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思考、巡らせて

「いいか、お前ら。明日から春休みなわけだが――」


 三学期最後の登校日、帰りのHR。

 担任から今年一年を締め括る有り難きお言葉をテキトーに聞き流し、悪樓討伐に向けたチャートを脳内で組み立てていた。


(さてと、どこから考えたものか……)


 とりあえず現段階で言えることとして、俺らが昨夜のレイドパーティー2組がやっていたようなやり方で戦ったら、まず十中八九負けるだろう。

 四人という少人数で戦わなきゃならない以上、単純にDPS、タンク、ヒーラーと割り当てられた役割をこなすだけだと、圧倒的に火力は足りなくなるし、その内ヘイト管理しきれなくなるのも目に見えているからだ。


 一人一役ではまず無理。

 全員が複数のロールを兼任して戦う必要がある。


 となると、全員が攻撃に参加するのは当然として、問題はタンク役——というよりメンツ的には囮役と言った方が合ってるか——をどうするかだ。


 悪樓の攻撃を避けられるかどうか以前に、挑発でタゲ集中を取れる時間に限りがある以上、一人で攻撃を一手に引き受け続けるのは不可能だと思った方がいい。

 ただ、これに関しては一応策を考えてはある。

 その方法とは、俺と朧……それとモナカの三人で囮役を切り替えながら戦うというものだ。


 常にタゲ集中が続くよう三人で分担してヘイト管理をすれば、最後までシラユキを狙わせないようにできるはずだ。


 本来、後衛であるはずのモナカにも避けタンクをさせるのは酷ではあるが、あいつの場合は心配無用っていうか、まあ余裕でこなせるだろ。

 つーか仮にもJINMURTAの四天王なんだから、それくらいできてもらわなきゃ困る。


 とはいえ、残念ながらそれだけじゃ問題解決とはならない。

 いくら三人で囮役を分担してシラユキにヘイトを向けさずに済んだとして、避けタンクの性質上、仕方ないことではあるが、流れ弾による巻き込み事故が発生しやすくなってしまうからだ。


 特に突進のような移動攻撃や水流ブレスみたいな長射程の攻撃、それと怒り時に放ってくる水球炸裂弾といった遠隔にかつ広範囲に及ぶ攻撃は、ただでさえ後衛を巻き込みやすいのに、壁タンクがいないとなれば更に事故る可能性は高くなる。


 思えば、逆張り連合のヒーラーが倒されたのは、水流ブレスが原因だったわけだしな。


 つまり、そもそもの陣形を根本から見直すべきだ。


 俺の中での理想の陣形は、シラユキが一歩も動かずとも悪樓の攻撃に巻き込まれないようにした上で、スムーズに囮役を切り替えられるというものだ。

 その為には、まずシラユキを悪樓の視界に入れないようにする必要がある。


 さっき挙げた事故りやすい攻撃は全て正面方向にいることで発生しやすくなっているから、常に悪樓の側面……可能なら背後に立たせることができれば事故率はぐっと抑えられるはずだ。


「………………い」


 逆に囮役は悪樓の真正面に立って、できる限りその場で攻撃を躱し続けるようにすればいい。

 それから挑発の効果が消えるタイミングで、攻撃に参加していたどっちかがタゲ集中を上書きしながら立ち位置を交代すればいいわけだが……攻撃役はどこに配置させておくのが正解なんだ……?


 つーか、それより先にどうやって正面に囮役、後方にシラユキという配置に持っていくかを考えるべきか。


「…………おーい」


 まあぶっちゃけ、シラユキが巻き込まれないよう立ち位置に注意すれば、ここまでの陣形を作る必要はない。

 だが、リリジャス・レイの発動間隔がそのまま戦闘時間に直結する以上、シラユキには術の発動だけに専念してもらい——


「——蓮宗くん!」

「おわっ!?」


 唐突に耳元で強く名前を呼ばれ、慌てて横を向くと、白城がおずおずと覗き込むようにこちらを見つめていた。


「どうかしたか、白城?」

「えっと……もうHR終わってるよ」

「え、マジで? ……うわ、ガチじゃん」


 周囲を見渡せば、白城の言う通り、長々と話していたはずの担任の姿はなく、クラスメイトも続々と帰り始めていた。


「考えに集中し過ぎて全く気づかなかった」

「やっぱり。だと思った」


 言いながら、白城はふふっと笑みを浮かべる。


「……もしかして、今夜のこと?」

「ああ、どうやったらあいつをブッ倒せるのか、その作戦を立ててた。プレイヤースキルのゴリ押しだけで勝たせてくれるほどヤワな相手じゃねえしな」


 ログアウトする前、最後に悪樓と一戦交えて改めて痛感したことだが、悪樓戦においてなんだかんだ一番何がキツいって呪獣転侵(自爆装置)の自動発動だ。


 低レベル&少人数——勿論、これらも悪樓の攻略難易度を跳ね上げている要因ではあるが、それ以上に呪獣転侵(自爆装置)がより高難易度化に拍車をかけてしまっている。

 このスキルがなければ、そんなに陣形に頭を悩ませることは無かったはずだ。


 なんで陣形に頭を悩ませているか元を辿れば、呪獣転侵があることで実質的なタイムリミットが生まれているのが原因なわけだからな。


 ただまあ、今更手に入れてしまったもんを嘆いても仕方がないし、一応、ライトから貰った保険(聖女の聖霊水)(※失敗する可能性あり)もあるから、最悪、呪獣転侵が暴発しても何とかなるとは思う。

 ……が、できれば聖女の聖霊水はここぞという場面にとっておきたい、というのが本音だ。


 呪獣転侵は確かに発動=死のクソスキルだが、同時に現状では壊れレベルの強力なバフスキルでもある。

 どうせ使うのなら好きなタイミングで使った方が良いに決まっているし、それにもしかしたら、何よりもDPSを優先しなきゃならない状況になるかもしれないしな。


「それはそうと……あのさ、白城」

「ん、なに?」

「昨日の昼休みのことなんだけどさ。答えってもう固まってたりしてるか?」

「……ごめんね、まだ決めれてない」


 白城はポツリと答える。

 ほんの僅かに声のトーンを落とし、申し訳なさそうに目を伏せて。


「そうか。いや、答えを急かしてるわけじゃねえんだ。ただ……」

「……ただ?」


 続きを言おうとして俺は、喉から声が出かかったところで咄嗟に言葉をグッと飲み込む。


 これはまだ言うべきタイミングではない。

 何となくだけど、そんな予感がした。


「——悪い、やっぱ何でもない。それより、帰ってログインしたらロビーに集合な。合流でき次第、レベリングを再開するから頑張ってこうぜ」

「……うん、そうだね。頑張ろうね」


 優しげに微笑む白城。

 けど、一昨日の夜に見せた笑顔と重なって、何か心に引っ掛かるものを感じた。

決戦は今夜

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