黒に染めて
「……なるほど、テクトリコヨトルとシワコヨトルの素材を使った防具か。うん、問題ない。確かにこれなら今の二人に見合った装備を作製できる」
場所は変わってクランハウス地下工房室。
アイテムチェストに収納された素材アイテムを眺めながら、ライトは満足げに頷いてみせた。
「なら良かった。一応確認しとくけど、これで一式揃いそうか?」
「ああ、寧ろ余りが出るくらいだ。何なら昨日のオーバードの分も合わせて新たな武器も作れるが……どうする?」
「え、マジ? じゃあ、それも頼むわ」
メインで運用するのは今装備している二つになるだろうけど、武器なんてあればあるだけ困らないし。
ただまあ、雷牙の剣はともかく、アーツの兼ね合いで最近、聖黒銀の槍の出番がめっきり減ってしまってるんだよな。
折角、特殊効果に珍しい聖属性付与がついてる訳だし、なんか上手く有効活用出来たりしないものか。
「分かった。武器種はジンムのアーツ構成に合わせた物にするつもりだが、細かい注文はあるか?」
「いや、特には。とりあえず性能重視で」
「了解した。……と、そうだ。良ければシラユキさんの武器も作っておくぞ。ジンムがいれば滅多に発生することはないだろうが、接近戦に持ち込まれた時に杖と魔導書だけじゃ対処し辛いだろうし」
あー、そういえば。
僧侶系統のジョブも何種類かの近接武器を装備可能だったか。
回復やバフがメインだから後衛職のイメージが強いが、思い返してみればクラスアップの派生先に近接戦を重視した僧兵ってジョブがあるくらいだもんな。
正直、シラユキがバリバリ前に出て戦うイメージは微塵も湧いてこないけど、自衛が出来ると出来ないとでは、仮に前線を突破された時の対応に大きく影響が出てくるはずだ。
——まあ、ライトの言う通り、俺と組んでる時は余程のことがない限りそんな状況にならないだろうし、させないけど。
「えっと……それじゃあ、お言葉に甘えて。よろしくお願いします、ライトさん」
少し悩みながらもシラユキがペコリと頭を下げると、
「任された」
ライトは、どこか上機嫌そうに口角を釣り上げた。
「……って、そうだった。ライト、防具の方で駄目元で頼みたいことがあるんだけど。いいか?」
「なんだ、言ってみてくれ」
「出来ればでいいんだけどよ……どうにかして闇属性耐性を組み込むことって可能だったりするか?」
恐らく、素材そのままに防具を作れば、シリーズボーナスで発生する効果は火属性耐性になると思われる。
だけど、黒禍ノ盾の魔力爆発でダメージブーストすることを考えると、闇属性耐性が一番望ましいところだ。
「ほら、前に防具に使う素材で発生するシリーズボーナスを変えられるって言ってただろ。それで闇属性耐性を付けられないかな、って」
「……わざわざ闇属性耐性を付ける意図が分からないな」
「ちょっとした事情があるもんでね。……けど、無理ならいいんだ。流石にライトでも——」
「——誰が無理だと言った?」
俺が言い終えるより先にライトが言葉を被せる。
「……へ?」
「要するにコヨトル族の素材を主体にしながらも、防具のメイン属性を火から闇に変質させたいということだろう?」
「まあ、そういうことだけど」
「なら簡単だ。聖とか魔のような特殊属性なら骨が折れるが、基本属性——ましてや闇属性であれば尚更な」
言って、ライトは自信に満ちた顔でフッと笑みを溢してみせた。
……この言い振りからすると、聖属性とかでもできなくはないってことだよな。
ひだりもだけどガチ生産職ってやべえな。
(けど……なんで闇属性を強調したんだ?)
「本来、エネミーやアイテム問わず属性の変質というのは、強い外的要因が無ければ発生しないようになっている。……だが、ごく僅か中にはそれを容易く行う存在がいる。そして、そいつに関連する素材を使えば、基本性能を向上させた上でメイン属性の変質が可能になる」
「……なんか随分と勿体ぶった言い回しだな」
「つまり……その敵のアイテムを集めてくればいい、ということですか?」
「いいや、その必要はない。……もう既に素材は集まっているからな」
頭を振った後、インベントリを操作するライト。
取り出したのは、禍々しくも黒い輝きを放つ鉱石だった。
——その素材には見覚えがあった。
「おい、これって……!?」
「あの、もしかしてこれって……」
「そうか、ジンムは既に実物を見ていたな。シラユキさんも察したか」
そうだ、と区切り、ライトは、
「武具の属性を変質させたいのなら、対応した属性の——災禍の眷属の魔核を使うのが一番手っ取り早い。これと他の素材を幾つか組み合わせれば、異なる属性のスキルに変化させることが可能になる」
……なるほどな、理屈は何となく分かった。
けど……だからと言って、
「コイツを各防具分揃えるのは、かなりキツくねえか? 集めるにしたって、災禍の眷属とエンカする確率ってかなり低かったはずだろ」
「それに関しては心配無用だ。俺とひだりが今まで集めた分で賄う。数はあまり多くないが、二人の防具分ならどうにか賄えるはずだ」
「……っ!? そんな、そこまでして貰うのは流石に申し訳ないです……!」
「何、気にしないで欲しい。俺もひだりも使うに使えないままずっとインベントリの中に眠らせていたからな。二人が必要だというのなら、今使うのもやぶさかではないさ」
言いながら、ライトは穏やかな表情を浮かべる。
——本人がそれで納得してるならいいか。
「……分かった。じゃあ、よろしく頼む」
「ああ、任せておけ。ひだりには俺から事情を伝えておく。それと完成は夜になるだろうから、それまでは適当に時間を潰していてくれ」
小さく笑ってからライトは、立ち上がり部屋の外へと歩き出す。
しかし、途中でふと立ち止まって、こちらに振り返る。
「……そうだった。二人が今装備している腕輪のアクセサリもチェストに入れておいてくれないか?」
「別にいいけど……どうするつもりだ?」
「少し改良を加える。上手くいけば、面白い強化になるはずだ」
ニヤリと唇を釣り上げてから、今度こそ部屋を後にするのだった。
災禍の眷属の魔核で装備の属性変化を可能とするのは、属性相性すら無視する災禍の強すぎる魔力が影響しているからです。他の素材でやろうとすると、二重属性になるケースの方が多いですね。
ちなみに無属性に違う属性を付与させるのは比較的簡単で、生産初心者でも作製可能になるまでそこまで苦労しませんが、二重属性にしたり、属性変化させようとすると一気に難易度が跳ね上がります。