力、重ね合わせて
振り下ろされる爪は身を翻して躱し、返しにストレイクァールの首を狙って踵回し蹴りを叩き込む。
すぐさま繰り出される噛みつきは屈んで回避し、ハードアッパーで思い切り顎を突き上げる。
ただ帯電鞭髭ビンタだけは避けきれず、ほんの少しだけ身体を掠める。
「ぐっ……めっちゃ痺れるな、これ。しかもカスダメなのにダメージ量えげつねえじゃねえか」
二発掠っただけでHPが四分の一近く削れている。
恐らく、殆どは属性ダメージによるものだろう。
術攻撃や属性攻撃の耐性に大きく影響するRESは元から高くない上に、防具にSDEF補正がないのがかなりネックになっている。
……いや、防具に関しては初期装備で元々貧弱だから大して変わんねえか。
属性ダメージへの対処は今後の課題に据えるとして、今はストレイクァールを削り切ることに意識を切り替える。
鞭髭ビンタの攻撃モーションが終わると同時に、俺は膝蹴りをストレイクァールの顎にお見舞いし、立て続けに盾による渾身の右ストレート——バリアーナックルをぶっ放す。
このスキルは攻撃方法の関係上、盾の握り方を変える必要こそあるものの、リキャストが短く火力も高いから、スキルレベルをMAXにすればシールドバッシュに並ぶ良スキルになるだろうと睨んでいる。
「スタンには……チッ、ならねえか」
スタンになるまでの要求値が上がったか、もしくはリセットされたか。
どちらにせよスタン状態にさせるのは無理だと考えた方が良さそうだ。
まあ、それでもやることは変わらないんだけど。
「だったら……どちらか先にぶっ倒れるまで殴り合いといこうぜ! なあ!?」
片腕になろうと攻める姿勢は崩さない。
寧ろ、腕が無くなる前よりもより猛烈に攻撃を仕掛ける。
カスダメは無視して直撃だけを避け、スタミナ管理に気を配りながら、ただひたすら盾の殴打と蹴りの連撃をストレイクァールに浴びせていく。
「どうしたどうした!? 片腕ねえ奴相手にさっきから外してばっかじゃねえか! もっとよく狙えよ!!」
挑発でタゲ集中を取り、近接攻撃だけするように行動を誘導する。
鞭髭ビンタだけはまだ対応しきれていないが、それも直に慣れる。
超至近距離での肉弾戦によるダメージレースは俺の方に軍配が上がっているが、カスダメが重なってHPが少しずつ着実に削れていく。
今のままでは俺が先に力尽きる事になるが、残りHPが三割を切ろうとした瞬間、
「――ヒール!」
背後でシラユキの声が響くと同時に淡い緑色の光が俺の身体を包み、消失していたHPが最大まで回復した。
「ナイス、シラユキ! タイミングばっちりだ!!」
ストレイクァールに回し蹴りをお見舞いしつつ、叫ぶがシラユキから返事はない。
一瞬だけ後方に視線を移すと、もう既に次の回復術を発動させるべく術式の構築を始めているようだった。
あの様子なら、もうHPのことは気にしなくても良さそうだな。
(……本当、ありがとな)
心の中で改めて感謝を告げ、俺は追撃で回転した勢いを乗せたバリアーナックルを叩き込んだ。
HPの心配が無くなったことで、更に防御を捨て、激しく攻めるようにしたので、さっきよりカスダメは増えこそしたが、それでも丁度いいタイミングで回復術が飛んでくる。
まじでゴリゴリに削れているのにも関わらず、回復が間に合っているあたり、確実にシラユキの術式発動間隔が狭まっていると言っていいだろう。
この速度で絶えず回復術を使い続けられるようになれば、これから誰と組んだとしてもヒーラーとしての役割を全うできるはずだ。
そうして激しい殴り合いを繰り広げた末に、ようやく鞭髭ビンタにも完全に対応できるようになった頃だ。
ストレイクァールがまた後ろに飛び退き、木々の中へと逃げ込んだ。
――来たか!
