表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/188

秘密兵器と完走する周回

 宿屋から場所は変わり、アトノス街道。

 対悪樓装備を作るということでライトとは一度別れ、クァール教官の周回に向かう途中のことだ。


「それじゃあ、いっきまーす!」


 ひだりがインベントリから手のひら大の紫の球体を取り出すと、街道沿いに出現していたウルフの群れに狙いを定め、投げつけた。


 球体は緩く弧を描き、ウルフの間に着弾する。

 刹那——切り裂くような轟音と共に、地面ごと焼き焦がすほどの強烈な電撃が周囲に迸った。


「……は?」


 一撃だった。

 数秒にも満たないエフェクトの後、放たれた紫電が散る頃には、ウルフは一匹残らず黒焦げになり即座にポリゴンへと散っていた。


「うっわ……何このバ火力。えげつな」


 想像以上の威力に驚きを隠せずにいると、()()()()()()()()()()()ひだりが鼻高々に胸を張る。


「ふふん、どうだ見たかー!? これが朧さんの攻撃力を補う秘密兵器”ライトニングボム”だよ!」

「いや、これ……朧どころか全員分の火力を補えるぞ」


 今、ひだりが放り投げたアイテムは、生産職の一つである作製師系統が持つジョブスキルによって作られたものだ。


 ワンパンだったから断定はできないが、今の一撃はリリジャス・レイに追随する威力があったように見える。

 つまり、これ一個使うだけで中位術式一発分のダメージを手軽に叩き出せるということだ。


 こんなのポンポン使われたら、魔法職涙目じゃねえか。


 とはいえ、攻撃アイテムもそんなに都合の良いものでも無いらしい。


「……で、これを作る為には、クァール教官のレアドロ素材が必要だと」

「そういうこと! 正確に言うと相応に強くて雷属性の魔核をドロップするエネミーなら何でもいいんだけど、この辺だと教官からしかドロップしないからね」

「なるほどな。そう簡単に量産体制には入らせてくれないってわけか」


 ひだり曰く、ついさっき使ったライトニングボムだけでなく、他の攻撃アイテムも共通して作成するには、エネミーのレア素材である魔核を要求されることが大半とのことだ。


 術式一発分の攻撃をぶっ放すのにレア素材+αが必要と考えると、そんなにコスパが良いとは言えないか。

 だが今回は採算度外視——宵越しの金は持たねえってわけじゃねえが、クァール周回で得た魔核は、一つ残らず全てライトニングボムの作成に注ぎ込むつもりだ。


 これで一パーセントでも勝ち筋を増やせるのなら、これくらい安いもんだ。


「じゃあ、デモンストレーションも済んだことだし、アタシは一度街に戻るね! たまに素材回収に来るからよろしくねー!」

「ああ、よろしく頼む」


 そして、大きく手を振って街へと走っていくひだりを見送り、俺らはパスビギン森林へと移動を再開するのだった。






 前衛一人、中衛二人、後衛一人とバランスよく整った構成。

 全身が数段単位で一気に充実化に成功した装備。

 オーバーレベルかつ、何度も戦ってきたことによって行動パターンが頭に叩き込まれた今、クァール教官の討伐は本当にただの周回行為と化していた。


 そして――昨夜から長く続いた周回もこれで終わりを迎える。


「――シャープネス!!」


 戦闘開始直後、シラユキのSTRを上昇させるアーツスキルにより、俺の身体を一瞬だけ赤い光が包みこむ。

 身体の奥底から力が漲るような感覚を覚えると同時にストレートジャベリンを発動——聖黒銀の槍をクァール教官に投げ放つ。


 よし、怯み取った!

 ここは一気に詰める!


「おい、反応が遅ぇぞ!! もっとまともな反応できねえのか!!」


 先制攻撃で発生させた怯みが解除させる瞬間、挑発で視線を誘導。

 行動を起こされる前に、未だにクァール教官の肩辺りに突き刺さった聖黒銀の槍をパワーキックで更に押し込む。


 槍が更に肉体を穿ったことでクァール教官が悲痛な咆哮を上げた。


 更なる怯みを発生させたのを確認して俺は、装備を聖黒銀の槍からアイアンソードに変更する。


 突き刺さった槍が消失し、左手に剣が収まる僅かな時間に教官の頭部を狙ってシールドバッシュを発動。

 続けてトリプルスラッシュでダメージを稼ぎ、間髪入れずに素の盾殴りを叩き込むことでスタン値を調整していく。


 並行して教官の左方向に回り込んだモナカが絶え間なく援護射撃を行い、ダメージを更に稼いでくれているのだが、近接戦闘中に矢が飛んでくるってのは正直、ちょっと肝が冷える。


 いや、あいつのエイム力なら事故らないと信頼しているが、このゲーム当たり前のようにフレンドリーファイアが発生するのにビビらずにいろってのが無理な話だろ。

 まあ、周回も繰り返しているうちにもう大分慣れはしたけどさ。


 ……つーか、あいつもあいつでよくこうもバンバン矢を撃ちまくれるよな。

 パーティーメンバーだろうと誤射で死亡させたらPK扱いになるってのに。


 だが、そのおかげで面白いように怯みが入る入る。

 本来の想定よりも威力の高い攻撃を立て続けに浴びせられているっていうのもあるんだろうが、頻度が高過ぎてもはや一種のハメ技と呼んでも差し支えないレベルだ。


「――シラユキ、朧! 打ち上げるぞ!」


 そんなこんなで斬撃と殴打の連続攻撃を叩き込み、体感あと一、二発ぶん殴ればスタンにさせられるであろうところで、俺はシラユキと朧に向かって叫ぶ。

 スタンにさせるだけならこんなことする必要がないが、これはタイミングが重要になってくるからな。


 盾の持ち方を変え、バリアーナックルをぶちかますと、予想通りに教官がスタン状態に陥る。

 あとはスタンが解けるまで袋叩きに――いや、ここで決着をつける!


