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雄飛する新参 -5-

「おいおい、嘘だろ……。ここに来てまさかの第二形態かよ。しかも空を飛ぶとか流石に冗談キツいぜ」


 これじゃあ、俺の攻撃手段が無くなるじゃねえか。


 とはいえ、こうなることが全く予期できてなかったかというと、決してそうではない。


 ビアノスの町長マリオスは、確かに悪樓のことを竜魚と呼称していた。

 あの時は、あいつに竜要素なんてあったかくらいに流していたが、思えばあれが第一のヒントだったというわけだ。


 鯉の滝登りなんて言葉があるように、魚から竜に成るというのは、ファンタジー作品では多く取り入れられているアイデアだ。

 今回の場合、そのまんま魚と滝が出てきてるわけではないが、悪樓……いやその前身の壊邪理水魚が鯉、ネロデウスの呪いとプレイヤーとの戦闘が滝に置き換えられるか。


 それに町長から受けたクエストの名称は『渓谷に巣食う黒の竜魚』——ここにもバッチリ竜魚のワードが出てきていた。


「チッ、しくったな……。別れる前に町長から竜魚についてもっと詳しく話を聞いとくべきだったか」


 もしかしたら第二形態が存在するヒントを教えてもらえたかもしれないし。


 今頃になって悔やまれるが、もう後の祭りだ。

 だが、それよりもまず考えなければならないのは、上空に浮かぶあいつとどう戦えばいいのか、その対策を早急に立てることだ。


「おーおー、姿が変わっちゃったよ! 見事に初見殺しにかかってるね〜!」


 目を輝かせて頭上を見上げ、意気揚々とクロスボウに矢をセットするモナカ。

 対してシラユキはというと、悪樓のいきなりの形態変化に狼狽し、動揺を隠せずにいた。


「え、え……空、飛んで……? ど、どうしよう……!?」

「落ち着け。想定外の事態にはなっちまったが、別に詰んだわけじゃない」


 言いながら、シラユキの背中をポンと叩く。


「ジンくん……」

「大丈夫だ。冷静に対処すれば、まだいくらでもやりようはある。それに、空中にいるボスを相手にするのは、これが初めてじゃないだろ?」


 思い出すのは、ドン・ヴァルチャー戦。

 今とは敵の強さも状況も全然異なるが、根本的にやることは一緒だ。


「それに前と違って、空を飛ばれても攻撃できる奴が二人もいる。そう考えれば、ちょっとは気が楽になるんじゃねえか?」

「……うん、そうだね」


 シラユキは柔らかく微笑んだ。

 それからそっと胸に手を当て、ゆっくりと深呼吸をする。

 吸って、吐いてを何度か繰り返したところで、ようやく平静を取り戻した。


 ——よし、これで問題なさそうだな。


「さてさて、これからどうしよっか?」

「とりあえず……俺以外はさっきと同じ立ち回りを継続で頼む。その間、俺はシラユキの護衛に付きつつ、奴の行動を観察する」


 まず何をするにも情報収集だ。

 速攻で悪樓の動きを把握して、打開策を見出す。


「そだね。このまま上にいられると、ぬしっちお荷物状態になっちゃうし」

「お荷物言うな。いや、実際そうだけど」


 とはいえ、少しは攻撃に参加してダメージを稼いでおきたいから、左手の装備をオークの石槍に変更しておく。

 攻撃力は低いし、残数も多くないから、気休め程度のダメージにしかならないだろうが、隙を見てストレートジャベリンをぶっ放すつもりだ。


 ついでに右手の装備も雷牙の盾に戻しとくか。

 ないだろうけど、ちょっとした壁タンクもどきができるかもだし。


 それと俺らの状況も整理する必要もあるな。

 少なくとも、戦闘用アイテムの残数は知っておくべきだ。


「ところでモナカ、あと麻痺矢はどれくらい残ってる?」

「まだまだあるよ☆ ……でも、多分耐性が上がってることを考えると、麻痺にできるのは、あと一回が限度かな〜」

