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兄妹喧嘩

 世界に仇なす七つの厄災。

 虚ろなる闇を纏い、原初の罪を冠する哀れな獣。


 彼らに善悪は無く、ただ本能のままに世界を呪い、蝕み、死をばら撒く。


 ——其、災禍の七獣、世界に破滅をもたらすもの。


 故に獣たちは待ち侘びる。

 いずれ来る贖いの刻を、滅びを以て解放される瞬間を。


 赦しは請わぬ、欲するは罰のみ。

 彼らが希うはただ一つ。


 我が屍を超え、汝らが理想郷へ至らんことを。


 ——其、災禍の七獣、世界に救済をもたらすもの。




 *     *     *




「……何、この状況?」

「あはは……何なんだろうね」


 正体不明の黒い怪物との遭遇後、ようやく辿り着いたビアノスの門前で繰り広げられる光景を目の当たりにした俺とシラユキは困惑を隠せずにいた。


「だからさっきから悪かったと言ってるだろ、ひだり。また捜索手伝ってやるからいい加減、そいつをしまってくれないか?」

「うるさいバカ兄貴! ようやく追いついたと思ったのに、ライトが武具屋で掘り出し物があったとか言って店に篭ったせいであいつに逃げられちゃったじゃん! 前も同じことしたんだし一回デスして反省しろー!!」


 髪色や体格こそ違えど、よく似た顔立ちの男女が激しく言い合っている。

 黒髪褐色肌の男プレイヤーがライトで、亜麻色ツインテールの女プレイヤーがひだり……左右ってことか?


 とりあえず二人のPNと兄貴って単語が出てることからして、まず兄妹喧嘩中だってことは間違いなさそうだな。

 だけど……なんでこいつらガチ戦闘してんの?


 兄は両手に握るハンマーを巧みに操り、妹が高速で振り回してくる大鎌を捌いている。

 しかもアーツスキルを織り交ぜながら怒涛の打ち合いを繰り広げている辺り、かなり戦闘慣れもしているようだ。


 装備もここらにいるプレイヤーと比にならないレベルでガチガチに固まっているし、あれがこのゲームのガチ勢なのだろう。

 じゃあなんでそんなガチ勢がこんな序盤の街にやって来てるのか、理由が気になるところではあるけど。


「何にせよ……邪魔だな」


 兄妹喧嘩に首を突っ込むつもりはないが、道のど真ん中で暴れられると、危なっかしくて通れたもんじゃねえ。


「おーい、そこのおふたりさん。ちょっといいかー?」


 呼びかけてみるも、返事は返ってこない。

 それどころか戦闘は更に激化の一途を辿っていた。


「……聞こえてないみたいだね」

「みたいだな。下手に通り抜けようにも巻き込まれそうだし、どうすっかな……」


 麻痺と片腕欠損している今の状態で無理に戦闘に割り込むのは危険過ぎる。

 それに仮に割り込むことができたとしても、この貧弱ステータスじゃ攻撃を捌くのにしくって死ぬ可能性が高い。

 というか十中八九死ぬ。


 となると、ここは……飛び道具で注意を惹きつけるのが一番か。


「シラユキ、あの二人の間を狙って術ぶっ放してくれないか?」

「へ……ええっ!? そんなことして大丈夫なの?」

「事情を説明すればどうにかなるだろ。それにどう見たって道のど真ん中で暴れてるあいつらの方が悪い。話が通じない相手だったら……俺らの運が悪かったってことにしようぜ」

「ええ……でも、ジンくんがそう言うなら……。じゃあ、ちょっと待っててね」


 そう言ってシラユキは、俺を地面に降ろして杖を構える。

 術の発動待機エフェクトで気づいてくれたらそれでよし、気づかなきゃ少しびっくりしてもらうとしよう。


「それじゃあ、やっちゃうね……エナジーショット!」


 長杖の先端から放たれた光弾は、丁度二人の間に着弾し……お、やっと俺らに気づいたか。

 いきなり飛んできた攻撃に驚いた兄妹の動きはぴたりと止まり、大きく目を見開きながら俺たちの方を振り向いた。


「えっと、その……いきなり攻撃してごめんなさい! でも、こうでもしないと私たちに気づいて貰えそうになかったので……!」

「喧嘩中のところ悪いな。通行の邪魔だから横槍入れさせてもらったよ」

「……いや、非があるのは俺たちの方だ。すまない、迷惑をかけたようだ」


 状況を把握したようで、二振りのハンマーをしまい、丁重に頭を下げる兄。

 なんとなく生真面目なんだろうなというのが伝わってくる。


「こっちこそごめんね! 今退くから……って、ええっ!? どうしたの、その左腕!? 大丈夫!?」


 対する妹はというと、ころころと表情を変えながらこちらに駆け寄って来る。

 兄妹でも性格はかなり違うようだな。


「ああ、さっきエリアボスに食い千切られただけだから気にしなくていい。それよりも麻痺の方がキツい」

「……君、なかなかに肝が据わっているっていうか、その……変わってるね。と……そうだ。お詫びといってはなんだけど、ちょっと我慢してね」


 妹はインベントリを操作して黄色い液体が詰められたスプレー状のガラス瓶を取り出すと、それを俺に吹きかける。

 仄かに柑橘系の香りが漂う液体を浴びると、途端に全身の痺れは消えて無くなり、全く言うことの聞かなかった身体は自由に動かせるようになった。


「おお、治った……! 麻痺治しみたいなもんか。いや、それよりも……助かった、ありがとう」

「どういたしまして! ……ところで、なんでこんな場所で麻痺になってたの? ここら辺に麻痺にしてくるような敵は出現してこないはずだけど……」

「経緯は省くが、ついさっきまでタチの悪い連中と一悶着あってな。そのせいで粘着されてたっつーか殺されかけたっつーか……」


 そこで察したのか、妹もいつの間にか傍に寄って来ていた兄も「ああ」と同情するようにして声を揃えた。


「二人共、災難だったな。しかし……よくそれで生き残れたな」

「俺らもデスを覚悟したんだけどさ。襲われる瞬間に空から急に黒い怪物が現れて、連中を蹴散らしたおかげでどうにかなったんだよ」


 黒い怪物——その言葉を出した途端、兄妹の目の色が変わった。


「——ねえ、その話詳しく聞かせてもらっていい!?」

「あ、ああ。つっても、大した話はできねえぞ。すぐにどっか行っちまったから」

「それでもいいから! お願い、この通り!」

「お……おう」


 両手を合わせ食い気味に訊ねてくる妹に若干気圧されながらも、俺はさっき遭遇した黒の化け物について話すことにした。

状態異常回復アイテムの中身の色と香り

毒消し……紫、グレープ

麻痺治し……黄、シトラス

火傷治し……赤、チェリー

睡眠……緑、青リンゴ

凍結……青、ヤシ

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