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垣間見えた意志

 高速奇襲すら凌ぎきった二人がクァール教官を倒すのも時間の問題だった。


 あれから更に数発リリジャス・レイを命中させたところで、ようやくHPが0となったクァール教官の全身が光の粒子となって霧散する。

 フロア侵入禁止の障壁が消えたことを確認してから俺は、物陰から姿を出して、ボスフロアの中に入っていく。


「――GG。まさか二人だけでボスを倒しちまうなんてな」


 声を掛けると、シラユキも朧もびくりと身体を揺らして、大きく目を見開いた。


「え、ジンくん!? いつから……!?」

「ちょっと前にな。そしたら二人がボスに挑んでたもんだから、そこの陰からこっそり見学させてもらってたよ」

「そうだったんだ。……って、そうじゃなくて。ごめんなさい、二人だけで勝手にボスに挑戦したりして」

「謝る必要はねえよ。意外だったけど、好きにして良いって言ったのは俺なんだし」


 物凄い勢いで頭を下げるシラユキを宥めつつ、朧が開いたままにしてあるバトルリザルトへ視線を移す。


「朧、ちょっとバトルリザルト見せて貰ってもいいか?」

「うん、いいよ。……って、画面をそっちを向けるのってどうやれば?」

「俺がそっち行くからそのままで大丈夫だ」


 言いながら朧の元へと行き、リザルトを見せてもらう。


 バトルリザルトに表示されているのは、大まかに分けて獲得経験値、獲得金額、戦闘時間、ドロップアイテムの四つだ。


 ウィンドウを操作することで詳細画面に切り替えることもでき、そこには戦闘内容について色々と細かに書かれている。


 使ったアイテムの総数。

 アーツスキルの発動回数。

 最大連続ヒット数……etc.


 戦闘内容を分析するにはもってこいではあるが、ぶっちゃけ詳細画面を開くことなど滅多にないから、ここまで作り込む必要なんて無かったと思う。

 あるならそれに越したことはないけど。


「……なるほどな」


 戦闘時間は16分42秒、使ったアイテムは0、被ダメージ0ってことは……被弾回数も0か。

 こう数字にされると、マジでふざけた回避力してるな。


 んで、朧のアーツスキルの発動回数は……うっわ、91回って滅茶苦茶使ってんじゃん。

 これ殆ど回避スキルによるものか……」


 側から見ていた限りだと、朧がアーツスキルをバンバン使っているようには感じなかったが、回避スキルであれば合点がいく。

 攻撃系のアーツスキルと違って防御系って、発動してもあまり目立たないからな。


 とはいえ覚えているスキルは、確か二種類しか覚えていなかったはずだが、戦闘の殆どを回避に費やしていたのであればこの発動回数も納得だ。

 それから他にも一通り記録に目を通した後、朧にウィンドウを返した。


「はいよ、見せてくれてありがとな。ところで……なんで二人だけで挑もうと思ったんだ? 経験値を稼ぎたいってだけなら、別に近くの雑魚敵でも問題なかったはずだろ。ボス戦だと全滅のリスクだって十分にあっただろうに」


 最初に戦った時ほどの脅威は無くなったとはいえ、クァール教官は始めたてのプレイヤーにとって鬼門であることには変わらない。

 戦ってる様子を見る限り、二人の実力ならまあ勝てるだろうとは思っていたが、それでもどっちかが何かしらのミスをしてしまえば、そこから一気に崩される可能性はあった。


 まあ、仮に全滅してしまったとしても別に怒りはしないけど、単純になんでそうしたのか理由が気になる。

 そう思っての質問に答えたのはシラユキだった。


「えっと、その……少しでも早くジンくんに追いつきたかったから」

「俺に?」


 訊き返すと、シラユキはこくりと頷き、恐る恐るゆっくりと続きを口にする。


「私達とジンくんって、結構レベルの差が開いちゃってるよね。だから、それをちょっとでも早く埋めたかったんだ。私たちのレベルが上がって強くなれば、幾らかジンくんの負担が減るかなって思って」

「……そういうことだったか。でも、俺の負担なんか気にしなくていいのに」

「ううん、それじゃダメなの」


 頭を振って、


「それだといつまで経ってもジンくんに頼りっぱなしになっちゃう。……いつまでもジンくんと一緒にやれるわけじゃないから」


 最後はかろうじて聞き取れるくらいの声量だった。

 目を伏せるシラユキに「そうか」としか返せなかった。


 明日、仮に悪樓を倒せたとして、その先に待っているのは、このパーティーをどうするかの決断だ。

 今後もネロデウス討伐に向けて俺と一緒に通常攻略から逸脱した鬼畜ルートを共にするのか、それとも俺とは別で普通にこのゲームを遊ぶことにするのか。


 無責任に思われるかもしれないが、無理強いできない以上、こればかりはシラユキ自身で選ばなければならない。

 俺にできるのは、ただその選択に従うだけだ。


「――あの、話してるところ悪いんだけど、ちょっといいかな?」

「ん、どうした朧?」

「いや、ここにいたままで大丈夫なのかなって。あんまりこのゲームのことは分かってないけど、確かボスを倒してから暫くすると、また出てきちゃうんだよね?」

「……ああ、リポップか。確かにそうだな」


 時間的にそろそろ侵入不可障壁が出てきてもおかしくはない。

 そうなれば、再び出現したクァール教官と戦わなきゃならなくなるわけだが――


「……連戦明けで悪いんだけど。もう一戦付き合って貰ってもいいか? 今度は強制離脱になる前にさっさと終わらせるからよ」


 明日の夜までにレベルを30まで上げなきゃならない以上、休憩時間も惜しい。

 それに幸い、新たに挑戦してくるようなプレイヤーはいないようだし、だったら回せるうちに一体でも多くクァール教官を狩っておきたい。


 無理を承知の提案だったが、シラユキも朧も二つ返事で首を縦に振ってくれた。


「うん、いいよ。もう一回やろっか」

「僕も付き合うよ。皆んなでやるのは楽しいしね」

「……サンキュー。それじゃあ、次は速攻で終わらせるとするか!」


 こうして、俺たちはクァール教官狩り三周目に突入するのだった。

バトルリザルトの詳細画面は、まあ誰も確認しないですね。

しかし、検証勢やコーチング指導するプレイヤーといった一部からは重宝されています。

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