想定外の助っ人参戦
「Monica♪って……あのMonica♪か!?」
時に話は変わるが、俺は配信者として最底辺に位置しているけど、JINMUの配信自体がマイナーかというとそうではない。
むしろ死にゲーの代表格として真っ先に挙げられるほどのメジャーコンテンツだ。
事実、あまりの鬼畜難易度から多くの実況者や配信者が、シュールストレミング開封や激辛カップ焼きそばチャレンジ企画を敢行する感覚で手を出している。
そんで速攻で殺されまくってからの「クソゲーじゃねえか!!」とキレ散らかすまでの一連の流れは、もはや一種のテンプレというか様式美となっていた。
ネタに困ったらとりあえずJINMUでキレ芸しとけ、なんて風潮が生まれているくらいだ。
もしこれで再生数を伸ばせない奴がいるのなら、そいつは内容以前にまず根本的なことができていないのだろう。
……一体、誰のことだろうな。
とまあ、こんな風にライト層からはエンターテインメントの為の劇薬みたいな扱いを受けている一方、RTAやノーダメージ攻略になると、プロのゲーミングチームすら注目するほど競技としての側面が強調されるようになる。
冗談混じりにではあるが、「プロゲーマーになる足掛かりとして、自身の実力を手っ取り早くアピールしたいんだったら、JINMUのRTAを一本投稿しろ」なんて言われたりしているほどだ。
でも実際、JINMUのRTAを投稿したことをきっかけにプロゲーミングチームにスカウトされたり、ストリーマーとして名を馳せるようになった人間がいたりするので、あながち冗談でなかったりもする。
今、連絡をくれたMonica♪もJINMUのRTA動画を投稿したことをきっかけに、チャンネル登録者数を爆増させた一人だ。
もしJINMUのRTAを配信して、終始グダったり放送事故を起こしてもいないのにも関わらず底辺を彷徨ってる奴がいたとしたら、そいつは配信者にとことん向いていないか、視聴してもらうための努力を怠っている、どうしようもないくらいに残念な奴なのだろう。
……うん、俺のことだな(白目)。
自分で自分の首絞めまくるなよ、ちょっと辛くなってきたじゃねえか。
とりあえず次の配信からいい加減、真っ黒サムネから卒業して、タイトルも日付じゃなくちゃんと考えて、概要欄にも色々載っけるようにしよう。
あと悪樓討伐レイドが落ち着いたら、録画しておいた100%の動画も投稿やっとかねえと。
やっぱ最低限見てもらう努力はやんなきゃダメそうだし。
――そうじゃなくて俺が言いたいのは、JINMUの動画投稿、配信にはそれくらいの影響力があり、ランキング一桁台の猛者になるとJINMUのRTA配信だけで飯を食えるレベルになるってことだ。
特にany%カテゴリの上位四人――Mr.Deer、Syu-Ta、ヒーロー、Monica♪は、海外勢からも強大な支持を得るほどの超人気ストリーマーだ。
もし、彼らと同等のタイムを叩き出せることができたなら、有望な新人が台頭して来たと一気に知名度が爆上がりすること間違いないだろう。
そして、だ。
今、届いたメッセージの相手はその内の一人であるMonica♪――しかもご丁寧に公式SNSアカウントと同じアイコンである。
なんでそんな有名ストリーマーが、弱小底辺ストリーマー……いやストリーマーと呼べるかどうかも怪しい俺のことを認知しているんだよ。
まず言えることとして、俺の配信を見てくれるリスナーの中にMonica♪って名前のやつはいない。
それだったらもう大騒ぎになってる。
固定リスナーの中でROM専は白城だけのはずだし……本人を装った偽物か?
それが一番あり得るというか、そう考えるのが妥当だ。
「……でも本文見る限りだと、ガチか偽か判別つかねえな」
送られてきたメッセージの内容は掻い摘むと、コミュニティの投稿を見たから手伝うよ、というものだった。
「まあ、ぶっちゃけ偽物だろうと、手伝ってくれるならどっちでもいいんだけど……」
配信主:協力ありがとうございます。是非よろしくお願いします。ところで……もしかしてだけど、本物のMonica♪?
Monica♪:そうだよ! どうせ戦うところ見せたら正体バレるから本垢で来ました。証拠見せようか?
メッセージが届いてから少し時間を置いた後、新たに画像が送付される。
Monica♪の公式SNSアカウントのプロフィール画面をスクショしたものだ。
スクショに表示された時刻は一分前。
それに編集ボタンがあるってことは……え、ガチの本物!?
頭上を仰ぎ、気持ちを落ち着かせるために大きく深呼吸をする。
それからもう一度スクショに視線を落とし、見間違いではないことを確かめる。
うっわ……これ、マジのやつじゃん。
驚きが一周回って、逆に冷静になってきたぞ。
Monica♪:どう、信じてくれた?
配信主:ああ。でも、なんであなたのような有名ストリーマーが俺のことを知っているんだ? 何かの偶然とかじゃないよな?
Monica♪:モチロン! だってあたし、君のリスナーだもん。
配信主:は?
「はあああぁぁぁっ!!?」
ヤッベ、思わず大声出しちまった。
さっきのレイアが投下した、トップクランへのスカウトという名の爆弾よりも余裕で衝撃的なんだけど。
(いや、Monica♪が俺のリスナー? え、は? マジで言ってる?)
ぶち込まれる情報がエグすぎて理解が追いつかない。
エイプリルフールはまだちょっと先だぞ。
配信主:ジョークで言ってないよな?
Monica♪:ううん、真面目に言ってるよ。モナカって言えば分かる?
「モナカ……? ああ、弓とか銃関連についてやたら詳しいリスナーか」
弓チャートで走る時とか、FPS系のRTAする時とか結構参考になるコメントをくれるんだよな。
「……って、まさか!?」
配信主:もしかしてモナカの正体って……!?
Monica♪:そう、あたし! というわけで、これからアルクエ始めるから、速攻でキャラメイクしてレベル上げてくるね。終わったら、また連絡しまーす!
配信主:いや、ちょっと待て!! 色々ツッコませろ!!
しかし、これ以上Monica♪からメッセージが返ってくることは無かった。
(……嵐に巻き込まれた気分だ)
急激にどっとした疲労感に襲われるが、何にせよメンバーを一人確保できたのは素直に喜ぶべきか。
これ以上待ってもあんま意味なさそうだし、気を取り直して広場を後にすることにした。
一ヶ月前までは二位と三位が逆でしたが、Syu-Taが自己ベストを更新したことで順位が逆転しました。
ちなみに一位の記録はガチの上振れが起こりまくった結果であり、本人ですらこの記録を塗り替えることは相当運がないと無理と公言しています。