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【 夏休みの計画 】

中間テストが終わりいよいよ長い夏休みに突入する翔たち。知り合いの別荘を手入れするバイトに同級生たちを集めて伊豆へ旅する計画を立てる。

「遠方から来てるやつのほうが楽しそうでいいなぁ~」


約1ヶ月の夏休み、全国各地から集まってきていた同級生たちは実家に帰省する奴がほとんどだ。


僕の地元はここ。帰省なんてものはない。

長い夏休みを確保したわりに僕の夏休みの予定はバイト以外ほとんどなかった。


「バイト三昧なんてつまらん夏休みにするなよぉ? なんか予定あるんだろ?」ジョージが僕に言った。


「……特にない」


「何? プライベートな予定何もないのか? デ―トの一つも? はぁ〜、なんて情けない。じゃぁ、暇なら兄貴のところでも行ってやれよ。一人で寂しがってるぞ!」


ジョージの言う兄貴というのは僕の父さんのことだ。


僕の父さんは現在他県の病院へ出向している勤務医。

忙しいため滅多に家には帰ってこない。いわゆる単身赴任というやつだ。


海外の研究機関と共同研究もあり、ここ最近は特に忙しくて研究のために休みを返上することなんて当たり前。

こっちから顔を見に行かないとなかなか会うことができないくらいだった。


「病院に缶詰だし行ってもどうせほとんど会えないよ。お盆には帰ってくるみたいだし行かなくていいよ」



科や勤務形態によってもだいぶ違うのだろうが、医者というのは大変な仕事だ。


父さんは僕が小さい頃からほとんど家にはいなかった。

家に帰ってきてもいつも倒れ込むように寝てしまう父。


休みの日でも、呼び出しがかかればすぐに病院にすっとんでいくし、たまに家でのんびりしているかと思えば読んでるのは論文や専門書ばかり。父さんの頭の中は常に医学のことでいっぱいだった。


たまに一緒にのんびりご飯を食べたり家族で出かけたりするのが何よりの楽しみだった僕。友達がいつも楽しそうに父親と遊んでいるのを見ると、確かに羨ましいと思うこともあった。


でも僕の父さんは『人の命を救うお医者さん』。

母さんも文句も言わず一生懸命父を支えていたし、あまり一緒にいられなくても僕にとっては〝自慢のお父さん〟だった。


「あいつも大変だよな。飯だってちゃんと食ってんのかねぇ? いつも疲れてるし、いつか病気になっちまわないか見てるこっちが心配になるよ」


ジョージはため息混じりに言った。


でも本当にジョージの言う通り。

“医者の不養生”という言葉があるがよく言ったものだと僕も思っていた。




カランカラン。店のドアが開いた。


「お、賢ちゃんいらっしゃい! 試験お疲れ様!」


「こんちは〜!」

やってきたのは髪もクシャクシャに大あくびをしながら眠そうに目をこする賢治だった。


「なんだよお前、もしかして今まで寝てたのか?」


「へへへ、試験期間中の睡眠補給だよ♡ それより翔ちゃん、お腹減ったからペラペラたまごのオムライス作ってぇ〜」


「全くしょうがない奴…」

「大盛りでねぇ〜♡」

「へいへい」


僕は渋々キッチンに入った。


「賢ちゃんは夏休みはどうすんだ? すぐ実家帰るのか?」


ジョージと賢治は2人で話し始めていた。


「いえいえ。お盆に帰るんですけど、お金もないしバイトでもしようと思ってますよぉ」


「お、じゃぁうちでバイトするか? 夏限定で伊豆の温泉入り放題! 楽しい伊豆バイト旅行なんてのもあるぞ!?」


「なにその楽しそうな限定バイト! やります、やります! フェルマのバイトももちろんやります!」

賢治は大喜びだ。


「じゃあ、決まりだな!」


伊豆のバイト旅行は、僕とジョージにとっては毎年恒例の年中行事。フェルマの主と言われるおじいちゃん、一さんの別荘を大掃除するというバイトなんだ。


バイト代は決して多くないが、食費は全部一さん持ちだしなんたってバイトが早く終われば伊豆で遊べる特権付きだ! 僕は賢治の他にも井上にも声をかけることにしていた。


「はい、はい、はい! そのバイトって女の子はダメなんですかぁ!?」

賢治は急に跳ねながら小学生みたいに手を上げた。


「ダメなわけないだろぉ! もちろん女の子も大歓迎さ! もしかして賢ちゃんの彼女かぁ〜?」

急にニヤケ顔でテンションを上げるジョージ。


「彼女じゃないけど最近仲良くなった子なんですぅ〜♪ 人数必要ならあかねちゃんにも誰か誘ってもらいますね!」


僕はちょっと驚いていた。


賢治が誘いたいというのは3人トリオの一人、三田あかねという子。三田さんはちょっと派手目な僕の苦手なタイプなんだが、山峰さんと一番よく話している子だったんだ。


「3人トリオなら喜んで来てくれると思うんだ~♪」

賢治は嬉しそうにそう言った。 



「なんだ、うるさい3人トリオか……」

僕の上がりかけたテンションが一気に下がる。僕の口からは自然とため息が漏れた。


どうせなら山峰さんを誘ってほしかった。


ドスっ!! ジョージが僕の脇腹を小突いたんだ。

「何すんだよ、いってーなぁ!」


「女の子も一緒に温泉旅行かぁ。なんだか青春の匂いがするな♪ な、翔っ!!」 

僕の気も知らないで、能天気にニヤけるジョージ。



結局、伊豆バイトの女子メンバーは残念ながら仲良し3人トリオで即決。

三田さんは山峰さんにも声をかけたようだが、残念なことに用事があると断られたそうだ。


山峰さんとお近づきになれるかと一瞬期待してしまった僕。でもその期待も虚しく、彼女に会えない長い長い夏休みが始まった。

お読みいただきありがとうございます!


また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。


ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆


次話【 打ち合わせ 1 】 


[バイトを兼ねた伊豆への旅行。あまり興味をもてずにいた翔だったが打ち合わせではまさかの展開が待っていた!]


毎週水曜日 12時更新予定です。

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