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クエスト報酬

「お見苦しいところを見せて済まなかったな」

「いえ、気にしないでください。お二人が無事に再会できて……本当に、良かったです」


 ようやく落ち着きを取り戻したハンスの謝罪に、シラユキがぼろぼろと涙を流し、鼻声混じりになって答える。


 おい、なんでシラユキが一番泣いているんだよ。

 涙脆いにも程があるだろ。


「こうしてアイシャとまた再会できたのはお前さん方のおかげだ。改めて礼を言わせてくれ。……本当にありがとう」


 ハンスは懇切丁寧に頭を下げた丁度そのタイミングで、店の奥からアイシャが布に巻かれた細長い何かと一冊の本を持ってこっちにやって来る。


「これは?」

「私の店にある中で一番の武器達だ。本来なら売り物にしてはいないのだが、生命の恩人であるお前さん方には是非、お礼として受け取って欲しい」


 ハンスがそう言って目配せすると、アイシャは二メートルは軽く超える長さのそれを俺の前に差し出し、布を取り払う。

 出てきたのは、石突きと柄に銀の装飾が施された黒い槍だった。


「うお、凄え……!」


 穂先から石突きまで全体的にシンプルなデザインではあるが、細部への意匠は拘られており、造りがしっかりとしているのが一目で見て取れる。

 これを見てしまうとオークの石槍どころか、他の店売りの槍ですら粗末なものに思えてしまう程だ。


 それと既に槍の所有権は俺に譲渡されているようで、[聖黒銀の槍を入手しました]とポップアップが表示されている。

 早速、インベントリを開いて性能を確認してみる。




————————————


【聖黒銀の槍】

 教会の祝福を受けた魔鉱石から鍛造された特注の槍。元々は儀礼用として作られたが、武器としての性能も高く、他の槍と一線を画す。

 この槍を担いし者に聖なる加護を与える。

・ATK+70

・特殊効果:攻撃時、聖属性付与

・装備要求値:STR55


————————————




 ……うん、序盤に出てきていい代物じゃねえな、これ。

 装備するのに要求してくるSTRもギリギリだし。


 というか、なんでこんな壊れ武器がクエスト報酬になってんだよ。

 こんなの火力インフレ起こしてくださいって言っているようなもんじゃねえか。


 とまあ、ツッコミどころは多々あるが、折角くれるって言うんだ。

 であれば断る理由もないし、ありがたく頂戴するとしよう。


 聖黒銀の槍を手に取り、触り心地を確かめてからインベントリに収納する。

 ちなみにシラユキには聖黒銀の槍と一緒に持っていた本を渡しており、シラユキはその本の詳細を確認するや否や、驚愕で言葉を失っていた。


「……受け取ってから言うのもなんだけどさ、本当にいいのか?」

「繰り返すがお前さん方は私の命の恩人だ。そのくらい安いものだ。それに私が武具屋を営んでいるのは、少しでも探索者の冒険の力になる為だ。だから遠慮せずに持っていくといい」


 冒険者の力になりたい、か。

 そういや、アイシャがそんなこと言ってたな。


 ハンス……あんた、めっちゃ良いやつじゃねえか。

 けど、だからって家宝レベルの物を報酬にすんのは絶対やり過ぎだぞ。


「……ああ、あとそうだ。あれも渡しておくか。少し待っていてくれ」


 そう言って今度は、ハンスが店の奥へと入っていく。

 流石に大盤振る舞いし過ぎじゃないかと思いつつ、背中を見送っていると、まだ目尻を赤くしたアイシャに声をかけられる。


「二人とも、本当にありがとう。旦那を助けてくれて」

「そんなに畏まらなくていいって。話の成り行きで結果、助けたってだけなんだし」

「それでも……私にとってあの人は、この世でたった一人しかいない大切な人だから」


 そう言葉にするアイシャの口調からは、そこはかとない哀愁が漂っていた。


 ……これ、もしクエスト失敗してたらどうなってたんだろうな?

 まずバッドエンドっていうか……胸糞悪い終わり方になるのは間違い無いんだろうけど、やり直しの効かない鬱展開とか見せつけられたりするのか?

 うわぁ……それだったら最悪だな。


 RTAをやってる身としては、タイムが縮まるんだったらNPCからの好感度がどれだけ下がろうが、NPCがどんな目に遭おうが構わない。

 けど、それはあくまでRTA内のみにおいての話だ。


 タイム短縮の為——という免罪符がなければ、例えNPCであってもわざと傷つけるような行為をしようとは思わないし、あったとしてやりたいかと言うと、答えはノーだ。


 そもそもアルクエは、リセットもリトライも効かないから、タイム短縮の免罪符があっても憚られるぞ。

 他のゲームと違って、NPCの感情がリアルの人間並に豊かだから余計にそう思う。


 そう考えると、リセットもリトライもできるって大事なことだったんだな。

 今更ながら再走ができるありがたみを噛み締めていると、店の奥からハンスが戻ってくる。


「すまない、待たせたな……って、どうした? そんな神妙な顔をして」

「いや、再走できるって素晴らしいなと思っていただけだ」

「……? まあ、いい。もう一つの礼だ。お前さん方にはこれも渡しておこう」


 ハンスから手渡されたのは、ゲーム内独自の言語で書かれた書状だった。


「クレオーノにある教会への紹介状だ。これがあれば優先して司教との謁見ができる。もし教会の援助が必要となった時にはこれを使うといい」

「お、サンキュー」

「ありがとうございます!」


 使う機会があるかは分からないけど、こういうツテができるのは大きい。

 ただ……最初に店にきた時から一つ気にかかることがある。


「それにしても……あんた、やけに教会とのパイプが繋がっているみたいだけど、どうしてなんだ?」

「ああ……それは、私が元々教会に所属していた人間だからだよ。アイシャと結婚する際に、司祭を辞めて商人になったわけだけど、その時に私の夢を友人に話したらとても共感してくれてね。それで教会の物資の一部を商品という形で探索者に提供できているわけだよ」

「へえ、なるほどね」


 なんつーか、教会って俺が思ってるより自由なんだな。

 普通、もっと抜けるのに制約がかかるもんだと思うんだけど。


 ただまあ細かいことを気にしたらキリがなさそうなので、そうなんだで片付けることにした。

もしハンスの救出に失敗した場合、アイシャは暫くの間、未亡人の哀愁を漂わせて店を切り盛りしますが、一定の期間が過ぎると店を畳んで何処かへ消えてしまいます。

夫亡き街に住むことに耐え切れなかったか、はたまた夫の後を追いかけようとしたのか……答えは彼女にしか分かりませんが、とりあえず言えることは、かなり勿体ない事をしたということですね。

クエスト報酬で手に入れた二つの装備は、ガチめに希少なアイテムだったりしますので……。


Q.じゃあ、なんでそんな希少な武器をこんな何気ないクエストで入手できるんですか?

A.それは勿論、あれですよ。あれ。クエストの発生条件にあれが含まれてるからです。

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