帰還報告
とりあえず何回か凸っては死んでを繰り返したからダイジェスト。
一回目。
悪樓の基本攻撃パターン――突進、尻尾薙ぎ払い、ボディプレス、噛みつき、タックル、水流ブレスの計七種類を確認。
威力や攻撃速度、範囲は完全に上位互換だが、攻略記事や動画にあった壊邪理水魚の行動パターンと特に変わりなしだと判明したところで獣呪発症で自滅。
戦闘時間は十分弱。
二回目。
怒り状態になると全身から黒いオーラがより吹き出すようになり、新たな行動として咆哮と共に半径十メートル程度の範囲に全身のオーラを衝撃波のようにして放出。
着弾と同時にダメージ判定のあるオーラを周囲に炸裂させる巨大な水球を放つのを確認。
それと怒り中は肉質が脆くなるのか、平常時よりも全体的に攻撃の通りが良くなっていた。
特に甲殻が最も効果的で、逆に頭部はそこまでだった。
もう少し検証を続けたかったが、途中でまた獣呪になってしまい、どのみち死ぬからと放たれた水球を試しにジャストガードで受け止めるも、炸裂するオーラのダメージが発生したのがジャストガードの受付時間後だったせいで無事HP全損。
デスペナでステータスが下がってなければ耐えれた可能性はあるが、それでも致命傷になることは必至だと思う。
ちなみに戦闘時間は十五分オーバーってところか。
三回目。
まさかの戦闘開始から三十秒で獣呪が発症してしまい、速攻で自滅。
その際に特攻を仕掛けて攻撃方法による違いを調べた結果、斬撃系の攻撃は腹部と背鰭と尻尾に通りが良く、打撃系は頭部と腹部に通りが良いことを確認してからデスポーン。
他の攻撃方法は試せてないからなんとも言えないけど、困ったら甲殻に覆われていない腹部を狙えば良さそうだ。
「――とまあ、ざっと纏めるとこんな感じだな」
「軽いノリで死に過ぎじゃない!?」
シラユキと左右兄妹と合流後。
いつものように宿屋の一室に移動してから、悪樓と実際に戦ってみた感触を伝えると、ひだりに思い切り驚かれた。
「本当はもうちょい検証を重ねたかったけどな。時間的に三回が限界だった」
「うわぁ、まだやる気だったんだ……。ていうか、そう何回も連続でやられると、デスペナ酷い事になってない?」
「ああ、結構えげつないことになってる」
これからやるつもりのレベリングにガッツリ影響が出るレベルで。
二時間近くに及ぶステータス半減状態。
インベントリ内にあったアイテムの消失が三割程度。
完全に底が尽きた所持金。
三度に渡るデスペナを重ねた結果がこれだ。
いや、呪獣転侵の検証の時点で有り金は全部シラユキに預けてたから、所持金に関しては最初から素寒貧だったんだけど。
ここまで重めのペナルティが伸し掛かると、無駄死には絶対に許さないと言わんばかりの運営の強い意志を感じる。
……JINMUの時は、アホみたいにプレイヤーを殺しにかかってきたのにな。
「けどまあ、情報料と思えば安いもんだろ。戦術を考えるにしろ、対策を立てるにしろ、どのみち実際に負けを覚悟で戦ってみる必要はあったんだ。撃破タイムにも関わってくるしな」
「確かにジンムの言うことにも一理はあるか」
ふむ、と頷くライト。
「だろ。それに『アルゴナウタエ』ってクランが悪樓を使って入団試験をしようとしてるから、スケジュールは出来るだけ詰めてかねえと」
「……そうだったな。まさか連中が今回の件に関わってくるとは」
「へえ、ライトもあいつらのこと知ってんだ」
「当然だ。構成人数の少なさに反して、メインシナリオの開拓とユニークの発見に関しては、第一線で活動しているプレイヤーの中でも頭一つ抜けているからな。攻略組に限定すれば、知らない人間を探す方が難しい」
ふーん、そんなに有名人だったのか、あいつら。
そりゃそうか。始めたての野良プレイヤーにすら認知されてるくらいだもんな。
