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合流

 しかしまあ……何度見ても攻撃威力、速度、範囲のどれをとっても、ゲーム序盤に戦わせていい強さじゃねえよな。


 ようやく辿り着いたボスフロアでは、十五人くらいで構成された野良のレイドパーティーと悪樓が戦闘を繰り広げていたのだが、ものの十分足らずで呆気なく全滅していた。


 悪樓の破壊力は凄まじく、ガチガチのタンクですら二耐えすら出来ないという有様だった。

 後方ではヒーラー陣が奮闘していたが、必死の回復虚しく、ヒーラー達のMPが尽き、回復アイテムが枯渇してからは、タンクも他の全員も漏れなく悪樓に蹴散らされるのは時間の問題だった。


「——つーわけで、あれが明日俺らが挑むレイドボス、悪樓だ」

「うひゃ〜、戦ってた人たち全員それなりに戦い慣れてそうだったのに、見事に蹴散らさちゃったね」

「そりゃ攻略推奨レベルが上級職での20レベくらいらしいからな。普通に挑んで勝てるようならもうとっくにクリアされてる」


 ……とはいえ、あいつら本気で挑んでるわけじゃ無さそうだったな。

 戦っている様子を見た限り、もっと粘ることはできたはずだ。


 明らかに回復手段の枯渇が早かったし、タンク陣が壊滅した後の残された連中が慌てる様子も無かった。

 なんつーか……そもそも負けることを前提に戦っているような感じがした。


 恐らく、明日の――いや、もう今日か、夜の本番に備えた予行演習を行なっていたんだろう。

 まあ、一発本番勝負で勝てるほど簡単な相手でもないし、事前に戦って行動パターンを掴んで、より確実に勝利を近づけようって考えになるのは当然ではあるか。


 俺だって、クァール教官の周回する前に情報収集の為に何度か凸ってたわけだし。


「上級職にクラスアップできれば、そんなに苦労せずに済んだんだろうけど、残念なことにクラスアップが出来るようになるのは次の街からだ。そのせいで俺らは、基本職のままでこの圧倒的レベル差のある無理ゲー……っていうよりクソゲーを突破しなきゃならねえってわけだ」

「ひへぇ、それでまだ誰も攻略できてないってわけか。……それでも、皆んなあのボスを倒そうと必死にやってるんだよね?」

「ああ、あいつを倒さないとずっとエリアが封鎖されたままだし、何よりいきなりトップクランに加入できる、またとない大チャンスも降ってきたからな。だからさっきみたいに予行演習する奴らも出てきてるってわけだ」


 一応、モナカにはここに移動するまでの間に大体の事情は伝えてある。

 悪樓が発生した原因、アルゴナウタエの加入試験、現状の俺らの戦力……etc.


 それらを把握した上でモナカは、笑顔は崩さず、だが真剣な眼差しで訊ねてくる。


「なるる。……ちなみにさ、ぬしっち。勝算はどれくらいあるの?」

「……かなり楽観的に見たとしても良くて二割……けど実際は、一割もあれば御の字ってところか」

「うっわー……想像以上にキツキツだなぁ。やっぱ少人数、低レベル攻略だから?」

「それもあるけど、一番は呪獣転侵(自爆装置)のせいで戦闘に時間をかけられんねえっていうのがデカい。下手すると開始三十秒で勝手に発動して詰む可能性すらあるし」


 呪獣転侵は使ったら死ぬ代わりに、使い所さえ間違えなければ破格のバフスキルなんだけど、確率で自動発動するデメリットが全て台無しにしてやがる。

 正直、勝利する為には悪樓がどうこうと言うよりも、前提としてまず乱数の女神様が上機嫌であることを祈るしかない。


 そうじゃなくても耐久戦になった時点で負け濃厚になるから、なるべく短期決戦で仕留める必要がありそうだけど。


 というか元を辿ると、あそこでネロデウスが挨拶しに来なきゃこんな事態にはなってないんだよな……って、やべえ、思い返したら無性に腹立ってきた。

 くそっ、いつかあいつマジで締めに行くからな……!


