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第六の獣、天魔

 第六の獣”天魔ネロデウス”――災禍の七獣と呼ばれる超特殊エネミーの一体。

 パスビギン森林以降の世界各地を徘徊しており、時折地上に降り立っては、その場に居合わせたプレイヤーをもれなく全員鏖殺、その後すぐにどこかへ飛び去っていくことから文字通り天災のような存在だという。


 見た目的な意味でも強さ的な意味でも正真正銘の化け物で、サービス開始から一年近く経つ現在でも未だに討伐報告は上がっていない。


 というのが、今しがた双子の妹(ひだり)に教えてもらった黒い化け物についての大雑把な概要だ。


 ちなみにこの兄妹はネロデウスの打倒を目標に掲げていて、攻略の手掛かりを得るために奴の行方を追っている、とのことだった。


「――なるほどな。だとすると、なんで俺とシラユキはそいつ殺されずに済んだんだ?」

「うーん……本来ならそんなことあり得ないはずなんだけどなあ。逆に何か心当たりとかあったりする? 変わった敵を倒したー、とか」

「心当たりって言われてもな。……あ、そういや昨日、パスビギン森林であいつに似た感じのエネミーはぶっ倒したな」


 蝕呪の黒山羊——全体的に黒一色だし、何より身体を覆っていた黒い煙がネロデウスとそっくりだ。

 これは何かしらの関連性がないと考える方が不自然だ。


「似た敵かあ。どんな特徴してた?」

「蝕呪の黒山羊って、バフォメットみたいな見た目の奴。なんか関係ある?」

「それだ! ……って、えーっ!? ホントに倒したの!? どうやって!?」

「どうやってと言われても、普通にガチファイトで倒したとしか。まあ、その後すぐに呪厄でデスポーンしちまったけど」


 やっぱあいつ特殊なエネミーだったか……って、なんでドン引いてんだよ。

 双子の兄貴(ライト)の顔も軽く引き攣ってるし。


 え、何……? 

 まさかこれ噂の「あれ、俺なにかやっちゃいました?」的なあれか?


 いやいや、確かにかなりの強敵だったけど、プレイヤースキルだけでゴリ押せるんだからそうでもないだろ。


「念の為に聞くけど……ジンムってサブ垢とかじゃないよね?」

「失敬な。こちとら始めてまだ二日目の絶賛初見プレイ中だっての」


 そもそもこのゲーム、生体認証込みの三重認証があるからセーブデータ一個しか作れなかったろ。


「そっかー、ごめんごめん。初心者が倒せるような相手じゃなかったから、つい」

「……けどまあ、言いたいことは分からんでもない。経験値量的にもあれは確実にクァール教官よりも強かったからな。今思い返しても、あれは痺れる激闘だった」

「左腕無くなってるのに断言するんだ」

「こうなったのはちょっと事故っただけだ。けど、こうなった理由はあまり追求しないでくれると助かる」


 気まずそうに顔を伏せるシラユキを横目に答えると、ひだりはそれで察してくれたようで「オッケー」と軽い口調で話を流してくれた。


「でもそうなると、始めたばかりのジンムがどうやって蝕呪の黒山羊と遭遇したのか、理由が気になるな。ジンムが倒した蝕呪の黒山羊はさ、災禍の眷属って呼ばれるエネミーの一体で、眷属エネミーはたまーにエリアやらフィールドに出現することはあるんだけど、パスビギン森林で出現したって話は聞いたことないから」

「へえ、あいつらそんな呼ばれ方してんのか」


 そういや……あいつを倒した時にゲットした称号って確か【黒の眷属を討ち倒し者】だったような……。

 あの時は大して気にしてなかったけど、眷属ってそういうことだったのか。



「……けど遭遇した経緯を知りたいんなら、俺じゃなくてシラユキに聞いてくれ。俺はシラユキが襲われていた所に割り込んだだけだからな」

「あ、そうだったんだ。てっきり君が出現させたのかと思ってた。でも実際に出現させたのはシラユキちゃんの方だったのか」


 そう言った直後、ひだりは何かに気づくような反応を示すと、にまにまと意味深な笑みを浮かべる。


「……なに?」

「つまりジンムは、シラユキちゃんの危機一髪の瞬間に颯爽と現れた王子様ってわけだ。それで今日も一緒に行動を共にしていると」

「そんな大層なもんじゃねえよ。あとシラユキとパーティーを組んでるのは偶然だ。昨日はどっちも気づかなかったけど、俺らはリアルでの知り合いだったんだよ」

「ふーん、偶然ねえ」


 そう答えるひだりの表情は更ににやけている。


「……だからなに?」

「いいや、なんでも。ただ青春してますなあ、と」

「その発言、年寄りくさいぞ」


 知らんけど、話した感じ俺と大して歳変わらんだろ。


「あー! そういうこと言っちゃう!? アタシまだ現役ピチピチのJKなんですけど!」

「自分でピチピチとか言うか? つーか、それなら尚更じゃねえか」

「……君、意外と意地悪だね」

「そうか?」

「そう!」


 むぅ、と小さく唸るひだり。

 隣ではライトがやれやれとため息を吐いていた。


「ひだり、話が脱線してる。……つまり、シラユキさんが蝕呪の黒山羊が出現する何らかの要因を発生させて、襲われたところを偶然出会したジンムが倒した、という流れで合っているか?」

「ああ、その認識で間違いないと思う」


 さっきからなんとなく思ってたけど、やっぱ似てねえな、この兄妹。

 双子でもここまで性格が違くなるもんなのか。


「それはそうと……シラユキがあいつに襲われた経緯、すっかり聞きそびれてたな」

「あ……言われてみればそうだね。いざ話そうとしたタイミングで色々起きちゃったもんね」


 ずっと気になってはいたんだが、男プレイヤーたちの襲撃から始まり、そのままクァール教官とぶっつけのボスバトル、直後に男プレイヤーたちの追撃、更には天魔ネロデウスとの邂逅。

 そしてついさっきまで命からがら麻痺の俺をシラユキが担いでの移動と、ずっとバタバタしてたから、ゆっくりと話を聞いてられる状況じゃなかった。


「それじゃあ改めてだけど、あいつと遭遇するまでどんな経緯だったのか教えてもらってもいいか? もしかしたら、ネロデウスに繋がるヒントとかあるかもしれないし」

「うん、分かった。まずアトロポシアの外れにある——」


 シラユキが言いかけたところで、ライトが「待った」と口を挟む。


「ん、どうした?」

「いや、話を聞かせてもらうのはありがたいんだが、もっと腰を落ち着ける場所の方がいいんじゃないかと思ってな。それにジンムも片腕がないままだと何かと不便だろうし、治療する為にも一度街の中に入らないか?」


 ライトの提案は尤もなものだった。


 確かにエネミーの出現するフィールドよりは街の中の方が良いし、いい加減この左腕がない状態もどうにかしたいしな。


「……それもそうだな。シラユキもそれでいいか?」

「うん、大丈夫だよ」

「よし、決まりだ。まずは腕を治しに教会に行くとしよう」


 こうして、俺たちは街の中に入ることにした。

災禍の七獣という名称はプレイヤーが付けたものではなく、NPCの口伝や書物に記されている名です。

しかし、災禍の七獣と言いながら七体全ての名前は明らかになっていません。ちなみにランダムエンカする災禍は天魔を含めて二体のみです。

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