山峰春花。

そう、山峰さんが “はるかちゃん” だ。



山峰さんが、彼女がバイト旅行に参加する!?

僕の頭の中にはクエスチョンマークが飛び交った。


「春花ちゃんっていい子だよね♡ あかねちゃんのためにかなり無理して予定ずらしてくれたんだって! 春花ちゃんも今日の打ち合わせくるってよ♡」


トクン、トクン‥‥。


さっきまで静かだった心臓が急に音を立てはじめた。

思わぬ展開に思考回路も鈍くなる。


もうすぐ山峰さんがここに来る? 

しかも、伊豆に一緒に旅行? 


僕は慌てて時計を見た。

山峰さんが来る予定時刻まで後わずか。


あまりの不意打ち。

どうにもソワソワが止まらない。


(落ち着け、落ち着け、平常心‥‥)

深呼吸をしながら僕は落ち着こうと必死になった。




 

カランカラ―ン!!

しばらくして店のドアのベルが大きく鳴った。


ドキンっ!


一度落ち着いたはずの鼓動が再び慌てて跳ね上がる。


「こんちは―」

先頭を切って入ってきたのは井上だ。


「賢ちゃん、ヤッホー!」

続いて井上の後ろから元気よく三田さんが顔を出した。


三田さんは程よく焼けた小麦色の肌に赤茶けたロングヘア。いわゆるお姉系ギャルだ。


見た目からして僕の苦手なタイプだが、根はまじめで面倒見のいい子だと同級生からの評判は上々。


「あかねちゃん! いらっしゃ―い♡」

嬉しそうに三田さんに駆け寄る賢治。

嬉しさ全開。

まるでしっぽを振りまくる子犬のようだ。


「春花どうしたの? 外暑いし、春花も早く入りなよぉ!」

外にいた山峰さんに声をかける三田さん。


“はるか”という名前に反応する僕の耳。

僕の胸はここぞとばかりにドキドキと高鳴った。


「あの……、こんにちは」

それは高すぎず、低すぎず、落ち着いた優しい声‥‥。


山峰さんは戸惑っているのか、遠慮気味に顔をのぞかせた。



白く透明感のある肌に整った顔。

紺色のワンピ―スにポニ―テ―ル姿。

改めて近くで見ると、やはり彼女はとても可愛かった。



「おーおー!! みんなよく来てくれたね!!」

テンション高く三人を席に案内するジョージ。


「井上です。翔君にはいつもお世話になってます!」


「はじめまして! 三田あかねで―す!」


「山峰春花です。よろしくお願いします」


元気いっぱいの三田さんと対照的な山峰さん。

彼女は大人しい清楚な雰囲気が印象的だ。

みんなを優しく見守るような落ち着いた奥ゆかしさのある女の子だった。


「まぁバイトの話しは後にして、みんなとりあえずのんびりくつろいでよ!」

あいさつもほどほどに、さっそくみんなはおしゃべりを始めた。


お読みいただきありがとうございます!


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 打ち合わせ ② 】 


[バイトを兼ねた伊豆への旅行。打ち合わせで春花とはじめて言葉を交わした翔は旅行への期待に胸を膨らませていく]


毎週水曜日 12時更新予定です。

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