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【 学年トップ 】

ずっと遠目から見守っていた桜並木の彼女と突然図書館で出逢った翔。山峰さんはなんと毎日同じ授業を受けていた大学の同級生だった。そして夏休みを目前に始まった中間テスト。非公開のはずの試験順位を偶然知った翔はそこに載っていた名簿の内容に驚きを隠せなかった。

桜並木の彼女が同級生だと発覚したあの日から、大学に行けば僕の目は彼女の姿を自然と追った。


意識してみると彼女は確かに同じ教室で授業を受けていた。

目が悪いのか授業中はいつもオシャレなふちの太い眼鏡をかけ、髪の毛をまとめ、多少雰囲気は変わるがどうして3か月も気づかなかったのか、僕は不思議でたまらなかった。


彼女はまじめに授業を受けていた。

彼女はいつも5人程のグル―プで行動していて、中でも山峰さんは特に控えめで大人しいほう。


グル―プの中に〝仲良し3人トリオ〟と呼ばれる特別元気で目立つ女の子達がいたせいで、僕は不覚にも彼女の存在に気づけなかったようだ。


そしてあっと言う間に時間は過ぎ中間テストが始まった。

テストは1日2、3教科ずつ。

でも5日間の試験は思っていたよりハードで、最終日にもなるとみんなの疲労はピークだった。


知識の詰め込みすぎでみんなの頭はオーバーヒート状態だ。




「あ――ダメだ! 俺、今の落とした!」

試験監督の先生が教室から出ていくや否や、井上はそう言って机に突っ伏した。


膨大な範囲から万遍なく出題される問題。

さすが大学の試験。一筋縄ではいかなかった。


一番厄介だったのは完全筆記問題。

黒板に書かれた単語についてただひたすら説明するというものだ。


単語を知っててもいざ説明しようとすると話は別。

しっかり理解し関連知識も持っていなければ全く歯が立たない。

出題者の意図をくみ取りつつ、しっかり医学的知識を持って回答しなければならないのだ。


「半分くらいは書けたと思うけど、厳しいなぁ――」

井上はうなだれた。


賢治はあまりの難しさに諦めたのか、賢治は休み時間中ずっといびきをかいて眠っていた。


キ―ンコ―ンカ―ンコ―ン。


「は――っ」

長かった5日間のテストが終わると、教室からはどこからともなく大きな大きなため息が漏れた。




翌日、僕らは学生課の前に貼りだされたテストの結果を見に行った。


「ダメだ、俺結構落とした。再試決定だ。翔はどう?」

悔しそうに言う井上。


「俺は再試免れたかな」

僕は全科目合格だ。


「さすがはク―ルボ―イ。俺の代わりに受けてほしいくらいだわ」

「バカ言うなよ」

僕の返事に井上は笑いながらため息を付いていた。


「ん? なあ、おい翔、これ見ろよ」

携帯をいじっていた井上が急に携帯の画面を僕に見せた。


それは今回の中間テスト成績表だった。

通常順位は非公開。

どこで見つけたのか、誰かがこっそり写真に撮ってばらまいたようだ。

上位十数名分のテストの結果が、成績順に名前や点数までばっちり写っていたのだ。


「全部合格してるのは20人くらいか。お! すげ―、翔、お前3位じゃん! 1位は山峰春花、2位が春谷すのたにだって」

井上は完全に面白がっていた。



「え? ちょっと見せて!」


山峰さんが1位!?

驚いたことにダントツで彼女が学年トップだったのだ。


今回の試験は自分なりにかなり気合を入れたつもりだった。

それこそ学年トップを狙うつもりだったんだ。

思わぬ形で露呈した順位。


山峰さんは学年トップ。 僕は3位。僕は何とも言えないショックを受けていた。


「それはさておき、問題は賢治だろ! あいつ絶対俺より落としてるはず! 俺ちょっと賢治の番号も見てくるわ!」

井上は嬉しそうに賢治の試験結果を見に掲示板の前に戻っていった。



「ちょっと翔! ありえない、ありえないって! 賢治の奴、全部受かってる!」

井上が血相を変えて戻ってきた。


「え? マジ?」 僕も心底驚いた。


賢治の奴は完全不真面目。授業も全く聞いていない。いつもバカみたいなことばかり言っているくせに、なんなく全科目に合格していた。

やはり賢治はある意味器用だ。認めたくないが頭がいい。


「くそ――っ。こういう奴って時々いるんだよな――。うらやましい奴」

井上がボソボソッと悔しそうに言った。


「そういえば、賢治来てないな」

賢治の奴、テスト結果に自信があってのん気にまだ寝てんのか?


「ちぇっ、再試俺だけかよ。翔はこの後どうすんの?」

「特に何もないからフェルマにでも行こうかな」

「好きだね、フェルマ。俺はさすがに再試の勉強するわ。じゃ、またな」

「井上頑張れよ! 再試に必要な資料があったら連絡しろよ!」


僕の言葉にうなずきながら井上はふてくされ顔で手続きのため込み合う学生課の中へ入っていった。



カランカラ―ン。


「お、翔、お帰り――。今日はやけに早いな」

ジョ―ジが言った。


「中間テスト終わったしもう夏休みだよ。1カ月、何しようかな―」

「1カ月? 1カ月も休めるのか? 学生様はうらやましいね―。社会人になったらそうは休めないからな」

ジョ―ジはうらやましそうな顔をした。


僕はとりあえず昼寝でもしようと2階の休憩室に上がった。


2階に上がって窓の外を見ると、なんと桜並木にはいつの間にか山峰さんの姿があった。


掲示板を見に行く前からずっと彼女の姿を探していたのに僕は見つけられなかったんだ。

ちょっとした時間差ですれ違っていたようだ。


外は夏真っ盛り。

窓を閉めていてもうるさいほどに蝉が合唱していた。

彼女は近所で飼われている気まぐれな猫を撫でていた。


少し窓を開けると生ぬるい風がわずかな隙間からなだれ込んだ。


時折、彼女にじゃれる猫の鳴き声が聞こえていた。

彼女は楽しそうに笑いながら猫と何か話しをしているようだった。


僕は彼女とクラスメイトでもなければ話しをしたこともなかった。

でもなぜか、少し仲良くなったような親近感を僕は勝手に持ち始めていた。


「彼女が学年トップか…」


聞き耳を立ててみると山峰さんの評判は自然と僕の耳にも入ってきていた。

かなり大人しいようだが性格もよく、あれだけ可愛くて頭もいいときた。

きっとモテに違いない、そう思った。


彼女も他の同級生同様、夏休みは実家に帰ったりするんだろうか。


これから長い長い夏休みが始まる。次に彼女を見るのは新学期だろうか。


約1か月、彼女に会えないのか…。

そう考えると、僕は少し寂しい気持ちになったんだ。


お読みいただきありがとうございます!




また、誤字報告をくださった皆さま、ありがとうございます。




ブックマークや評価、感想を頂けますと励みになりますので、どうぞよろしくお願いします.。.:*☆




次話【 夏休みの計画 】 

[中間試験が終わり翔たちは友達を集めてバイトを兼ねた伊豆への旅行を計画する]


毎週水曜日 12時更新予定です。

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