ウィークポイント
朧の他のプレイヤーよりも突出した点——それは、常人離れした高いフルダイブ適正とアクロバティックな動きによる回避能力だ。
いや、正確に表現するのであればフルダイブ上における身体操作技術……所謂キャラコン精度といったところか。
それが並のプレイヤーよりもズバ抜けて高いから、VRゲームを始めた初日で単騎エリアボス撃破って離れ業を成し遂げたのだろう。
まあ、単純な実力の他に、被弾リスクの低い遠隔武器且つ、予備動作が少なく攻撃を外してもリソースに影響の少ない投刃の特性が噛み合ったっていうのが大きいけどな。
恐らく、他の武器を使っていたら、途中で回避ミスして被弾するか残弾切れで負けていた可能性が高かったはずだ。
じゃあ、投刃が強え武器種かというと、それは微妙なところだ。
遠近両用で使えるっていうのは確かに魅力的だが、それならモナカみたいに弓と短剣を使い分ける方が手っ取り早い。
はっきり言って、投刃という武器は癖が強いせいで、上手く扱うにしてもプレイヤースキルに依存し過ぎている部分がある。
朧が扱えているのは、たまたま元々のシナジーが合っていただけだ。
それでも、まだ完全に使いこなせているわけではないけどな。
——小太刀二本を振り下ろすと、朧は両腕の投刃で俺の斬撃を真っ向から受け止める。
「くっ……!!」
だが、俺と朧ではジョブとPP配分の違いでSTRが大きく離れている為、拮抗はすぐに崩れようとしていた。
「朧。判断ミスだぞ、それ」
「しまっ……!?」
腕力のごり押しで無理矢理朧の体勢を崩してから俺は、須臾の見切りを発動しつつ背後に回り込み、ガラ空きの背中に斬撃を叩き込む。
直後、戦闘終了を告げるウィンドウが出現し、俺の画面にはWIN、朧の画面にはLOSEの文字が浮かんでいた。
「……はあ、また負けちゃったか」
「今の受けはまとも打ち合うんじゃなくて、受け流すなりしてカウンターを狙うべきだったな。朧はSTRに厚くポイントを振っているわけでもジョブのパラ補正があるわけでもねえんだから、力の勝負になれば今みたいに強引に崩される」
「なるほど……じゃあ、次はそれを意識して戦ってみるよ」
「あいよ。けど、その前にそろそろちょっと休憩な。流石にずっと連戦でちょっと疲れた」
時刻を確認すれば、なんだかんだ模擬戦を始めてから既に一時間は経っている。
対戦数も三十回近くぶっ通しでやっているし、これ以上やると俺も朧も先に集中力が切れてしまいそうだ。
「確かにそうだね。ごめんね、僕のワガママに付き合わせちゃって」
「気にすんな。これくらい大したことじゃねえよ」
同じクランなんだ。
ライトやひだりほどの貢献度は無いにしろ、力を貸すのは当然のことだろ。
「それよりも、今の対戦の振り返りをしようぜ。いつの間にかギャラリーも集まってるしな」
屋内に繋がる一面の格子窓の向こうに視線をやると、他のメンバー全員が窓越しに見物していた。
「わっ、本当だ。全く気付かなかったよ」
「モナカとかは結構前から来てたぞ」
兄妹はちょっと前だったけど。
けどそうか……そんくらい対戦に集中してたってことか。
——そうか、俺が思っていた以上にガチってたんだな。
「んじゃまあ、ついでに外から見てた奴らからも講評を貰うとするか。特にあの超絶ニッコニコの鬼教官からな」
言いながら俺は、満面の笑みを浮かべるモナカを一瞥した。
「オボロンに足りてないっていうか弱みは、簡潔に言っちゃうと前衛アタッカーとしての技術が低いことだよね」
数分後。
俺と朧とモナカは、中庭の芝生に腰を下ろしていた。
ちなみにライトは既に工房に戻っていて、他の女性陣は近くのウッドデッキで雑談を交わしている。
「オボロンがこれまで前衛やれてたのは、攻撃度外視の避けタンクをしてたからで、ちゃんとした前衛アタッカーってなると、攻撃にしても防御にしても圧倒的に経験値が足りないから、ぬしっちに一回も攻撃を当てれないままボコボコにされちゃったーってわけ」
「身も蓋もないな、おい」
「でも実際その通りだからね。返す言葉もないや」
あはは、と苦笑する朧。
ただまあ、俺もモナカと概ね同意見だ。
モナカの言う通り、朧の弱点は、その経験の無さ故に起因する近接戦闘における練度の低さだ。
モーションアシストのおかげで動き自体は悪くないが、瞬時の判断が甘かったり遅かったりで、仮に実戦で似たようなことをしようものなら確実に命取りになるであろう行動がちょくちょく散見していた。
「けどけど、オボロンがまず鍛えなきゃいけないのは攻撃面かな。防御に関しては、避けるなり距離を取るなりすれば大丈夫だし、オボロンならそれが出来るしね」
「そうだな。空中ジャンプを覚えたおかげでマジで変態的な回避に磨きがかかったっつーか、捉えたと思った攻撃も何回か外したしな」
「モナカさんとダイワ君の特訓のおかげだよ。二人の攻撃を同時に対処する練習してたら、自然と身に付いたというか……」
「……おい、アンタら鬼か。見方によっては半分いじめに近いぞ、それ」
「テヘペロ☆」
いや、テヘペロ☆ じゃねえよ。
つーか、それを練習だと思える朧も朧だけど。
「でもさでもさ、お〜っきな才能の原石があれば磨きたくなるじゃん? 育てて実らせたいじゃん?」
「だからって磨き方ってもんがあるだろ。第一、お前とダイワが組んだら俺でも凌ぐのキツいっての。それに朧じゃなきゃ、ただのリンチでしかねえからな」
「まあまあ。僕としてはあれがあったからこそ、ジンム君と戦えていた部分はあるから良い経験だったよ」
「……朧がそう言うんならそれでいいか。もう過ぎたことだしな」
なんか話も脱線してるし、そろそろ本筋に戻さねえと。
「——それはそうと、朧の攻撃技術はどう鍛える?」
「ん〜……なんやかんやで地道な基礎練と、とにかく実戦こなして慣れさせろーっていうのが一番なんだろうけど、ただ闇雲に戦うってのも違うしな〜」
「確かにな。練習するにしても効率は重視していきてえよな」
具体的にどうすればいいのか案を考えていると、朧がおずおずと口を開く。
「……だったら、ジンム君が実際にエネミーと戦っているところを見せてもらいたいな」
「俺の?」
「うん。何かお手本になるものがあれば、それをイメージして練習できるから。……どう、かな?」
……まあ、それならアリか。
料理本を見ながら料理を作るように、何か参考になるものがあれば、手探りでやるよりもずっと効率が良いもんな。
それに今からエリアに行ったとしても、予定が大きく狂うこともない。
「ああ。じゃあ、軽くな」
「本当!? ありがとう、ジンム君!」
となれば、善は急げだ。
早速、近くのエリアに向かうとするか。
投刃の短所
・他の遠隔武器より射程範囲が短く速度も劣る
・基本、武器の形状が独特だから他武器と比べると接近戦で扱いにくい。
とりあえず、癖が強いのであまり使用されにくい武器種ではありますね。