「あと一回……まあ、読み通りではあるか。だったらまだ温存しといた方が良さそうだな。……そういや、他に有効そうな状態異常は無かったんだよな?」

「それな。毒は効いたけど、すぐに解除されちゃったし、眠りは完全耐性持ち。他も微妙だったよ」

「そうか。となると、状態異常にはあんま頼れなさそうだな」


 けどまあ、麻痺がまだ有効そうってのはせめてもの救いではあるか。

 動きを止められれば、何か形勢を覆す一手を打てるかもしれないしな。


「朧、爆弾はまだ残ってるか?」

「うん。ひだりさんがたくさん作ってくれたおかげでね」

「オーケー。……ちなみに無理を承知で訊くが、ここから上にいるあいつに向かって投げて、確実に当てられる自信はあるか?」

「どうだろう……? 動き回られなきゃ大丈夫だと思うけど……」

「それなら確実に当てられるってタイミングの時だけ爆弾で、それ以外はスキルのリキャストが終わってなくてもいいからブーメランを常に投げ続けてくれ」


 現状、俺がお荷物状態になっている間は、朧がどれだけ攻撃に参加できるが重要になってくる。


 悪樓がこのまま空中に留まり続けられると厄介極まりないが、そうなると代わりに近接攻撃を仕掛けてくる可能性は低くなるとも捉えられる。

 それであれば、朧なら攻撃しながらでもきっちり避けられるはずだ。


 降りて来てくれたら俺の攻撃チャンスになるから、それはそれで助かるけどな。


「あとは……ああ、そうだ。シラユキ、朧にも攻撃バフをかけておいてくれ」

「うん、分かった」


 シラユキは頷くと、すぐにシャープネスの発動準備に入る。


「——よし、それじゃあ戦闘再開と行こうか。悪いが少しの間、攻撃は任せたぞ」

「もちもちりょけまる! けど、あんまりゆっくりしてると、ぬしっちの出番なくなっちゃうから早めにね! じゃあ行ってくるねー!」


 モナカはブンブンと大きく手を振ると、定位置に向かいながら上空に向かって矢を撃ち始めた。


「朧も初見対応になってすまないが、またしばらく囮役を頼む。でも、キツくなったら遠慮なくモナカに押し付けても大丈夫だからな」

「あはは……上手くできる自信はないけど、なんとかしてみせるよ」


 苦笑を交えながらも特に動揺する素振りを見せず、朧もさっきの持ち場に戻っていく。


 モナカは言わずもがな、朧に関しても何も心配せずとも大丈夫そうだな。

 あとは——、


「……シラユキはいつも通りでいい。それで十分だ」


 シャープネスの発動を終えたばかりのシラユキに声を掛ける。

 シラユキはどこか胸を撫で下ろすように笑みをこぼすと、そのまま次の術式の発動準備に入った。


(さてと、他に負担をかけてる分、俺もさっさと打開策を見つけないと……だよな)


 意識を悪樓に集中させ、奴がどんな行動を取るか観察を始める。


 こうして第二ラウンドの火蓋が切って落とされたわけだが、開始から数十秒ほどが経過した時だ。

 異変はボスフロアの外側で起きた。


 ボスフロアを取り囲むようにして計八つ、突如として川面から水柱が激しい勢いで噴き上がった。


「……は?」


 突然のギミックの発生に気を取られたのも束の間、それぞれの水柱から高圧の水弾がほぼ一斉に放たれ、ランダムで俺たちに襲いかかるのだった。


「今度はステージギミックも出てくるのかよ!」

敵は上空に居座り続け、フロア周辺からは攻撃が飛んでくる。

うーん、このクソギミック()


水柱が飛び出してきたのは、第二形態になったことで水属性の魔力を操る能力が飛躍的に向上した為です。その為、周囲が川に囲まれたボスフロアは悪樓にとって絶好の狩場でもあります。

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