 再びメニューを高速操作し、左手の装備を聖黒銀の槍に変更しつつ、右手の盾を通常の持ち方に戻す。

 そして、ほぼ地面に這い蹲るレベルに身を屈めた状態からクァール教官の腹部を狙ってハードアッパーを繰り出した。


「ぶっ飛びやがれ、オラァ!!!」


 パーティーを組んで戦っているとはいえど、敵が大型でもない限り、戦闘の基本は一対一のタイマンだ。

 誤射によるフレンドリーファイアがあるように、味方同士が密着しながら戦うことでも攻撃を間違って当ててしまう可能性が出てくるからだ。


 今は前衛が俺一人だけだからそのような事態にはならないが、そうなると別の問題が発生する。

 後衛が一斉攻撃を仕掛けようとした場合、そいつに巻き込まれやすくなることだ。


 当然のことではあるが後衛っていうのは、規模に大なり小なりあれど攻撃手段はほぼほぼ飛び道具によるものだ。

 今回で言えばシラユキの術式、朧の投刃、モナカの矢――もしそいつが三方向から一斉に飛んできたとして、攻撃の中心地に俺が立っていたらどうなるかなんて、深く考えずとも大方予想がつく。


 ……一応、対処しようと思えばどうにかならんわけでもないが、仮に俺が構わなかったとしても引き金を引く側が何の躊躇もせずにいられるかと言われると、必ずしもそうではないだろう。

 あ、モナカは例外な。


 ともかく何が言いたいかと言うと、一斉射撃をしようにも巻き込みを防止するために、退避に数秒割かなきゃならないってことだ。

 たった数秒、それで確実な安全性が確保できるのであれば、無難に退避するのがベターではある。


 だが……たかが数秒、されど数秒だ。

 その僅かな時間を削ることが戦局を大きく左右する。


「シラユキ、朧!! 今だ!!」

「うん――リリジャス・レイ!!」

「了解!」


 レベルアップとPPによって上昇した基礎ステータスとアーツスキルによる威力の補正、それとシラユキがかけたバフで底上げされたSTR。

 加えてスタンによって無防備になった状態が重なったことで、今繰り出したハードアッパーは、クァール教官を宙に打ち上げることを可能としていた。


 ――攻撃に巻き込まれてしまうのなら、巻き込まれない場所に敵を動かしてしまえばいい。


 瞬間、クァール教官に向かって朱色のエフェクトがかかったブーメラン、白いエフェクトがかけられた三本の矢、それと荒ぶる光の奔流が一斉に襲い掛かる。

 完全な袋叩きにちょっとだけ同情を覚えるが、それはそれ、これはこれ。


 俺はリキャストが終わったばかりのストレートジャベリンをぶっ放し、クァール教官に追い討ちをかける……が、まだHPを削り切れていなかった。


「チッ、まだ足りねえか。これでいけると思ったんだけどな」


 だったら……!

 クァール教官が自由落下を始めるよりも先に駆け出し、落下地点に到達した所で、更に追撃のシールドバッシュの構えを取る。


 そして、とどめの一撃となる盾が教官の顔面を捉えると同時に、後方から飛んできた蝸旋エフェクトがかかった矢が教官の胴体を貫き、蒼のエフェクトがかかったブーメランが教官の背中を切り裂いた。


「うおっ、あっぶね!!?」


 今のかなりスレスレっつーか、下手すりゃどっちも当たってたぞ!


「ご、ごめん! まだ倒せてなかったらからつい!」

「オボロンと同じく! いやー、ごめんごめん!」


 すぐさま後ろ振り返れば、モナカと朧も同じように若干顔を引き攣らせていた。

 どうやらさっきのでとどめを刺せなかったのを見て、すぐさま攻撃を畳み掛けにいったタイミングが俺と重なってしまったようだ。


「いや、大丈夫だ。悪い、俺も考えなしに凸り過ぎた」


 今のはかなりヒヤッとしたが、まあ無事に終わったし良しとするか。


 前方に視線を戻すと、今度こそHPの尽きたクァール教官が光の粒子となって消滅を始めていた。

 傍らではバトルリザルトが出現し、ドロップアイテムの中に”雷豹の魔核”があることを確認する。


「……よし、魔核ゲット。ラストでドロップとは運がいいな。それはそうと……モナカ、レベルは上がったか?」

「うん、ばっちし! これで私もレベル30〜! いえーい☆」


 親指を立ててからウィンク+ピースサインをするモナカを横目に、教官の倒れていた場所に転がっている聖黒銀の槍を拾い上げる。


「ならよし。んじゃ、ビアノスに戻るとするか」


 そして、フロアを出る直前、俺は最後に心の中で彼に敬礼をするのだった。

左右兄妹はどちらも生産職でありながら、二人だけで大陸を踏破しています。

ちなみに基本職のプレイヤーもライトニングボムは生産できますが、ひだりが作った物ほど性能は高くないです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