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一同、集結して

 帰宅後、カロリバーと飲料ゼリーで軽い栄養補給だけ済ませてからログインし、ロビーに降りたすぐのことだ。

 近くにいたプレイヤーが訝しげに何かを遠巻きから眺めていたので、視線の先を追ってみると、


「……おい、何でもうあの二人が一緒にいんだよ?」


 見覚えのある鈍色の竜人とピンクのネコ耳少女の姿があった。


 よく見れば、他のプレイヤーも通り際にちらちらと二人に横目をやっている。

 まあ、理由は聞かずともなんとなく分かる。


 なんだかんだ目立つもんな、あの二人。

 どちらもアバターを亜人族にしているっていうのもそうだが、加えて格好が初期装備である村人三点セットとなれば尚更だ。


 俺だって何も知らないでこの場に居合わせたら二度見すると思う。


「——あ、ぬしっちだ! ヤッホー、こっちこっち!」


 声をかけるより先にモナカが俺の存在に気づき、ぶんぶんと大きく手を振る。

 隣にいる朧は少し遅れて控えめに手を挙げていた。


「やあ、ジンム君。今日もよろしくね」

「ああ、こっちこそよろしくな。……つーか、何で朧とモナカが一緒にいんの。まだ面識無かったはずだろ?」

「オボロンはそうかもだけど、アタシはぬしっちと一緒にいるところを見てたからね。ちょっと前に偶然見かけて声をかけたんだ」

「なるほどな」


 それなら納得はいく。

 だからって知り合いの知り合いに自分から飛び込んで話しかけに行くってのは、やろうと思っても中々できることではないけど。


 これが有名プロストリーマーのコミュ力というやつか。

 ……いや、これに関しては単純にモナカ本人の気質によるものだろうな。


 にしても……スルーしてたけど今、朧のことオボロンって呼んでたよな。

 もしかして親しくなった相手のことはあだ名で呼ぶタイプか。


 そういえば、ひだりのこともいつの間にか”だりー”って呼んでたし、この感じだともうライトの呼び方も変わってる可能性は高そうだな。


 などと考えていた時だ。


「おーい、モナにゃん、ジンムー!」

「あっ、だりー! それとライライもヤッホー!」


 ふと背後から聞こえてきたのは、ひだりの声。

 振り返れば、後ろにライトを連れてこちらに向かって歩いてきていた。


 というか、やっぱライトの呼び方も変わってたか。


「ジンムくん、あの二人は……?」

「ライトとひだり。ほら昨日、ちらっと話に出した俺らの協力者だ」

「……ああ、あの二人がそうなんだ」


 呟きながら朧は、興味深げに双子を見つめる。

 朧からすれば完全に初対面の相手だし、ここらではまず見かけることのない装備を身に着けていれば、そうなるのも理解できる。


 これで残るは……と、来たか。


 ジャストタイミング。

 階段に視線をやれば、パタパタと駆け降りるシラユキの姿が見えた。


「——すみません、お待たせしました!」

「いや、俺らも丁度来たところだ」


 遂に役者が全員出揃ったか。

 密かに俺は思う。


 昨日の今頃は、仲間を集められるかどうかすら怪しい状態だったことを考えると、ちょっとだけ感慨にふけそうになる。

 ここに集結してくれた五人を見回して、ようやくスタートラインに立てたような気がした。




「アタシがひだりでこっちはライト。今回、裏方で協力するからよろしくね」

「ライトだ。困ったことがあったらなんでも聞いてくれ。力になる」

「うん、こちらこそよろしく」


 一方では左右兄妹と朧が、


「初めまして、モナカだよ! 気軽にモナにゃんって呼んでね☆」

「シラユキです。よろしくお願いします、モナカ……えっと、モナにゃんさん」


 もう一方ではモナカとシラユキと、今しがた顔合わせした者同士で自己紹介を済ませる。


 ライト達はすぐに何事もなく打ち解けたようだが、シラユキはモナカの圧に押されてか、若干曖昧な笑みを浮かべていた。


 でもまあ、時間の問題ではあるか。

 じきに慣れるだろうが、助け舟は出しとくとしよう。


「シラユキ、無理にモナにゃん呼びする必要は無いと思うぞ」

「ジンくん。そう……かな?」

「ああ。だろ?」


 モナカに促せば、


