そのビルド、地雷につき
マルチプレイを前提としたオンラインゲームの悲しき性ではあるが、プレイヤーの中には地雷と称される者が時々現れることがある。
放置、寄生、妨害といった害悪行為をしてくる奴、単純に技量が足りなくて一人で勝手に力尽きまくる奴、明らかに戦術と噛み合わない装備構成をしている奴……etc.
広義は様々ではあるが、とにかく共通して言えることは、どれもパーティーにとって不利益をもたらすということだろう。
そういう意味においては、朧もその分類に片足を突っ込んでいた。
「――あー、なるほど。そういう構成だったか」
とりあえず朧には、二つ返事で少人数攻略(※時間制限付き)という名の泥舟に乗船してもらえたので、早速ステータスを見せてもらったのだが……うん、これは忌避されても仕方ねえわ。
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PN:朧 Lv:14
所持金:10431ガル
PP:4
ジョブ:村人
-
HP:51 MP:29
ATK:27 DEF:27
SATK:22 SDEF:22
SPD:22 TEC:22
STR:22 VIT:22
INT:22 RES:22
AGI:22 DEX:22
LUK:13
アーツスキル
・パワースローLv7 ・クイックスローLv8 ・リフレックスステップLvMAX ・サルテーションLvMAX
装備
武器1:刃付きブーメラン
武器2:
頭:-
胴:村人の服
腕:-
腰:村人のズボン
脚:村人の靴
アクセサリー:-
アクセサリー:-
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ジョブが村人っていうのは、まあよしとして……なんか色々と噛み合ってない構成になっちまってるな。
装備している武器が遠隔系と中距離向きなのに回避主体のスキル構成っていうのもそうだが、それよりもやばいのが――この均等に割り振られたパラメーターポイントだ。
多分というか、ほぼ確実に何も分かってないで振ってるよな。
回避ビルド寄りなのにHP、VIT、RESにポイントを割いているし、術系アーツを習得していないのにMPとINTにも多くポイントを割り振っている。
端的に言ってしまえば、プレイスタイルに対してステ配分の無駄が多過ぎる。
最適解とは程遠いステータスを目の当たりにすると、朧がマジでプレイヤースキルのゴリ押しだけで森林を抜けて来たことが改めてよく分かる。
なんつーか、運動神経だけでスポーツやってる奴を見ているような気分だ。
(にしても……これは指摘した方がいいのか?)
均等振りは長期的に見れば幅広い戦術を持ち合わせる万能型になり得る……と言えば聞こえはいいが、扱うにはかなりの練度が要求される。
更に言うと万能型に至るまでは何かがいまひとつ足りないという感覚が延々と付き纏い続ける事になる、まさに廃人御用達の修羅の道だ。
それで仮にフルに使いこなせるようになっても、ぶっちゃけ分かりやすい強さは見えない上に「それ〇〇でよくね?」という定型分がついて回るのも避けられないだろう。
だから俺だったらまずやろうとも思わないし、人に勧めることもないビルドだ。
とはいえ、ふざけてとか何も考えずにこうしているんならまだしも、何かしらの理由があるんだとしたら無理に矯正させるわけにもいかないよな。
なんて頭を悩ませていると、シラユキが目新しいものを見るようにして朧に訊ねる。
「わぁ……これ、もしかして全部同じポイントを割り振っているんですか?」
「うん、そうだよ。今は武器を投げるのと回避するスキルしか覚えてないけど、いつか魔法での攻撃や回復もしたいなって考えていてね。そしたら色々なことができて楽しそうだと思わない?」
「そう、ですかね? 私はやることが多くて何だかとても大変そうだなあって思っちゃいました……」
苦笑を浮かべるシラユキの反応が予想外だったのか、朧は「あれ?」と間の抜けた声を出す。
そりゃそうだろ。何の為にジョブシステムがあると思ってんだよ。
……って、あ、村人だとこれって決まった役割がないのか。
思い出す。
村人の特徴は、他のジョブと比べてカスタマイズ性に優れているところにある。
全武器種を装備でき、ジョブ固有のスキル以外のアーツは全て習得可能。
あとついでにセカンダリージョブを二つセット可能……らしい。
これだけ聞けば滅茶苦茶強く感じるかもしれないが、同時にこれが罠でもある。
村人のデメリットはその自由度の高さ故に、ビルドの構築を一歩ミスれば一気に地雷と化す可能性が高いということだ。
