世界の住人から手紙届いて
ライトに言われた事の意味を考えてたら、いつの間にか明け方になっていた。
それから昼近くに目を覚まし、昨日の夕飯の残りを食ってからログインすると、メッセージウィンドウが表示されていた。
[ポストにあなた宛の手紙が届いています]
「なんだこれ?」
誰かからのメッセージなんだろうけど、それだったら直接ゲームシステムを経由してくるはず。
とりあえずマイルームを出て、クランハウスの入り口に移動してみる。
玄関先にあるポストを確認してみると、メッセージボックスに手紙が格納された。
「送り主は……エリックか」
って誰だ……あ、大聖堂の司教か。
へえ、NPCからもこうやってメッセージが届くことってあるんだな。
「けど、わざわざ手紙を寄越すなんて何の用だ……?」
早速、メッセージを開いてみる。
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探索者様
ご無沙汰しております。近頃はいかがお過ごしでしょうか。
先日の地下通路での一件は誠にありがとうございました。改めて、御礼申し上げます。
さて、本題に入らせていただきますが、本日キンルクエより聖女の霊薬が入荷しましたので、その連絡をさせて頂きました。
ご都合のよろしい時で構いませんので、お求めになるのであれば大聖堂まで足を運んでいただければと存じます。
エリック
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「——へえ。ようやく届いたか」
入荷するまでに数日かかるとは言ってたけど、ガチでそんくらいかかったな。
けどまあ、プレイヤーとは違ってNPCは、そうパッと簡単に移動できるわけでもないから、当然と言えば当然か。
歩きだとビアノスとクレオーノを往復するだけで数日かかるくらいだもんな。
初めてクエストを受けた時の事を思い出しながら、俺は聖女シリーズの回復アイテムを買いに大聖堂に向かうことにした。
……あ、その前に一応、貯金箱から金下ろしておくか。
「相変わらず迫力やべえな……」
途中、道具屋でインベントリに余った素材を大量に売り払った後。
数日振りに訪れた大聖堂の大きさとデザインにまたも圧倒されつつ、建物の中に足を踏み入れる。
奥に進んでいくと見覚えのある銀縁眼鏡の男が祭壇で祈りを捧げていた。
「エリック」
「……おお、これはこれは! お久しぶりです、探索者。わざわざ御足労いただきありがとうございます」
「いや、気にしなくていい。それより……届いたんだな、聖女の回復薬」
「はい、今朝方届きまして。今は修道院の中に保管してあります。早速、案内しますか?」
「ああ、よろしく頼む」
では、ついて来てください。
エリックに案内されながら、祭壇から修道院へと場所を移す。
途中、前に話しかけた事のあるシスターが俺の近くを通りかかった際、どこか喜ばしそうな視線を向けてきた気がするが、まあスルーでいいだろう。
そうして修道院の中に入ってから程なくして、建物の奥に歩いて行ったエリックが小さな木箱を手に戻ってきた。
「こちらが聖女の霊薬となります」
「……おお」
開かれた箱の中に入っていたのは、聖女の雫が三つと聖女の聖霊水が一つだった。
「すみません、取り寄せることが出来たのはこれくらいが限界でして……」
「これでも十分だ。これ以上多くても買いきれそうにないし」
というか、今ここにある分を買うのも無理じゃねえかな。
なんだかんだここ数日でかなり資金は貯まりはしたけど、言っても数十万でしかないし。
「ちなみに、これ一つで幾らだ?」
「そうですね……聖女の雫が一本七十五万ガル。聖女の聖霊水が一本二百万ガルとなっています」
「あー……だよなー。やっぱそんくらいするか」
今の所持金だと聖女の雫を一本買うのが限界か。
けど、金を下ろして、素材大量に売り払ってきたのは正解だったな。
じゃなきゃ、ここで買う事すらできなかった。
「申し訳ありません。如何せん、霊薬は聖女の奇跡の御業によって作られる物。そう簡単にお譲りできるような代物ではないので……」
「いいよ、何となくそうだろうなって予想はついていたし。取り置きさえして貰えるんならそれでいいさ。それと、とりあえず聖女の雫一本だけ貰えるか」
「は、はい。勿論です」
具現化させた七十五万ガルをエリックに手渡すと、聖女の雫を一本返され、受け取ると自動でインベントリに格納される。
これで一回だけなら呪獣転侵を発動or暴発したとしても大丈夫だな。
——けど、アーツを一回発動させるのに七十五万か。
金額に換算すると、中々にえげつねえ欠陥スキルに思えてしまう。
それと、これの倍以上の値段である聖女の聖霊水をくれたライトと何の躊躇いもなく俺にぶっかけたダイワの気前の良さと資金力の高さを痛感させられる。
しかも二人とも聖女の雫も幾つかストックしてそうだったもんな。
やっぱ資金に関しては、プレイ時間がものを言うか。
「ありがとよ。また金が貯まったら買いに来る」
「分かりました。またお越しになった際も私に声をかけてくれれば対応します」
「あいよ。そんじゃまあ、俺はこれで帰るとするよ」
要件が済んだ以上、ここに長居する理由もないしな。
別れを告げ踵を返そうとしたところで、
「……あ」
「あっ」
さっきのシスターと出会した。
「えっと……アンタは——」
「レアと申します。先日は、地下通路の魔物を退治していただきありがとうございました」
レアは深くお辞儀をすると、一転、目をキラキラと輝かせてこちらを見てくる。
——なんだろう、凄くめんどくせえ予感がする。
「あの……つかぬ事をお聞きしますが、探索者様はもう祝言は挙げられましたか?」
「ん、祝言? 何のことだ」
「えっ、だってその……左腕に身につけた腕輪に使われている鉱石って、シワコヨトルの魔核を加工したものですよね? 以前は身に付けてなかったので、てっきりどなたかと婚姻をなされたのかと……」
ああ……なるほど。
ひだりが言っていたNPCの反応が変わるってこういう事だったか。
思わず天を見上げる。
防具に関してはまだ気付かれてないのがせめてもの救いに思えた。
NPCからのメッセージは、手紙として届けられます。
主人公はクランハウスがある為、クランハウスのポストに配達されましたが、拠点を持たないプレイヤーの場合は、最後に利用した宿屋に届けられます。




