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黒く爆ぜて超えしは -10-

 思えば、ゲーム内でシラユキを背負って移動するのは、丁度一週間振りだ。


 あの時は悪樓騒動の真っ只中で、今後もパーティーを継続するかどうか頭を悩ませてたんだったか。

 なのにそれが今じゃパーティーを継続するどころか、一緒にクランを結成して、おまけに図らずも装備がペアルックみたいになってるんだもんな。

 ……ほんと、人生何があるか分からないもんだ。


 あれからそんなに時間が経ってないのに随分と懐かしく感じる。


「つーか、あれだよな。シラユキ、初めてパーティーを組んだ時と比べて見違えるくらい戦闘上手くなったよな」

「え……そ、そうかな?」

「ああ。だってそん時は、スライム一匹倒すのにも滅茶苦茶苦労してたじゃねえか」

「あはは……言われてみれば確かに。本当に酷かったもんね、あの時の私」


 酷かったで済むレベルじゃなかったけどな。

 なんつーか、これから自転車を使った遊びをやるって時に、そもそも自転車に乗れすらしないのが発覚したような気分だったぞ。


 思うが、シラユキの名誉の為に口は噤んでおく。


 ——とはいえ、だ。

 そこからの成長はお世辞抜きで目覚ましいものだった。


 術式の構築速度がぐんと上がっているのは当然として、陣形に合わせたポジショニング、戦況によっての術式の使い分け、発動タイミングの見極めを自分の頭で考えて実践出来るようになっている。

 実際、さっきの黒蠍二体との戦闘でも遭遇直後と片方が形態変化した時に大雑把な作戦方針を伝えたくらいで、後の細かい動きの殆どはシラユキの自己判断だったのが良い証拠だ。


 まあ、シラユキの咄嗟の機転が功を奏したのは、今回に限った話ではないけど。


「……きっと私が強くなれたとすれば、それは間違いなく皆んなと一緒にやれたおかげだよ」


 言って、シラユキは小さく笑う。


「私一人だったら、多分今も最初の街でNPCを助けてばかりだったと思う。戦闘はダメダメだったし、あそこで色んなNPCの手伝いをしてるだけでも十分楽しかったから。他の人からしたらすごく退屈な遊び方だろうけど」

「まあ……それは否定はしないでおく」


 俺だったら二時間で飽きてJINMUを始める可能性が大だな。

 そもそも本来の遊び方と大きく外れてるし。


「……でも、ジンくんが私を鍛えてくれて、ライトさんとひだりさんが裏で色々サポートしてくれて、朧さんにモナカさん、それとチョコちゃんと一緒に冒険できたからこそ今の私があるんだと思う」


 だからね、とシラユキ。


「ありがとね、ジンくん。一緒にこのゲームを遊んでくれて」

「どうした、急に」

「特に理由はないんだけど……何となく、お礼をしたい気分だなって」

「ははっ、なんだよそれ」


 どこか既視感のあるやり取りに釣られて俺も笑みが溢れる。

 前は俺からシラユキに言ったんだったか。


「それはそうと……ねえ、ジンくん」

「ん、なんだ」

「さっきの戦闘の時のジンくん……途中からなんかいつにも増してテンションが高くなってたような気がするんだけど……何かあった?」

「……あー、言われてみれば」


 特に自覚は無かったけど、いつもの二割増しくらいでハイになってた気がする。


「多分、いつもより敵が強かったからとか、久しぶりに呪獣転侵使ったからじゃねえか?」

「そう……なのかな」


 シラユキはどこか腑に落ちなさそうに呟いて、


「他に理由があるような気がするけど……」

「大して変わらないだろ」

「ううん、なんというか……いつもより迫力があったよ。それに何かにムカつくって叫んでもいたし」

「あー、そういやそんなこと叫んでたな」


 何にムカついてたんだったか。

 思い返し——、


「ねえ、何に怒ってたの?」

「それは……」


 ——お前が傷つけられた事にだよ。


 言いかけたところで俺は、続きの言葉をぐっと飲み込んだ。


 いやちょっと待て、今、俺は何を口走ろうとした……!?

 流石にそれを本人に直接言うのは、恥ず過ぎるだろ。

 いつだか変に口を滑らして気まずくなったのを忘れたのかよ……!


 馬鹿正直に言ったら、反応に困らせるだけだ。


「……それは?」

「聖女の雫を使わされる破目になったからだよ」


 誤魔化す。


「折角、無理して買ったのに、また補充しなきゃならねえとかふざけんなっての。あれ一個買うのに幾ら掛かると思ってんだ」


 一応、これも本音ではある。

 呪獣転侵一回発動で七十五万ガルが吹っ飛ぶのは普通に痛過ぎる。


 しかし、返ってきたのは胡乱な視線だった。


「——本当に?」

「本当にってなんだよ」

「……ううん、気にしないで」


 柔らかく笑いながら、でもどこかつんと澄ましたようにシラユキは言う。


「私の勘違いだったみたい。ごめんね、変な事聞いちゃって」

「……おう」


 一言応えれば、そこで会話はぱたりと途切れた。


 それから暫しの間、場が無言に包まれる。


 他のプレイヤーの姿が全く見当たらない夜の砂漠。

 聞こえるのは、俺が砂を踏み締める音くらいだ。


 ……シラユキ多分、納得してねえよな。


 確信はないが、反応で分かる。

 自爆を避ける為についた嘘とはいえ、これはこれで空気が重くてなんか嫌だ。


 はあ……仕方ねえか。

 砂の中に顔を突っ込みたくなるのを覚悟でぶっちゃけるか。

 後々、変に引きずるのも嫌だし。


 そしてオアシスに到着した辺りで、俺は大きく息を溢してから、


「——黒蠍がお前を攻撃したからだよ」

「……へ?」

「さっきのバトルで俺がムカついてた理由だよ。ゲームだからプレイヤーが攻撃されるのは当然だし、誰しも被弾は避けて通れないけど、それはそうとお前が攻撃されてデスしかけたのを見てなんか無性にイラついた。それだけだ」


 正直に伝えて、シラユキを地面に降ろす。


「あと、さっきは黙って悪かったな」

「……大丈夫だよ。本当のことを言ってくれてありがとね」


 後ろは振り向けなかった。

 多分、すげえ顔が赤くなってるだろうし、シラユキのリアクションによってはちょっとガチ凹みしそうだったから。


「じゃあ、ちょっと休憩な。一応、近くに敵が湧いてないかだけ見てくるから、シラユキはそこで休んでてくれ」

「う、うん……」


 そして、足早に俺はシラユキから離れるのだった。

ヒロインちゃんは、自分が原因だったとは思ってなかった模様。

この後、恥ずかしさのあまり主人公が戻って来るまで、顔を真っ赤にして顔が全部隠れるくらいフードを深く被ってたとか、被ってないとか。


あと次でエピローグです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主っちちゃんと理由を話せて偉い! ・・・けどこれ後で恥ずかしさのあまり砂に埋もれてる珍種の盾使いが見つかったりしない? [一言] NPCの手助けをする→感謝され気分が良くなる→気分につられ…
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