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口、滑らせて自爆して

「アッハッハッ! まさかシラユキがNPCから裏で天使って呼ばれてるとはな!」

「もう、ジンくんさっきから笑いすぎだよ! 呼ばれるこっちは、すごく恥ずかしいんだよ……!」


 街道に続く大通りで腹を抱えて大笑いしていると、シラユキが顔を真っ赤にしながらむぅと頬を膨らませる。


「悪い悪い。けど、町長から半分崇められてるのを見てたらな」


 脳内で蘇るのは、シラユキが白髪の天使と異名を付けられていることが発覚した後のマリオスの反応の変わり様だ。

 なんていうか、シラユキを見る目が神社とかでご利益のある物を前にした参拝客のそれになっていた。


 恐らく実行に移すことはまずないだろうが、お布施をお願いしたら、迷うことなく有り金ぶち込んでくれそうな雰囲気すらあった。


 なんでシラユキがそんな聖者みたいな扱いになってるのか原因は不明だが、まあ十中八九【アポロトシアから感謝を賜る者】が関係してることは容易に想像がつく。

 噂の出処もアポロトシアからのようだし、ほぼほぼ間違いないだろう。


 けど、どうして天使なんて大層な呼び方になったんだか。

 まあでも、NPCがそう呼びたくなる気持ちも分からんでもないが。


 攻略そっちのけに善意で片っ端からNPCの人助けをしていれば、NPC内からの評判は上がっていくだろうし、しかも回復術でNPCの怪我を治したこともあるって言ってたもんな。


 誰にでも手を差し伸べる優しい心を持ち、不思議な力で傷を癒すことのできる白髪の美少女――これだけの要素があれば天使と呼ぶには十分だ。


 もしこれでシラユキに天使の羽でも生えようものなら……、


「やべ、想像したらまた笑えてきた……」


 つい吹き出してしまった時だ。


「もう……ジンくんのばかっ!」


 シラユキが我慢の限界を迎えてしまった。

 怒鳴られ、そっぽを向かれてしまう。


 あ、やべ……しくった。

 これは間違いなく機嫌を損ねた。


「……すまん、悪気は無かったんだ」


 悟ってすぐに謝るも、シラユキはつんと澄ましたまま、こちらを振り向こうとはしなかった。


 ……うん、ちょっとからかい過ぎたな。


「その……アレだ。馬鹿にするつもりは一切なくてだな」

「…………」

「NPCがプレイヤー個人に対して異名をつけてることが面白かったっていうか……」

「………………」

「俺個人としては、シラユキが天使って呼ばれてることには納得してるっつーか、一定の理解を示せるっていうか——」

「……………………」


(——沈黙がクッソ重い……!!)


 普段、俺もシラユキも自分からよく喋るタイプではないから、会話がない状況が生まれるってことはそんなに珍しいことではない。

 けど、ここまで会話のキャッチボールが続かないのは初めてだ。


 内心、これまでにない焦燥感に駆られる。

 正直、経験の無いガバを本番でやらかすよりもずっと緊張が走っている。


(この状況、どうにかしねえと……)


「……寧ろ、天使って呼び名は似合ってると思う」

「…………」

「なんつーか、誰に対しても優しいところとか、困ってる人がいたら放っておけないくらいお人好しなところとか、他人が喜んでいることを自分のことのように喜べたり、泣けたりするところとか」

「……………………」

「あと天使って呼ばれてもおかしく無いくらい笑顔が可愛いところとか、そもそも俺が隣にいるのが勿体無いくらい綺麗なところとか……それと——」

「………………………………ねえ、ジンくん」


 ようやくシラユキが口を開いた。


「な、なんだ!?」

「恥ずかしくて私のメンタルが保ちそうにないので、これ以上は勘弁してください……!」


 言いながら、振り向いたシラユキの顔は、茹で上がったように赤くなっていた。

 さっきよりも酷く、首元もまでも赤く染まっていた。


 そして、ふと気づく。


 ——あれ、もしかして俺、とんでもないこと口走ってた?


 数秒前までの己の発言を振り返る。


 ——うん。


 それが勘違いでないことを確信し、


(あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!)


 堪らず、声にならない叫びを上げた。


 急激に顔が火照り、心臓が跳ね上がり、全身が一気に熱を帯びていく。


 穴があったら顔を突っ込みてえ。

 いや、自業自得だから四の五の言わずに受け入れろって話なんだけど。


 手のひらを額に押し付け、悶えていると、シラユキが見兼ねた様子で肩を竦め、ため息を吐いた。


「——もう怒ってないから気にしなくてもいいよ。でも、次からは気をつけてね」

「……ああ。もうシラユキが本気で嫌がることはしないよ。約束する」

「それと、今度は無理に褒めなくてもいいからね」

「——いや、無理はしてねえぞ」


 頭を振って即答する。

 それは違う、断じて。


「え……?」

「確かに色々口走ったけど、何一つ嘘は言ってない。俺は思っていたことを口にしただけだ」


 告げると、シラユキは呆気に取られたように口をパクパクと動かして、そのまま黙りこくってしまう。


「……ん、どうかしたか?」

「えっと……その、ちょっと信じられなくて」

「信じられないって何が……」

「さっき、ジンくんが言ってたこと」


 ——俺が言ってたこと?


「優しいとか、お人好しとか……」

「事実だろ」

「それと……か、か、可愛い、とか……」

「それも事実だ——あ」


 気づいてしまう。

 自分がべらべらと何を喋ってしまっていたかを。


 マジで何言ってんだ、俺は……!?

 こんなん口説いてるも同然じゃねえか……!!


 咄嗟に否定の言葉を吐き出しそうになるが、ぐっと抑えて飲み込む。

 否定したらシラユキに失礼だし、本心からの言葉だから嘘で塗り替えたくない。


 それに客観的に見てシラユキが美少女なのは確固たる事実だ。


 アバターじゃなくて、本人の話な。

 ——って、それこそ余計にアウトじゃねえか……!


「……ジンくん?」

「その……あれだ、アバターが可愛いって意味だ」

「だ、だよね……! 自分で言うのもどうかと思うけど、頑張って設定して作った自信作なんだ。ジンくんにも可愛いって思ってもらえて良かったよ」


 気を遣わせてしまってるとすぐに見抜けてしまうほどに、あからさまな空笑いを浮かべてシラユキは言う。


「特に白い瞳とか、この髪とか上手くできたと思うんだ……!」

「……そうだな。よく似合ってると思う」


 現実の白城の髪型はショートボブだが、シラユキの髪型はややロングよりのミディアムストレートだ。

 もしどっちが好みかと聞かれれば、俺だったら後者を選ぶ。


「けど……リアルのシラユキの髪も似合ってるぞ。それにほら、よく言うだろ。ショートが似合うのは美人の証だって」

「……あの、ジンくん。それってどういう……?」


 言って、フリーズするシラユキ。


「どういうって、どうもねえ——」


 言いかけて俺も固まる。


(結局、自分で墓穴掘ってどうすんだよ……!!)


 会話はここで途切れた。

 そして、互いに顔を合わせられぬまま、俺たちはビアノスを後にした。

クソボケですね。

救いようがないですね、はい。

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