「——けどまあ、低レベル攻略なんてRTA走者にとってはいつものことだ。それにJINMURTAの最強格が味方にいるんだ。なんとかなるさ」

「にゃはは〜、面と向かって最強なんて言われると照れるなあ。でも、それを言うとぬしっちもこっち側の人間でしょ。ランキングにこそ名前は載ってないけど、普段の配信とか今日の戦いっぷりを見てれば分かるよ」


 そう言って、俺の右手に装備してあるアイアンバックラーに視線を傾けると、モナカは悪戯っぽく目を細めた。


「――ようやく見れるキミの本気(ガチ)、期待してるよ?」


 ……ああ、これは俺の本来の持ち武器が盾だってことが見抜かれてるな。

 けど、クァール教官との戦闘とさっきの雑魚狩りを見てればそりゃ分かるか。


 これまでJINMUのRTA配信で一通りの武器を使ってきたが、盾チャートで走った事はない。

 盾を使って走ったら息抜き配信のつもりなのに、普通に記録狙いのガチ配信になってしまうから、あえて使わないようにしていた。


 ともかく、これは期待に応えないと……だな。


「……ところでさ、ぬしっち」

「どうした?」

「今、戦って勝てたりしないかな?」

「止めはしないが、矢と所持金が無駄に消えるだけぞ」


 モナカなら勝てる見込みはゼロとは言わないが、それでも火力不足で十中八九詰むだろう。

 だから、うん……そのクロスボウは収めような。


 今にも飛び出しそうな勢いでうずうずとしているモナカにステイをかけたところで、近くで俺を呼ぶ声が聞こえてきた。


「あーっ、やっぱジンムだ! おーい!」

「……ん? ああ、ひだりか」


 声がした方に振り向くと、ひだりが大きく手を振りながらこっちに近づいてい来ていた。

 ひだりの後ろにはライトの姿もあった。


「あの二人がぬしっちの協力者?」

「そんなところ。前で手を振っているのがひだりで、後ろにいるのがライト。俺らの裏方で支援をしてくれる。ちなみに装備を見りゃ分かると思うが普通にレベルカンストしてるガチ勢。ビギナー縛りがなきゃ、今回のレイド騒動はあの二人で速攻で片付いてた」

「ほうほう。説明サンクスだぜぬしっち!」


 モナカがグッと親指を立てると、ひだりは俺らのすぐ傍まで駆け寄って来ていた。


「いきなりここに来るって連絡があったから何事かと思ったけど……なるほどね、そういうことだったんだ。もしかして、隣にいるネコ耳お姉さんが例の助っ人さん?」

「ああ、俺と同じRTA走者のモナカだ」

「はいはーい、ぬしっちの配信を見てる数少ないリスナーで、モナカっていいまーす! あたしのことは気軽にモナにゃんって呼んでねっ☆」

「うん、よろしくモナにゃん! もうジンムから聞いてるかもだけど、ひだりだよ」

「おい、何しれっと俺をチクチク言葉で刺してんだよ。あとさっきと愛称変わってんじゃねえか」


 モーちゃんはどこ行きやがった。


 獣人アバターというのも相俟って、やけに様になっている猫の手ポーズをとるモナカ。

 それを尻目に俺は、インベントリからさっきのクァール周回で獲得した大量の素材を選択し、それらを少し遅れて追いついたライトに譲渡申請をする。


「よっ。悪いな、ライト。急に待ち合わせ場所変えちまって」

「いや、気にしなくていい。寧ろ、俺らこそ待たせて済まなかったな」

「それこそ気にすんなよ。それで早速だけど、今周回で手に入れた素材を譲渡申請したけど、これで足りそうか?」

「……問題ない。これだけあれば、全員の装備を全て一新できる」


 ライトは満足げに笑みを浮かべて、俺からの申請を受諾すると、いつの間にかひだりと話に花を咲かせているモナカに顔を向ける。


「あなたがジンムが言っていたモナカさんか。なるほどな……確かにジンムと同じ人種っていうのは、あながち間違いじゃなさそうだな。と――自己紹介が遅れたな。ライトだ。訳あってジンム達のサポートをやっている。よろしく頼む」

「うん、よろしくっ!」


 それから右手を差し出し、二人は握手を交わすのだった。

譲渡申請

 任意の相手にアイテムを渡すことができる機能。

 フレンド相手であれば無制限に受け渡しが出来ますが、そうでなければ渡せるアイテムの種類とレア度に上限が発生します。

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