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あまりにも虚無な世界救済物語の道中

新章ですが、冒頭は以前と同じです。(一応、推敲はしてます…)


「――退魔の聖剣? そんなもの儂は知らん」


 太々しい態度で老人が一蹴すると、金髪の少女と精悍な顔つきの大男が顔を強張らせる。


「そんな……!? では、私たちは何のためにここまで!?」

「なあ、じいさん。魔族に関して知ってることはないのか?」

「知ってることと言われてもな……そうじゃ、大賢者ユグドラシルなら何か知ってるやもしれぬ」


 言って、老人は近くにある棚から地図を取り出し、テーブルの上に広げてみせる。


「ユグドラシルは、ここから北西にある大森林の中に暮らしておる。彼奴は五十年前に侵攻してきた魔族を退けた六英雄の唯一の生き残り。もし気になるなら、奴の元を訪ねてみるといい」

「あ……ありがとうございます、博士!」

「よし、そうとなれば、()! 早速、大森林に出発して大賢者様とやらに会いに行こうぜ!」

「あいよ」


 よし、もう動いて良さそうだな。

 今のタイムは『20:47』——まずまずってところか。






 何度かマップの切り替えを挟みながら森の中を駆け抜けること数分。

 遠くにこじんまりとした家屋が見えたところで、上空から突如として黒い影が俺らの前に立ちはだかる。


 ガーゴイル。

 猛禽類を彷彿とさせる人型の魔物だ。


「ヒャッハー! お前らが魔王様が言っていた勇者いっこゔぇあはあああっ!?」

「はい、ここは不意打ちで戦闘を終わらせてイベントスキーップ」


 言い終わるよりも先に、俺は魔物の顔面に飛び蹴りをぶちかます。

 ブッ飛ばされた魔物が地面を転がり、程なくして消滅するのを横目にダッシュで家屋へと向かう。


(……確かあそこはアイテムだけ回収すれば良かったんだっけな)


 家の前に辿り着き、勢いよくドアを開ける。

 そこには如何にも魔法使いのような格好をした老人が、禍々しいデザインのゴツい剣によって背中を貫かれ、床に倒れていた。


 もう既に絶命しており、老人の周りには大量の血が流れ出ている。


 まあ、ポリゴンが粗いからリアリティはあんまないんだけど。


「なんか殺害されてるけど、このじいさんの背中に刺さっている剣と机に収納されている宝珠を回収すればイベントフラグが建つから……はい、オッケー。これで今から発生するムービーは無視して大丈夫なんで、さっきの老人とこにダッシュで帰りまーす」


 隣では少女と大男が殺害された老人を見て顔を真っ青にしているが、マップが切り替われば何事もなかったかのように俺の隣にワープしているから何も問題はない。

 それより、さっさと博士のとこに戻ってストーリーを進行させねえと。






 さっきの博士と呼ばれた老人に魔剣らしき物(ガチで魔剣)と宝珠を見せ、また少女と大男と三人で会話を繰り広げている光景を尻目に、コメント欄を開いてみる。


(うわ、すげ……何個か質問がきてるな)


 しかもアクティブ視聴者数が二桁に乗ってやがる。

 これが真っ黒サムネと日付タイトルから脱却した効果ってやつか……。


 まだ会話が終わるまでちょっと時間があるし、今のうちにコメントを幾つかピックアップして返していくか。


「『何このクソゲー?』――これは”Hope of Dawn”っていうVRゲー初期に出てきたRPG。操作性とかはそれなりなんだけど、見ての通りストーリーの中身が無さすぎて、確かレビュー評価は2.……いや1——幾つだったかな? とりあえず、そんくらいのクソゲー」


 勿論、これは親父が持っているゲームだ。

 かなり前に中古屋で買ってきて、すげえニッコニコで感想を語ってたからどんなもんかと思って借りてみたら、案の定クッソつまんなくて逆に笑えたわ。


 通常プレイではって枕詞がつくけど。


 何故かRTAにすると、難易度が低くて初心者にもおすすめの良タイトルになるんだよな。


「『蹴り技強すぎて草』――そうなんだよ。このゲーム、ダメージ計算がなんか知らんけどバグってて蹴りでの攻撃倍率がクッソ高くなってんだよね。どれくらい高いかっていうと、ネタバレになるんだけど今、あの老人に渡した魔剣が実は聖剣で最終武器になるんだけど、それよりも蹴りの方がダメージが出るレベル。だから武器は最後まで今装備している木刀になります」