加えて村人は全ジョブの中で唯一パラ補正が存在せず、適正武器もない為、アーツの習得が他と比べて遅い。
そのせいで、ただ一つの武器と特定のパラメーターに特化するだけだと、他のジョブの下位互換に成り下がってしまう。
汎用性に突出し過ぎてるってのも考えものだな。
「……言っとくけど、朧のように考えるタイプは少数派だからな。この手のゲームは物理での攻撃役、盾役とか魔法での攻撃役、回復役みたいに一つの役割に特化させるのが主流だぞ」
「あ、そうなんだ。でも言われてみれば……確かに武器と魔法をどっちも使って戦ってる人は見ていないかも……?」
「一度にセットできるアーツスキルの数に上限があるからだろう。両立しようとすると単純に技スペが足りなくなるんだよ。あと瞬時に武器攻撃と魔法攻撃を切り替えながら戦うのが単純にムズいっていうのもある」
それがタイム短縮に繋がる最適解ってならやる一択だけど、だからって進んでやろうとは思わん。
大抵、普通に武器で殴った方が手っ取り早く終わるケースが大半だし。
「ところで、なんで色々やれるようにしたいって思ったんだ?」
「昔、実家にあったRPGの主人公が剣と魔法を使って戦ってたからかな。それでその主人公を真似て色んなことができるキャラクターにしたいと思ったんだ。流石にこの武器を選んだのは僕のオリジナルなんだけどね」
腰に提げたブーメランを指差して朧は小さく笑う。
だろうな。
剣と魔法ならともかくブーメランと魔法を使う主人公とか見たことねえし。
「他ゲーの影響だったか。にしても随分と昔の勇者スタイルだな。いつの時代のゲームだよ?」
「んー……どれくらい前かは分からないけど、少なくともテレビに繋いで遊んでたよ」
何となく予想はついてたけど、やっぱりVR以前のレトロゲーだったか。
まだディスプレイゲーが主流だった頃のRPGの主人公は、剣と魔法どっちも高水準で使えるキャラが多かったが、VRになってからは大きく数が減ってしまっている。
というのも剣技と魔法の感覚が結構違う上に、コマンド操作ではなく自分の身体を動かして操作する必要があるために、その手のキャラは自然と上級者向けになってしまっていたからだ。
そのせいかVRが台頭してからのRPGの主人公キャラの多くは、物理か魔法一辺倒のキャラが大半となっていっているのが昨今の現状だ。
「……というかさ。今更だけどいくら勇者スタイルだからって均等振りはしねえぞ」
「えっ、そうなの?」
「ああ、確かに勇者のステータス配分はバランス型ではあるけど、それでもある程度のバラつきはあるぞ。全部の数値が同じのと使いやすさはイコールになんねえし」
「そっかあ。……あ、だからさっきまで他のパーティーに入れてもらえなかったのかな?」
「それも理由の一つだろうな」
というかそれ以外の要素も含めて全体的に評価してのことだろうけど、そこはわざわざ言ってやる必要もないか。
「そうなると、今のやり方は止めておいた方がいいのかな?」
「……正直に言えば、軌道修正をかけた方が良いとは思う。でも、だからと言って強制はしねえよ。それが朧のやりたいことに繋がるんだったら尚更な」
それにめっちゃ大器晩成ってだけで無意味な訳でもないし、そもそも他人に迷惑をかけさえしなきゃどんな風にゲームをしようが当人の自由だ。
それに汎用性に特化した村人だからできることもあるかもしれないし、本当に攻略に行き詰まるまでは均等振りを貫くというのも一つの手ではある。
「――けどまあ、朧が戦っているところを見れば考えが変わるかもだし、ちょっとレベリングも兼ねてバトルしに行こうぜ」
俺はそう言って、アトノス街道に親指を向けて見せる。
行き先はパスビギン森林、標的はもう決まっている。
まだゲロ重のデスペナが解除されてないのは若干の不安要素ではあるけど、三人で戦えば問題ないだろう。
というわけでやるとしようか――鬼のクァール教官狩りを。
村人の扱いにくさを例えると、一人だけ「通さない」される某〇〇〇族さんや、某地方を徘徊する感情の神様(性格無補正)、何度も入れ違いが続いた末に宿屋でようやく仲間になる某王子(FC版)、と言ったところでしょうか。
ぶっちゃけ主人公の戦闘スタイル的には、戦士より村人の方が合ってたりします。
STR補正がないので火力は落ちますが、弓や術といった飛び道具による遠隔攻撃の同時運用が可能になりますので、事故って負ける確率はグッと下がります。
とはいえ、火力が落ちるので村人にすることはないと思われます。