楽園の中の天国と地獄
今度はセントラルエントランスから西に進むと、遠目から見ても明らかに豪華な宮殿が俺らを出迎える。
あの建物の中が何なのかは、まあ何となく察しがつくが——、
「あそこにあるのが黄金楽園といえばの人気観光スポット”パラダイスディヴィジョン”——ずばり、カジノっす!」
「やっぱりか。全体的に金ピカだったから、だろうな、とは思ってたけど」
「なんだか見てるだけで目が痛くなりそうなくらい派手な外観だね……」
シラユキの感想に頷いて同意する。
建物全体に施された贅の限りを尽くしたような豪勢で華美な装飾は、あまりにも派手過ぎて逆に趣味の悪ささえ感じてしまう。
なんというかバターの海に潜らせたトンカツにこれでもかとマヨネーズをぶっかけたような、そんな見ているだけで胸焼けしそうなタイプのけばけばしさが感じられる。
加えて、趣味の悪さを感じさせる要因が他にもある。
何気なく喧騒がする方に視線を傾ければ、
「ひゃっはああああっ!! オッズ百倍勝ち気持ちぇええええ〜〜〜!! ひ〜〜は〜〜〜っ!!!」
「クソがあああ!! なんで一番人気のあいつが負けんだよ!! そのせいで今日の稼ぎが全部吹き飛んじまったじゃねえか!! ほんと役に立たねえな、この(自主規制音)!!!!!」
「ヤダあああああっ!!! やめてくれえええ!! 俺はまだ舞える! まだ舞えるんだ!! だから、あそこに連れて行くのだけはやめてくれええええ!!!」
あまりにも分かりやすいカジノの勝者と敗者。
ゲーム内通貨だからまだいいが、現実でこんな景色を目の当たりにしたら、真面目にこの世の終わりを悟るぞ。
隣を一瞥すれば、シラユキも俺と同様にドン引きしていて、あまみおも僅かに顔を引き攣らせていた。
「うっひゃー……相変わらずの光景っすね。ここのカジノ、今までの稼ぎがバカらしくなるくらいの大金を稼げるから、あんな風に洒落にならないくらい熱中する人が出るんすよ」
「今までの稼ぎがバカらしくなるって……どんくらい稼げるんだよ」
「分かりやすい例えで言うと、一日かからないでLLサイズのクランハウスを一等地の土地代ごと買えるくらいには」
「……つまり、数億はくだらねえってことか」
ガチで半端ねえな、おい。
けど……本当にそんくらい稼げるのなら、全財産ぶっぱしてでも賭ける価値はあるかもな。
「でもまあ、大半のプレイヤーは破滅して終わってしまうんすけどね。お金もアイテムも装備も全部根こそぎ奪られた挙句、あまりに酷いとデータリセットした方がマシなレベルの借金を背負わされるらしいっすから、くれぐれものめり込み過ぎには注意しないといけないっすよ」
「ああ、気を付けるよ」
流石にデータリセットは遠慮したいところだ。
いくら再走には慣れてるとはいえ、これまで建てたフラグをまた回収するのはほぼ不可能だろうから。
特にネロデウス関連は、このセーブデータでしか辿れないルートに入ってるわけだしな。
典型的な勝者と敗者を尻目に俺たちはカジノの中に足を踏み入れる。
建物の中も外観同様、豪華絢爛なものとなっており、様々なゲームが出来るようになっていた。
「うわ、凄え……マジでなんでもあるじゃん」
「ポーカーをはじめとしたカードゲーム各種にスロットやルーレットみたく専用のマシンで遊ぶもの、他にもエネミー同士を戦わせたり、レースで競わせたりするようなちょっと変わり種もあるっすよ」
「そんなにですか……。ここまであると、逆に何で遊べばいいのか迷っちゃいますね」
「適当に目についてビビッときたやつとかで良いんじゃねえか?」
内容自体は普通のゲームなんだ。
賭ける金額さえほどほどに抑えることができれば、特に問題なく楽しめるはずだ。
まあ、俺は破滅しない程度には資金を突っ込むつもりだけど。
そもそも、俺がここに来たのは金策の為だし。
この街で荒稼ぎしまくって、今後の攻略に向けた軍資金かつライトとひだりに肩代わりしてもらったギルドハウス代を手に入れる。
その為にも、ギャンブルの元手となるコインをもっと多めに調達しないとな。
とはいえ、まだ具体的なプランは全然固まっていない。
とりあえずもう少しの間、色々と街の中を見て回ることにしよう。