「シラユ――!?」
注意を促そうと後ろを振り返ると、既にシラユキは術式の構築を中断して、俺の元へと駆け寄っていた。
距離もさっきよりも離れていない。
これなら問題ない。
俺もすぐさまシラユキの元へと駆け出し、盾を握る手に力を籠める。
ストレイクァールの初見殺し技は、姿を隠す際にストレイクァールから一番離れているプレイヤーの背後に回り込み、奇襲を仕掛けるというもの。
対応に手間取ると一気にパーティーが崩壊する危険性があるが、タネさえ分かってしまえば対処はそう難しくはない。
というか一度見れば対処できる初見殺しとかイージー過ぎんだよ!!
「――ジンくん!」
「任せろ!!」
シラユキとすれ違うことで位置を入れ替え、俺は前方から超高速で突っ込んでくる雷光に向かってバリアーナックルを放つ。
さっきは攻撃をいなしきれなかったが、おかげでカウンターのタイミングは掴めていた。
「——これで、沈め!!!」
全力で突き出した盾が眼前に迫っていたストレイクァールの顔面を捉えた。
自らの突進の勢いも相俟って強烈なノックバックが発生したからか、ストレイクァールの巨体は弾くようにしてブッ飛ばされる。
そのまま何度かバウンドしながら地面を転がり、ようやく停止した後、ストレイクァールはどうにか立ち上がろうとして、踏ん張りが効かずその場にドサッと倒れ込む。
それでも、もう一度力を振り絞ろうとするが、今度こそ完全に力尽きたようで、たちまち光の粒子となって消えていくのだった。
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【RESULT】
EXP 1620
GAL 920
TIME 14’26”03
DROP ”雷豹の爪×2”、”雷豹の牙×2”、”雷豹の鞭髭”
【EX RESULT】
称号【逸れ雷豹を討ち倒し者】を獲得しました。
称号【幻肢痛】を獲得しました。
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「……終わった、か」
五体満足での完全勝利とはいかなかったが、シラユキをノーダメで済ますことができたし、ぶっつけ本番にしてはまあまあ上出来だろ。
目の前に表示されたバトルリザルトの内容を確認してから、俺は背後にいるシラユキに視線を合わせる。
シラユキは呆然と立ち尽くしていたが、「GG」と手を挙げて声をかければ、次第に状況を呑み込めたのか表情が笑顔に変わる。
「……うん、GG!!」
そして、ハイタッチを交わし、記念すべき初ボス攻略を勝利で終えるのだった。
ストレイクァール
パスビギン森林のエリアボス。森林内の生態系の頂点に位置している。身体と同等の長さのある触手のような髭は発電器官となっており、高い俊敏性と電撃を活かして狩りを行なっている。
本来、クァールはパスビギン森林どころか大陸南部のどこにも生息していないのだが、群れから逸れたクァールが大陸を放浪した末にパスビギン森林へと流れ着いた。
戦闘場所が森の中だけあって、木々の間に隠れた後に後衛の背後から奇襲を仕掛けることあるので、隊列の後方にいたら安全というわけでもない。とはいえ、奇襲までには数秒の猶予があるので、ストレイクァールが木の上に飛び移ったのを確認したら中央に寄って、襲撃に備えれば対処可能。前衛は遠近両方の攻撃手段を持つ敵への戦い方を覚えたり、後衛は常にポジショニングの意識を高めるたりといった隊列戦闘の基礎が固まっていないと苦戦を免れないことから、プレイヤー間ではクァール鬼教官と称されている。
パーティーで戦闘し、勝利した際に獲得できる経験値は分配方式となっています。
今回はデュオで戦っていたのでこのような経験値ですが、ソロで戦えば倍の経験値が手に入ります。
それでも蝕呪の黒山羊よりも獲得経験値が低いのですが……まあ、あれは例外枠なので、ええ。




