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ネコ耳少女、静寂を破る

31話から一斉公開しました。


 ビアノスに帰還して真っ先にシラユキを宿屋まで送り届けた後、朧に明日の予定を手短に伝えて、そのまま俺らも解散することにした。


 できることなら今夜のうちに朧を兄妹と会わせておきたかったが、さっきライトに連絡を取ってみたところ、こっちに戻ってくるまでまだ時間がかかるとの返事が返ってきた。


 軽度とはいえ朧もアバター疲労に陥ってしまっていた以上、ログインさせたままにするってのも健康上あまりよろしくない。

 そんなわけで朧もついさっきログアウトしたところだった。

 

「さてと……これからどうすっかな」


 俺はクァール教官の周回で手に入れた素材をライトに渡す必要があるから、もう少しここに残るつもりだ。

 とはいえ、あいつらが戻ってくるまでは暇ではある。


 その間、どうやって時間を潰したものか。


「今から一人でレベリングって気分じゃないし、この時間帯だと店も殆ど閉まってるよな」


 まあ、そもそも獣呪対策で所持金は殆どシラユキに預けてるから、仮に営業してたとしてもアイテム買う金無いんだけど。


 唯一、営業していそうなのは酒場くらいか。

 つっても、あそこって店って言うよりプレイヤー同士の交流の場なんだよな。


 試しに行ってみるのもやぶさかではないが、それはまたの機会でいいか。


「――そういや、やることがあるって言ってたけど、ライトとひだり(あいつら)一体どこまで、何しに行ってたっていうんだ?」


 日付が回っても戻ってこれない場所となると、かなり遠いところだってことはまず分かる。

 少なくとも、この街の近辺でないことは確かだ。


 俺やシラユキと違って、あの二人には悪樓出現による移動制限もない。

 それにあいつらも『アルゴナウタエ』のレイアとHide-Tが持っていた、ファストトラベル機能のあるアイテムを持っていたとしても不思議はないしな。


「……考えられるとすれば、まあネロデウス関連か」


 なんやかんやで一緒に行動して貰ったりはしているけど、本来ならこんなところに滞在するようなプレイヤーなんかじゃない。

 二人がビアノスに訪れているのは、偶然ネロデウスがこっちに徘徊していたからに過ぎない。


 しかし、だ。

 正直、ちょっと疑問に思うというか、気に掛かることがある。


 兄妹がネロデウスを追っている理由だ。


 一応、このゲームには理想郷探索っていうお題目がある。

 未だ理想郷に繋がる直接的な手がかりは見つかっていないが、それに伴ったクエストは存在している。


 名称は確か——()()()()()()()()()()


 名前のまんまっていうかタイトル回収だな。

 クラン『アルゴナウタエ』のレイアが言っていた新エリアも、このアルカディアクエストに関わったものだと思われる。


 アルカディアクエストは、全プレイヤー協力型のレイドクエストであり、その結果によって世界の情勢に変化を与える程の強い影響力を持っている。

 これに分類されるクエストは幾つかに分かれていて、ざっとしか調べてないから中身はうろ覚えだが、確実に言える事として、その中に災禍の七獣に関連するようなクエストは無かった。


 ネロデウスのあの馬鹿みてえな強さから鑑みるに、災禍の七獣の討伐は今あるアルカディアクエストを進行させた後に想定されているのだろう。

 つまり災禍関連の攻略は、エンドコンテンツよりそのまた上……ハイエンドコンテンツとも言えるやり込み要素でしかない。


 俺も人の事をとやかく言える立場にないが、現時点で攻略しようとするのは、はっきり言って時期尚早だ。


 なのに、なんで徘徊するネロデウスを追いかけてまで躍起になって——それも二人だけで攻略しようとしているんだ?

 今のままじゃ流石に効率が悪過ぎるっていうか、ガチでやるならもっと協力者を見つけるべきなんじゃ……。


 なんて考えていた時だった。




「あーっ!! ようやく見つけた〜〜〜!!!」




 静まり返った通りに突如として響き渡るのは、快活な女性の声。

 すぐさま声のした方へ振り向くと、そこには桃色の髪のネコ耳少女の姿があった。


 右腕には木製の簡素なクロスボウを装着し、防具は胴、腰、脚のみに村人シリーズを装備しているだけの完全初期状態。

 見るからにゲーム開始して間もないであろうそのプレイヤーは、はぁはぁと肩を大きく上下させながら俺を睨みつけていた。


 周りにプレイヤーの影はない。

 恐らく……いや、確実に彼女は一人でこの場に現れている。


(うっわー……もしかしなくてもなんか嫌な予感がする)


「ようやく追いついた……! ねえ、キミ!」

「な、なんでしょうか……?」

「単刀直入に訊くけど、キミ――()だよね!?」

「……っ!? おまっ、やっぱまさか!?」


 俺をその名で呼ぶ人間で思い当たる人物は、一人しかいない。

 ネコ耳少女は、にこりと満面の笑みを浮かべると、直後にはこちらに向かって駆け出していた。


 敏捷にはあまりPPを割り振っていないのだろう。

 走る速度自体は、大して速いというわけではない。 

 だが、一切の無駄を削ぎ落とした洗練されきった足運びで、あっという間に俺のすぐ目の前まで肉薄していた。


「やべっ……!!」


 それと同時にさっきから遠目で見えていたプレイヤーネームが、ばっちりと視界に入る。


 ネコ耳少女――いや、モナカは流れるように綺麗なドロップキックを炸裂させた。


「――あたしのこと……完全に忘れてたでしょおおお!!!」

「悪い、完全に存在が抜け落ちてた!!」


(周回から帰る時に感じた違和感の正体はこれだったか!)


 咄嗟に身を屈み、ギリのところでどうにか躱してから、すぐさま後ろを振り返り叫ぶ。


「いきなり攻撃とか危ねぇな! こちとら耐久に一切パラポ振ってねえ紙耐久なんだぞ!? いや、悪いのは、百パー俺なんだけど!」

「ニャハハハ、そんなことにはならないよ。だって、キミなら絶対避けてくれるでしょ?」


 さっきの怒り顔から一転、悪怯れることなく、寧ろ屈託のない笑顔でそう言ってみせるモナカに、俺は思わずため息を溢す。


 これは……試されたな。


「……そりゃどうも。信頼に与り光栄デス。まあ、いいや。――配信主、改めてジンムだ。呼び方は好きにしてくれ」

「はいはーい。じゃあ、あたしも改めて自己紹介しまーす。Mo……改め、ただのモナカでーす。よろしくね、ぬしっち! あたしのことはモーちゃんって呼んでいいよ☆」

「いや、呼ばねえよ……」


 キュピーン☆と可愛らしい効果音がしそうな仕草で、目元でピースサインを作るモナカに対して、二度目のため息が溢れるのだった。

現在、アルカディアクエストに分類されているクエストは三種類です。

未知の開拓、脅威の撃退、過去の探求。

これら全てが達成された時、歯車が動き出すのです。

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