真摯な想いに応えるは
筆が完全に止まってました……()
「あの……モナカさん。どうして、本当の事を言おうと思ったんですか?」
シラユキがモナカに訊ねたのは、暫くしてようやく平静を取り戻した頃だった。
「そうだよ、モナにゃん。いや教えてくれたのは嬉しいんだけどさ……けど、あくまでプライベート用のアカウントでやってたわけなんでしょ? なのに、言っちゃって良かったの?」
ひだりからも問われると、モナカは少しだけ間を置いてから疑問に答える。
「んー……そだね〜、確かにモナカのままでいっかなーって思ってたよ。……でも、さっきのアレを見せられたら、あたしも本当の事を言わなきゃなーって思ったんだ。あそこに連れて行ってくれたってことは、あたしにあのユニークを教えても良いって信頼してくれたって事でしょ?」
「まあ、そうだけど……」
ああ……なるほど。
つまり、ライトとひだりの信頼に信頼で応えたかったってことか。
ようやく合点がいった。
サラのことは——というよりグランドミソロジーは、まだ他のプレイヤーには存在すら知られていないトップシークレット中のトップシークレットレベルの情報だ。
昨日の二人を見るに、誰彼構わず教えるような感じは無かったし、教えるにしても相応の覚悟を持ってのことだったはずだ。
それを感じ取ったからこそ、モナカは自身の正体を明かす決断に至ったということなのだろう。
まあ、理屈は分かるが——、
「そういえば……ジンムはいつからモナカのことを知っていたんだ?」
不意にライトに視線を向けられると共に訊ねられる。
「皆んなと大して変わんねえよ。先週、俺のチャンネルで悪樓討伐の募集をかけた時だ。Monica♪本垢で凸られた時は、流石にちょっとビビったけどな。……つーか、今更だけどなんで俺には最初から正体を明かしたんだ? 別にモナカのままでも良かったろ」
「え、そりゃぬしっちには戦い方ですぐバレそうだったから」
ふと浮かび上がった疑問をぶつけると、けろりとした表情で答えが返ってきた。
「それにあの時って少数精鋭的な戦力を求めてた感じがしたからねー。だったら最初からMonica♪だって伝えた方が話が早く進むかなーってそんな気がしたんだ☆」
まあ、確かにMonica♪だって分かった時には、少人数でもいけると思えたけど。
……けど、あの後すぐ一方的に話切り上げられたよな。
(でもまあ……いいか。もう過ぎた事だし)
「ともかく——これであたしもだりー達も隠し事は無しってことで、改めてよろしくー!」
パンと一拍手。
快活な笑みを浮かべてモナカは高らかに言うのだった。
その後、各々が自分のやるべき事をするべく散り散りに消えていく中、俺はモナカを呼び止める。
「モナカ」
「……ん、ぬしっち、どしたの?」
「いや、大したことじゃねえんだけどさ……本当に打ち明けて良かったのか?」
ライトとひだりが伏せていた情報は、超絶トップシークレット級の内容ではあったが、けどそれはあくまでゲーム内の情報だ。
対して、モナカが自身の正体を明かしたのはリアルにも影響する。
アルカディア・クエスト内に限定するのであれば、情報の重さは兄妹の方に分があるかもしれないが、だからと言ってMonica♪だとカミングアウトするのは些かリスクが——、
「勿論、いいに決まってるじゃん☆」
一切の躊躇のない答えが返ってきた。
「だって、だりーとライライは、マジマジの真面目にネロデウスを攻略しようとしてるんだよ。だったら損得勘定とかリスク管理とか抜きにして、その本気に答えてあげるのが、ゲームをお仕事にしてる者の務めだとあたしは思うんだ。誰よりも本気でゲームに取り組むのがプロゲーマーだからね」
「……そういうもん、なのか」
「そういうものだよ」
——ま、いずれぬしっちにも分かる時が来るよ。
俺の肩をポンと叩きながらモナカは言うと、インベントリから使い捨て術巻を取り出した。
「どこか行くのか?」
「これからオボロンと一緒に霊峰にね。ヒロぽんにオボロンを紹介するんだー!」
「あ……ガチであそこに朧を連れて行くんだな」
いくらなんでもスパルタが過ぎる気がするが、まあ朧なら大丈夫か。
何つったって朧だし。
「チョコはどうするんだ?」
「んー、それがちぃちゃんも誘ってみたんだけど、そろそろ寝る準備をするから落ちるってさ。ていうかもうログアウトしてるよ」
「……うわ、マジだ。消える時はほんとフッと消えるよな、チョコって。……にしても、結構規則正しい生活送ってるのな」
時刻を確認してみれば、もう少しで十時を回ろうとしている。
俺としてはまだ十時って感覚だが、普通の人からすれば寝る準備に入ってもおかしくない時間帯ではあるか。
「そう言うぬしっちは、これからどうするの?」
「俺はシラユキともう何周かボス周回して落ちるつもりだけど」
「ふーん。な・る・ほ・ど・ね〜」
……何、そのにやけ面。
なんか無性にすげえ腹立つんだけど。
「ったく……なんか変な想像してるみたいだけど、モナカが考えているような仲じゃねえからな」
「えー、そうかなー?」
「ああ、そうだ」
短く答えれば、モナカからまるで残念な物を見るかのような怪訝な眼差しを向けられる。
「……はあ、全くぬしっちは——」
それから大きな溜息を吐いて何か言いかけるも、
「ま、いいや。じゃあ、あたしはそろそろ行くから、周回頑張りたまえー☆」
最後にケロッと笑ってから、使い捨て術巻を使用するのだった。




