百のやり込み、一の運
まさかの答えに思わず、呆然を通り越して感心してしまう。
「お前、マジか……!!」
てっきり長くても十日とかそこらだと思っていたけど、流石にそこまでとは予想してなかったわ。
でも、だからこそ説得力はあった。
ゲームを始めてから三週間もの間、ずっと攻略もレベル上げもそっちのけでNPCのクエスト消化+αばかりに労力を費やすプレイヤーとか珍しいってレベルじゃねえもんな。
「うん……RPGなのにずっと冒険にも出ないで最初の街に一人で滞在してたなんて引いちゃう、よね……?」
「いやまあ、正直なところかなり予想外ではあったけど……遊び方なんて人それぞれなわけだし、別にこのくらいじゃどうとも思わねえよ」
というか、死にゲーでRTAやってる俺が人にどうこう言える立場にない。
JINMUのRTA配信を始めたての頃なんか、『うわ……このゲームでRTAするとかどんなマゾ豚野郎なんですか……』ってコメント書かれたこともあったし。
しかも、ガバった時の苦言コメントが正論ではあるけど辛辣だから、連続でやらかすと地味に凹むんだよな。
——でもあのリスナー、なんだかんだでアクティブ視聴者数がまだ二、三人とかの頃からの数少ない常連になってるような……。
そうなると、あいつもあいつでマゾ豚野郎疑惑あるんじゃね……?
なんて考えてると、ひだりが俺に同意するようにうんうんと頷く。
「そうそう。この手のゲームは自由にやるのが一番だよ! それにどっちかというとアタシは、低レベル初見ソロで蝕呪の黒山羊を倒したジンムの方に引いてるから」
「おい、何しれっと俺を刺してんだよ。泣くぞ?」
「あはは、その顔で言われてもねえ。悪いけど冗談にしか聞こえないよ」
言いながらひだりは、悪怯れることなく声を立てて笑ってみせる。
はぁ……これ、仮にキレても文句言われないよな。
怒るほどのことでもないけど。
「……まあでも、それくらい君のプレイヤースキルはずば抜けてるってことだよ。多分、レベルさえが互角ならトップクランの人達とPvPしたとしても十二分に渡り合えるんじゃないかって思ってるよ」
「お褒めの言葉どうも。ガチ勢にそう言ってもらえるとは光栄だ」
なんか上手く言いくるめられた気もしなくもないが、これ以上はまた話が変な方向に脱線しかねないし、そろそろさっきの話題に戻るとするか。
「——何にせよ、シラユキのおかげで面白い収穫を得られたな」
「そうだね。これが災禍の七獣攻略に繋がるのかどうかは調べてみないとだけど、ユニーククエストで眷属エネミーと戦えるって判明したのは、間違いなく大きな前進だよ」
にしし、とひだりは笑みを浮かべ、
「それじゃあ、後の細かい整理はそこで自分の世界に没頭しているアホ兄貴に任せるとして、アタシらはここらでお暇させてもらうねー。あとちょっとで日付回りそうだし」
「……ああ、もうそんな時間か」
メニューを開いて時刻を確認すると、11:54と表示されている。
今日はこの辺でログアウトするか。
まだ火曜だし、なんだかんだハプニングの連続で普通に疲れたし。
……なんか昨日もこんなだった気がするけど、まあいいや。
思い通りにいかないからこその面白さだってある。
記録更新が狙えるRTA中だったらブチギレるけど。
「今日はありがとね、二人とも! また何かネロデウス関連の情報が見つかったら教えてね。代わりに困ったことがあったら力になるからさ。その時は遠慮なく連絡してきていいよ!」
「いえ、こちらこそありがとうございました!」
「分かった。つっても多分、情報提供より頼ることの方が圧倒的に多いと思うぞ」
「いいのいいの! 初心者を手助けするのも経験者の務めってものだからね。それにジンムもネロデウス討伐を目指してるんでしょ? なら同じ目的を持つ者同士、協力した方が得策だし。……ま、ジンムは初心者と呼んでいいか怪しいけど」
溌溂とした笑みを浮かべ、ひだりはドンと自身の胸を叩いてみせる。
やべえ、ひだりがめちゃくちゃ良いやつに見える。
いや、普通にマジで良いやつなんだけどさ、森で襲ってきた連中とのギャップで更に善人性がより際立っているというか……あと最後の一言は余計だ。
MMOに関しては完全素人だからな。
「それじゃ、またねー!」
それから最後にフレンド登録をしてから兄妹とは別れを告げ、俺とシラユキはそのままログアウトすることにした。
こうして、波乱に富んだアルクエ生活二日目を終えるのだった。
* * *
これは余談になるが、その後、白城が手に入れた称号について何か情報が出回っていないか俺なりに調べてみた。
だが、成果は何一つとして無し。
攻略サイトも掲示板も方々出来るだけ漁ってみたが、【アトロポシアから感謝を賜る者】なんて言葉もそれに関係しそうな情報も発見には至らなかった。
登録者数が2000万人近くもいるから、てっきりもう誰かしらが発見してるだろうと思っていたが、どうやらそう単純なものではなかったようだ。
やっぱ、取得条件がややこし過ぎるのが原因か。
まあ、完全ノーヒントの中、手探りであれを見つけろって言われてもまず無理だもんな。
しかもあの称号に関しては、攻略ガチ勢であればあるほど逆に取得から遠ざかるとか罠過ぎるだろ。
それとついでにユニークについて調べてみて分かったことだが、発売から一年近くが経っても尚、ユニークが未だに発掘される理由は、内部データが一切流出しないことにある。
なんでもセキュリティが要塞レベルに堅い上にマスクデータが膨大過ぎて、内部データを覗き見ようとした解析勢が速攻で匙を投げたとか。
それでもサービス開始当初は、解析を試みようとした人間がそれなりに居たらしいが、国内外問わず一人残らず警察にお縄になったらしいし、ニュースになっていたのはなんとなく覚えている。
なので、今では誰も内部データには手を出さないとのことだ。
だからユニークを発見するには、相当やり込むことも必要だが、同じくらい運もかなり重要になってくる。
その点で言えば、白城はかなり持ってる側の人間ということになる。
——そう、本当に白城は持っていた。
白城が入手した【アトロポシアから感謝を賜る者】——これが、俺らの今後を大きく左右することになるとは、まだ誰も知る由もなかった。
【アトロポシアの感謝を賜る者】
無辜なる民を助ける為、始まりの街を奔走した邪念なき者へ贈られる感謝の証。
願わくば、この想いを胸に抱き続かんことを……
取得条件
・アトロポシア内のNPCからの累計好感度が一定以上
・アトロポシア内でのクエスト達成数が一定以上
・一定期間、業値が5以下
・■■■、■■■の属性が■■、■
取れそうで取れない条件設定。ただクエストをこなせばいいものではない。ただNPCの好感度を上げればいいものでもない。この称号を取るためには、人として大事なものを持ってなければならないのです。