新たに袖を通すは-黒-
帰宅後は仮眠したり、親父が作ってくれた飯食ったり、今まで全く手をつけてなかった課題を進めたりしながら時間を潰すことにした。
まだ春休みが始まって一週間も経ってないとはいえ、出来る時にやっとかないと最終日に酷い目見るからな。(※過去四敗)
そんなこんなしている内に時間はあっという間に過ぎて行き、ライトから完成した旨の連絡が来る頃には十一時を回っていた。
「やっと完成したか」
早速アルクエにログインし、シラユキと共に地下工房室に行くと、ライトがどこかやつれた表情で待っていた。
「……来たか」
「おお……どうした、ライト?」
「だ、大丈夫ですか……?」
「……大丈夫だ。少しひだりに説教食らっただけだ」
いや……絶対大丈夫じゃねえよな。
少しどころかガッツリ絞られただろ、お前。
大方、こっちの作業に夢中になり過ぎて、ひだりからの頼まれ事をすっぽかしたとかそこらだろうってことは容易に想像が付く。
一応、自制してはいるみたいだけど、自分の世界に入るとマジで周りが見えなくなるタイプだからな、ライトって。
「そういや、新しい装備って今どこにある?」
「チェストの中だ。好きに取っていいぞ」
「あいよ」
近くに設置されたチェストの中を確認し、ライトが作製してくれた装備一式をストレージに移す。
それからシラユキが新たな防具に着替える為、一時的に隣の研究開発室に移動している間に俺も雷豹シリーズから黒闇狼シリーズに防具を変更する。
「へえ、こんな感じなのか……!」
黒闇狼シリーズは、上から下まで黒一色で統一されていた。
胴装備は黒いシャツに黒いベスト、その上に重ねるのは、裾が膝近くまである六分袖のロングコート。
腕装備の革手袋は左右で長さが違く、左手は一般的なそれだが、右手は前腕を覆うような形となっている。
それから下半身側は、かなりワイドなサルエルパンツみたいな腰装備に、膝近くまであるロングブーツの脚装備といった具合になっている。
——遂に全身豹柄から卒業する時がやって来たか。
雷豹シリーズとは一週間にも満たない短い付き合いではあったが、それでもいざお別れとなるとちょっとした感慨深さと一抹の寂しさを覚える。
……まあ、だからって戻すつもりはさらさらねえんだけど。
「にしても……防具ってよりは、ヴィジュアル系の衣装みたいな感じがするな」
要所要所には装甲はあるが、ぶっちゃけ見た目だけだと、雷豹シリーズの方が防御力があるように思える。
ただ、ステータスを確認するとDEFもSDEFも今の方が格段に上がっているから、ここは素直に数値を信じるとしよう。
「……と、そうだ」
ステータスを開いたついでに、頭装備の表示をONに切り替えてみる。
すると、顔をすっぽりと覆い隠せるほど深めの付けフードが出現した。
——これなら、頭装備を表示状態にしたままでいいかもな。
最後に部屋の端に設置された姿見で全身を見回してから、装備の詳細を確認してみた。
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【黒闇狼の頭巾】
赤炎を操る狼の素材を災禍の闇に染め上げて作られた。
我、漆黒に侵されても尚、瞼の裏には青き炎が燃え盛る。
・DEF+52、SDEF+14
【黒闇狼の戦闘服】
赤炎を操る狼の素材を災禍の闇に染め上げて作られた。
我、黒に変わり果てようと、心は常に青の炎と在る。
・DEF+67、SDEF+19
【黒闇狼の革手袋】
赤炎を操る狼の素材を災禍の闇に染め上げて作られた。
我、漆黒に呑まれながらも、青き炎を探し続ける。
・DEF+45、SDEF+11、TEC+18
【黒闇狼の穿物】
赤炎を操る狼の素材を災禍の闇に染め上げて作られた。
我、黒に意識が混濁しながらも、青の炎を求め彷徨う。
・DEF+60、SDEF+17
【黒闇狼の長靴】
赤炎を操る狼の素材を災禍の闇に染め上げて作られた。
我、永きに渡る黒の放浪の末、ようやく汝見つけたり。
・DEF+45、SDEF+11、SPD+18
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基本的な性能は、雷豹シリーズをそのまま強化させたような感じだ。
これに関しては、ライトがそうなるように調整してくれたのだろう。
でも、肝心なのはシリーズボーナスだ。
(——さて、どうなってる……?)
まずATK、SPD、TECが+20ずつのステ補正。
ここも雷豹シリーズの上位互換といったような感じだ。
次に闇属性強化(中)と闇属性耐性(中)——よし、バッチリだ。
ちゃんと闇属性関係のスキルも付けていてくれている。
これで黒刀の攻撃力強化にもなるし、黒禍の盾によるダメージブーストも、過剰チャージでの余波での自傷ダメージも良い感じに軽減してくれるはずだ。
「凄えな……! ありがとな、ライト。マジで感謝してる」
「何、生産職として当然のことをしたまでだ」
若干、ドヤ顔を見せつつもフッと笑みを浮かべるライト。
それを横目にスキルボーナスの欄を確認すると、『白闇狼との共鳴』という見慣れないスキルも付与されてあった。
……なんだこれ?
とりあえず、スキルの内容を確認してみるか。
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『白闇狼との共鳴』
黒闇狼との共鳴を所持するプレイヤーが同じパーティーにいる場合、戦闘中一度のみ発動。
自身もしくは黒闇狼との共鳴を所持するプレイヤーのHPが10%以下になった時、一定時間、両者のHP、MPを除く最も高い基礎パラメーターが上昇する。また、互いにHPが10%以下になった時、一定時間、両者のHP、MPを除く基礎パラメーターが全て上昇する。
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「なあ、ライト。このワンチャン壊れスキルみたいな奴って何?」
「……白闇狼との共鳴のことか。俺も初めて見るスキルだから細かな性能はよく分からないが、あって困らなそうな内容だったからとりあえず付けておいた」
「ライトも知らねえのな。まあ、そうか。エリアボスと災禍の眷属の素材を掛け合わせることなんてまず無えもんな」
ただ、これだけのプレイヤー人口だ。
探せばやっている奴はいるだろうが、それでも極々少数だろう。
というか……説明文を読む感じ、これって対になるスキルがあるってことだよな。
何となく察しはつくけど、それってもしかしなくても——。
思うと同時、部屋の入り口から足音が聞こえてくる。
すぐに振り向けば、シラユキが新たな装いに身を包んで、工房の中に入ってきていた。
長くなりそうなので後半に続きます。