 ついでに言うと何故か素早さが高くなれば高くなるほど、蹴りでの会心率と会心倍率も上がっていく謎仕様付き。

 ドーピングアイテムはあともう少しすれば無限に入手できるから、そこで素早さをガンガンに上げて蹴り技をぶっ放せばラスボスすらワンパン可能になる。


 時代はもう『レベルを上げて物理で殴れ』ではなく、『素早さ上げて蹴り飛ばせ』だ。

 まあその時代も一瞬で終わったんだけど。


 ……いや、そもそも時代が来てすらいねえか。


「もうちょっとで会話終わるから、あともうひとつくらいにしとくか。えっと……『久しぶりに配信したと思ったら、なんで変なゲームで走ってるの? 主は馬鹿なの?』――っておい、またお前かエムエム!? いつも一言余計だっての!」


 辛辣なコメントを残したのはM.M。

 俺の配信の数少ない登録者の一人で、なんか来る度に毒舌コメントをしてくるのに、結構な頻度で配信は観に来るよく分かんねえ奴だ。


 一切コメント欄を荒らしたりしないし、他のリスナーと衝突することも無いからアンチではないのは確かだが、とはいえ毎回残すコメントにトゲがあるのはどうにかして欲しいとは思ってる。


「……まあ、質問に答えるけど、久しぶりの配信だからリハビリがてら気軽に走れるやつにしたかったんだよ。あと個人的な事情で蹴り技の練習も兼ねてるってのもある」


 ——悪樓騒動が終わってから一夜明け、俺は久しぶりにRTA配信を行っていた。

 本当は何日か前には既にRTA熱は復活してたけど、悪樓のゴタゴタが発生したせいで配信をしている余裕が無かったから今日まで配信が出来ずにいたって感じだ。


 久しぶりの配信なのに走るタイトルがクソゲーなのはどうかとは自分でも思うが、意外にもこれがアルクエに繋がっているんだからしょうがない。

 しかも何気に難易度も丁度いいというおまけ付きだ。


 こんな感じでエムエムの質問に答えたところで、外から獣の雄叫びのようなものが聞こえて来た。

 敵襲だ。窓の外に視線をやると、狼のような獣人型の魔物と取り巻きの魔獣が家の前で待ち構えていた。


「――っと、敵が来たみたいだからコメント返しは一旦ここまでな!」


 すぐさま外に飛び出して、雄叫びを上げた魔物の元へ一気に距離を詰める。


「下等な人間どもよ! 我ら魔族の奴隷となゔぇあはっ!!?」

「さっきもそうだったけど、この手のムービーは倒してしまえばスキップできるから、話を聞かずにぶちのめすのが正解。このゲームに関しては、対話より蹴り技が正義だ」


 現在タイムは『32:17』――このペースなら『1:10:00』切りは狙えるかもな。


 森での戦闘と同様、俺は獣人の魔物を飛び蹴りでブッ飛ばした後、取り巻きの魔獣達には回し蹴りを叩き込み瞬殺するのだった。

『Hope of Dawn』

 「世界に希望の夜明けを」をキャッチコピーに、フルダイブ型VR黎明期に発売された”超本格的王道RPG”。実際は、最初から最後までたらい回しとお使いイベントで世界をぐるぐるとするだけの虚無ゲー。伏線らしきものは色々と撒かれてはいるが、一切の回収はない。道中に立ちはだかる問題は解決しているようで解決していない。ラスボスは一切の情報も無いままいきなり出て、よく分からないまま倒されて消えていく……etc.といったように、ストーリーはあまりに酷い出来となっている。

 一方、操作性は悪く無いので戦闘をする分には一定のクオリティは保たれている。ただし、まともな戦闘ができるかどうかは別の話。

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