裏で育つは
今回ばかりは俺一人で来て正解だった。
大聖堂の外に向かいながら切実にそう思う。
もしシラユキと一緒だったら、レアの反応はよりおめでたい方向になっていただろうし、より質問攻めにあった可能性が高い。
マジで根掘り葉掘り聞こうとしてきたからな、あのシスター。
相手の女性はどんな人ですか、どこで出会ったんですか、じゃあなんでシワコヨトルの魔核を使った装飾品を身につけているんですか……etc.って感じにな。
ちなみにレアが強く関心を示したのは、彼女がディルシオン出身だからだ。
逆にエリックは、クレオーノで生まれ育ったから俺の腕輪がシワコヨトルの魔核を使ったものだとは、レアに言われるまで気づいていなかった。
代わりに浄魔の腕輪を更に加工したものだってことには気づいていたみたいだけどな。
「NPC一人一人にバックボーンがあるのは分かっていたつもりだったけど……改めてやべえな、このゲーム」
JINMUの時より数倍……いや、下手したら数十倍NPCが存在してるっつーのに、データ容量とかサーバーがパンクせずに済んでるのは、はっきり言ってイカれてやがる。
それでいてこれまで緊急メンテもほとんど無い上にこの完成度っていうんだから、MMOの覇権を握るもの納得だ。
だからこそJINMUがなんであんな鬼畜ゲーになるようわざわざ舵を切っているのが謎というか……って、ん?
「なあ、ネロデウスとベルフレアって災禍の七獣いるだろ?」
「そうだな。それがどうしたんだ?」
「掲示板見てたらさ、なんか最近、そいつらの被害に遭ってるプレイヤーの数が増えてるっぽいんだよね」
「うひゃあ、マジかよ……! 確かそいつらってトップ連中の奴らですら瞬殺されるくらい強えんだろ」
「ああ、前に俺もネロデウスと出会って十秒で拠点送りにされちまった」
「うわ……それは災難だったな。ちなみにどこでやられたんだ?」
「一昨日、大陸の西の方でな。それでここ数日は、西での被害がヤバかったらしい。まあ、もう違う方に飛んでいったのか、昨日からは別地域で被害が出るようになったっぽいけど」
ふーん、そいつは災難だったな野良プレイヤー。
ということは……俺らは良い感じにネロデウスと入れ違いになっていたのか。
タイミングが良いっつーか、悪いっつーか……ま、今戦っても余裕で負けるだろうけど、現時点でどれだけ通用するか腕試しはしてみたかったな。
同じく出口方向に歩く野良プレイヤー二人組の会話を耳に挟みつつ俺は、街の北にある平原に移動することにした。
「クランハウスに帰る前に、軽くダメージブーストの練習でもしておくか」
それから暫くして。
練習ついでに新武器の試運転も済ませてからクランハウスに帰還すると、丁度朧が地下から一階に上がって来ていた。
「よ、朧。……へえ、そっちも装備変えたんだな」
「やあ、ジンム君。まあね、さっきライト君に作ってもらったばかりなんだ」
にこりと笑う朧の装いは雷豹シリーズから一転、黒とダークグレーを基調にしたものとなっていた。
——なんつーか、ダイワと逆だな。
向こうは軍服っぽい上下服に深紅の着流しといった感じだったが、朧の場合は、黒い忍装束風の上下服にダークグレーのジャケットと和と洋の配置が逆になっている。
一言で表すなら、あっちが和の要素を取り入れた西洋の侍で、こっちが洋の要素を取り入れた忍者ってところか。
加えて腰に下げている投刃が、クァール教官のものから恐らくこの前倒した虚異霊のであろうものへと変わっていて、更に逆の腰には、何やら別のエネミーの素材で作ったであろう投刃らしき武器も装備してあった。
「下ろし立てか。何を素材に使ったんだ?」
「えっと……シェイドワイバーンってエネミーだよ。アドヴェンジ山脈より東に進んだ先にいる」
「エリアの東?」
つまり……エリア外の山脈フィールドってことか。
「おいおい、朧……お前、滅茶苦茶無理してんな。そこってもしかしなくても正規ルートから外れたところだろ」
「あはは、ライト君にも似たようなことを言われたよ。そうみたいだね。いやー、霊峰に連れて行かれた時ほどじゃなかったけど、あそこにいる間は本当に大変だったなあ」
「あー……ってことは、そこに行こうって言い出したのはモナカか」
言えば、「正解」と言わんばかりに乾いた笑いが返ってきた。
——アイツ、流石に朧のこと振り回しすぎだろ。
アドヴェンジ山脈の山岳地帯を西に抜ければ霊峰に行けるように、東に抜けてそのまま北上すれば、エリアボスをスキップして大陸東部に行くことが出来る。
勿論、そっちも所謂裏ルートだから、簡単に通らせないように攻略推奨レベルよりも遥かに高いレベルの敵がわんさか出るわけで、余程の腕がないとまず勝つことは無理だ。
「にしても……お前ら、よく勝てたな」
「まあね。……と言っても、殆どモナカさん頼りだったけど。僕とチョコさんも出来る限りの矢を持って行って、モナカさんの矢が尽きたらそれを渡すって繰り返しで」
「あ、チョコもいたのな」
「うん、三人ともエウテペリエの宿屋にテレポート先を登録していたし、皆んなでやった方が効率も良いからね。おかげで大分レベルも上がったよ」
言って、朧は変わらずPPが全て均等に割り振られた自身のステータス画面を見せる。
画面上部に表示されているレベルはというと、43と表示されていた。
「うっわ……マジかよ。地味に越されてるんだけど。朧、アンタらどれだけ周回してたんだよ」
「昨日、ほぼ一日中だよ。時々、アイテムを補充しにこっちに戻ったり、チョコさんは途中で抜けたりしてたけど」
「なるほどな。通りで昨日、朧とかと一度も顔合わせなかったわけだ」
まあ、俺も殆どクランハウスにいなかったってのも理由の一つではあるけど。
「そういえば……ジンム君。シラユキさんと黄金楽園って場所に行くって、さっきライト君とひだりさんから聞いたけど、いつ頃出発するつもりなの?」
「今日の夜だけど……それがどうかしたか?」
「うん、ちょっとお願いしたいことがあって。なるほど……じゃあ、まだ結構時間はあるって事だよね」
途中、独り言のように呟くと、朧は真っ直ぐと俺の方を見つめてくる。
それから、意を決したような表情を見せると、
「ジンム君。君に一つお願いがあるんだ」
頭を下げながら言ってみせた。
「僕と手合わせしてくれないかな? ——二刀流で」
モナカ達が低レベルで倒すことが出来たのは、ライトとひだりの支援があってこそです。流石に本来の進行度で入手できる武器とアイテムのみで敵のHPを削り切るのはまず不可能です。
それと左右兄妹、裏でクランメンバーの頼みで色々作ってるので、地味に忙しかったり。