「うん、シラユキちゃんの好きな呼び方で大丈夫だよ! 代わりにアタシも好きな呼び方に変えていい?」

「はい、どうぞ。じゃあ……改めてよろしくお願いしますね、モナカさん」

「こっちこそよろしく、ユキりん!」


 本当にあだ名で呼ぶの好きだな。

 内心、苦笑をこぼしていると、モナカがにまにまと目を細めてこっちに近づいてきた。


 うっわ……なんかダルい予感がするんだけど。


「ジンくん、ねえ。随分と仲が良さそうじゃないかぁ、ぬしっちぃ?」

「そりゃリアフレだからな」

「ぬしっち、リアルにお友達いたんだ……!」

「……おい、俺をなんだと思ってる?」


 俺だって友人の一人や二人くらい……あれ、いねえな?


 ざっと思い返してみるも、どいつも知人以上友達未満って奴ばかりだ。

 それこそ気兼ねなく接してくれる相手といえばシラユキくらいなもので、物凄く、物凄く癪ではあるがモナカの印象は的中している。


 なので何も反論できずにいると、それを察したモナカは、俺の肩にポンと手を乗せて言う。


「折角のお友達なんだし、大切にしなきゃダメだよ?」


 俺にだけ聞こえる程度の小さな声だった。


「……分かってる」


 向こうからすれば何の気なしに口にした言葉なんだろうが、それがやけに胸にチクリと突き刺さった。




 ここで一度、簡潔にではあるが、現状の俺らの戦力を確認しよう。


 まずは俺から。

 パーティー唯一の前衛アタッカーで主に近接でのDPS担当し、サブで避けタンクとかスタン要因も兼任。

 つまりは何でも屋ってところだな。

 呪獣転侵(自爆装置)の暴発タイミングによって即座に詰む可能性があるので、自分で言うことではないが、ある種一番の地雷枠だ。


 シラユキ。

 パーティー唯一の魔法職で今回のレイド戦の要。

 本来の役割はヒーラーだが、面子的に回復にリソースを割いてる余裕がないので今回限りはそれを封印してもらって、最強の固定砲台として一番のダメージ源になってもらう予定。

 シラユキがどれだけ短い間隔で術を回し続けられるかが短時間撃破の鍵となる。


 朧。

 村人で均等振りという汎用性の塊みたいなビルドと役割を持たせづらいが、持ち前の回避力を生かして、今回は避けタンクをメインにやってもらう。

 レイドボス相手に全避けしてもらう前提で動いてもらうのは酷だが、そうでもしないと勝てないから仕方ない。

 とはいえ、戦った限り変なギミックは無かったから、なんとかなるとは思う。


 そしてモナカ。

 メインは遠隔攻撃を主体としたDPS担当だが、サブで避けタンクと状態異常を付与する矢を使って補助役もこなしてもらう。

 まあ言ってしまえば何でも屋その2だ。

 俺と同じで過労枠になるだろうが、モナカならどうにかするだろ。


(……とまあ、こんな感じか)


 振り返って改めて思うが、希望的観測込みでどうにか最低限揃っているというレベルでしかないっていうのが正直な感想だ。

 だが、これ以上の戦力の増加は望めないし、増やすつもりもない。


 下手に頭数を増やすのは却って悪手になりかねないし、呪獣転侵の存在を可能な限り伏せる以上、元より少数精鋭でやるって決めてたからな。

 だからやるとすれば、一人一人の戦力の底上げになるだろう。


 じゃあ、具体的に何を底上げする必要があるかと言えば、


「……やっぱ火力だよなあ」

「そうだな。全員に言えることではあるが、特に朧さんの火力を上げていきたいところだ」

「確かにそうだけど、何か手はあんの?」


 装備を新調したり、これからレベルアップで得たPPを全てSTRに割いたとしても、はっきり言って焼け石に水でしかない。

 元々ブーメランという武器は、汎用性に重きを置いてるからか短剣並みの攻撃力で且つ手数を稼げるわけでもないし、これから割り振れるPPもそんなに多くはない。


 しかし、ライトは力強く頷きながら断言する。


「——ある。武器やステータスに依存しない秘密兵器がな」


 そして、視線を隣にいるひだりに向けるのだった。

全員が平日の昼間からログインできている理由

主人公、ヒロインちゃん、双子(高校生組):今日が終業式のため

朧:大学の春休み期間中

モナカ:ニート

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