一人で納得する傍ら、ライトが訝しげな視線をぶつけて来る。
「……ところで、ジンム。さっき撃破タイムがどうとか言っていたが、もしかしてTAでもしようっていうのか?」
「ん、そうだけど」
即答すると、兄妹の目が大きく見開いた。
「えーっ!? ホントにTAやるつもりなの!?」
「まあな。時間経過で獣呪が発症するリスクがある以上、早期撃破を目指すしかないしな。というか、元々ガチる時はTAがデフォだし、俺」
「デフォがTAって、ジンム……普段からどんな風にゲームやってるのさ……?」
「どんな風にって……RTAだけど」
途端、またひだりが目をぱちくりさせる。
「RTA……って、え? もしかしてリアルタイムアタックのこと?」
「それ以外に何があるんだよ」
あ、RTAがあるか。
VR内でなら何回かやったことはあるけど、いつか現実でも挑戦してみてえな。
一から準備しなきゃだから、いつやれるのかは分からないけど。
「……うん。ジンムがなんで異様に強いのか、その理由が分かった気がするよ。それで何のゲームのRTAをやってるのさ」
「色々手を出してはいるけど、一番ガチでやり込んでんのは——」
不意に言葉が詰まる。
(……やべえ、すっげえ答え辛い)
自分と同じPNのゲーム名を言うのは、流石にちょっとばかし勇気がいるぞ。
隠すほどのことでもないから素直に言うけど。
けどこうなるんだったら、プレイヤーネームちゃんと考えるべきだった。
今更ながらキャラメイク時に、安直だけど良いだろ、とか思っていた自分を責めつつも、腹を括って正直に答える。
「……JINMUだよ」
俺が唐突に自分の名前を言ったと思ったのだろう。
ひだりとライトは揃って不思議そうな顔をするが、数秒たっぷり使ってゲームタイトルのJINMUだということに気づく。
「えぇぇぇっ!? うそ、ジンムってあの死にゲーのRTA走者だったの!?」
「ああ、集積サイトに記録は乗っけてないけどな」
証拠にメニューから動画サイトを開いて、俺のアカウントページを見せる。
しかし、画面を見た瞬間、ライトとひだりは頭に疑問符を浮かべ、シラユキは苦笑を浮かべていた。
「ジンくん……多分だけど、それだと二人共ピンと来ないと思うな」
「え? ——あ」
シラユキに言われて気がつく。
ページいっぱいに埋まる、日付だけの配信タイトルと真っ黒サムネに。
「……中身は普通だからな」
――これからはちゃんとタイトル書いて、サムネも作ろう。
内心で思わず頭を抱えながら俺は、改めてそう固く決心するのだった。
デスポーンをすると、
・一定時間(60分)のステータス低下(1/4)※スタミナも減少
・一部アイテムロスト(一定以上のレア度のアイテムはロストしない)
・所持金減少
以上の三つのデスペナが発生します。
またデスペナ発生中にデスポーンをすると、効果が累積してしまい、ペナルティが更に重くなります。
・ステータス低下(1/4→1/3→1/2)※最大3回
・ステータス低下時間延長(一度につき30分延長、最大2時間)
・ロストアイテム(ロストするアイテムのレア度引き上げ※上限あり)
ステータス低下は、デスペナが解除されるまでずっとその状態が続くので、一度デスしてしまったら、連続に挑むにしても解除されるのを待つのが賢明です。
デスポーンをした際にステータスが下がるのは、本来、出力可能な魔力の一部を肉体の再構築に充てている為です。デスペナ中が累積するとステータスの低下幅が大きくなるのも、肉体の再構築に必要な魔力量が増えてしまう弊害によるものです。
ちなみに、メタ的な理由は、
「お前このままじゃ力が足りてないから、ちゃんと準備して再挑戦してね♡ザーコ、ザーコ♡」
という意味合いが込められています。