たまには外に出て
「はあ……やっぱ、そう上手くはいかねえか」
VRギアを外しながら、ベッドから起き上がる。
あれから色々試してみたが、どれも上手くハマらず化け物の巣窟を抜け出すことは出来なかった。
「とりあえず……サンドウォームが思った以上に厄介過ぎるな」
奴とエンカウントするとその巨体故に大回りしないとならねえし、ドン個体でもないから乱数次第では近くに二体湧きすることもある。
ただ動きはかなり鈍い方だから、逆に腹括って奴の近くを通り抜けるってのはアリかもしれない。
……近過ぎると、転がりで押し潰されるんだけど(一敗)。
「けどまあ、それなりに収穫はあったから良しとするか」
失敗に終わったけど、ダメージブーストを実戦で試すことも出来たしな。
ダメージブーストを使って二人で飛ぼうとすると、最低でも黒禍ノ盾にチャージするMPは全ブッパにする必要がある。
じゃないと飛距離も速度も足りずに中途半端な所に落下して、戦線離脱にすらならないという残念な結果に終わってしまう……ていうか、終わった。
それから——、
「……いや、よそう」
思い返すだけで頭ん中が沸騰しそうになる。
記憶を振り払うように立ち上がり、部屋の外に出ようとした時、ARフォンから着信音が鳴った。
拾い上げて画面を確認すると、通話をかけて来たのは親父だった。
——珍しいな。
「もしもし、どうした?」
『おお、創志! 悪い、ちょっと頼みたい事があってな。父さん、残業で帰るのちょっと遅くなりそうだから、夕飯の材料買っておいてくれないか?』
「えー、めんどくせえな。カップ麺じゃ駄目か?」
『まあまあ、そう言うなって。買ってきて欲しい物はメッセージで送っておくから頼んだぞ!』
「おい、まだ一言も良いなんて……って、切りやがったし」
……ったく、仕方ねえな。
春休み入ってからずっと引き篭もってばっかだったし、軽い運動がてら外に出るとするか。
という訳で、やって来たのは近所のスーパー。
ARフォン片手に、親父のメッセージに書かれていた物とついでに今後のアルクエに備えて大量のエナドリを買い物カゴに入れた後、菓子コーナーに寄って何か良さげなお菓子がないか眺めていると、
「ねえねえ、お姉ちゃん。マギ☆プリグミ買っていい?」
「んー……しょうがないなあ。一個だけだよ」
「本当!? わーい、お姉ちゃん、ありがとう!」
すぐ近くで、滅茶苦茶聞き覚えのある鈴を転がすような声が聞こえてきた。
瞬間、どきりと心臓が跳ね上がるが、すぐに気持ちを落ち着かせる。
あー、そういや……意外と家近所だったな。
俺も向こうも学校まで徒歩通学なわけだし。
思い出しながら声がした方を振り向けば、案の定そこにはよく見知ったショートボブの少女の姿があった。
「……あ、やっぱ白城だったか。よ」
「えっ、蓮宗くん!? どうしてここに……!?」
「ちょっとお使いを頼まれてな。そういう白城は……同じか」
手に提げている買い物カゴに視線をやると、中には様々な食材に飲み物、調味料とかがカゴ一杯に入れられている。
「結構買い込むんだな」
「家族の分もあるから。それに今日、特売で調味料が安くなってたしね」
ほら、と白城は持っていたARフォンを俺に見せてくる。
画面に表示されていたのは、ここのスーパーのチラシページで、中身に目を通すと確かに色んな調味料が特売価格で売られているようだった。
白城が家庭的なのは知っていたけど、ちゃんと節約とかも考えてるんだな。
女子高生がスーパーの広告をチェックしていることは置いとくとして、白城の節約意識の高さに感心していると、ふとじっと視線を向けられるのを感じる。
視線を追ってみると、白城をそのまんま一回り幼くしたようなワンサイドアップの女の子が、どこか警戒した様子で白城の陰に隠れていた。
「ところでさ、その子は……?」
「妹だよ。妃織っていうんだ」
「へえ、白城って妹いたんだな」
「あれ、言ってなかったっけ?」
口元に人差し指を当て、小さく首を傾げる白城。
言われてみると、大分前に聞いた気がしなくもない。
というか多分俺が忘れてるだけで、どっかで聞いた可能性のが高い。
「いや……悪い、俺が忘れてるだけかもしれん」
「ううん、気にしないで大丈夫だよ。私もそこら辺曖昧だから」
控えめに笑みを浮かべる白城。
しかし、その背後で白城妹——妃織は、変わらず警戒を強めたままだった。
(……やっぱ子供に好かれねえんだな、俺)
小さい子に怖がられたり、怯えられるのはいつものことだし。
ただ……妃織の場合、あまり怖がっているってわけじゃなさそうなんだよな。
対抗心——違うな、敵対心と表現した方が正しいか——のようなものを抱いているように見える。
何でそんな風に見られているのか、原因に思い当たる節はない。
けど、早く俺がいなくなって欲しそうにしているのは、他の子供と一緒だった。
仕方ねえ、なら要望に応えるとするか。
もう少しだけ白城と立話したくもあるけど、あんまり小さい子に不快な思いはさせたくないし、さっさと帰りたいってのも正直な所だしな。
けど、立ち去る前に一つだけお節介。
俺の真横に陳列されている包装に魔法少女らしきキャラクターがプリントされたグミを手に取り、そいつを白城に渡す。
「ほらよ」
「……へ?」
「妹、これ欲しそうにしてたろ」
「そうだけど……けど、どうして」
「さっき偶然二人の会話が聞こえただけだ。じゃあ、俺は会計して帰るから。夜になったらアルクエでな」
「う、うん……ありがとう。それじゃあ、また後でね、蓮宗くん」
白城の声に片手で応え、俺はレジに向かうことにした。
白城妃織ちゃん(7)
春休みが明ければ小学二年生。世界で一番好きな人は、お姉ちゃん。
ヒロインちゃんはクリスマスイブが誕生日ですが、妹ちゃんは七夕が誕生日です。
物語が開始するよりもかなり前のことなので二人とも記憶が曖昧になっていますが、実は白城家の家族構成についての話はしています。何なら主人公から話を聞いています。まあ、数秒で終わる程度の凄いサラッとした感じだったので、覚えていなくても仕方なくはあります。




