カミングアウト
「えー、みんなに集まってもらったのは、何を隠そう……あたしからみんなに言わないといけないことがあるからです!」
クランハウスに帰還後。
メンバー全員が共用ルームに集まったところで、モナカがパンと手を叩いてから音頭を取った。
「モナにゃんがそんなに改まるって初めてだよね。そんなに大事なことなの?」
「いぐざぐだよ、だりー! ……まあでも、ぬしっちは最初から知ってたことなんだけどね!」
「あー……やっぱそのことだったか」
九割九分だった確信が十割に変わる。
(つーことは——するんだな、カミングアウト)
「そんなに重大なことなのか?」
「……まあ、な。詳しいことは本人の口から聞いてくれ」
となれば、俺は黙って行く末を見守ることにしよう。
他五人の視線が集まる中、モナカは一つコホンと咳払いをしてから口を開く。
「まずは何から話したものかなあ……とりあえず、だりー達はもうぬしっちから聞いてると思うけど、あたしがぬしっちと同じJINMUのRTA走者だってことは知ってるよね?」
「うん、そうらしいね。でも……前にライトとランキング見てみたら、モナカって名前のプレイヤー見つけられなかったけど」
「まあね〜。だって、モナカで登録してないからねっ!」
「……つまり、別名義があるということか?」
「その通り! というか、そっちが本名義かな☆」
言って、モナカはメニューを操作し、本体連携からSNSのとあるアカウントページを開く。
ユーザー名はMonica♪——公式アカウントのプロフィール画面だ。
「これは……配信者さんのアカウントでしょうか?」
「ちぃちゃん、そうだよ〜。FPSとJINMUのRTAをメインに活動しているMonica♪ちゃんだよ!」
自分でちゃん付けすんのかよ。
心の中でツッコミを入れつつ、静観を続ける。
「Monica♪さん……って、あれ? そういえば、Monica♪さんって、前にジンくんが投稿した動画を紹介してた人……ですよね?」
「あ、言われてみればそうだね。なんか見覚えがある名前だなあって思ってたけど、その人だったんだ。確か、超がつくほどの有名人だったんだっけか」
「ふむふむ、Monica♪さんとは、それくらい凄いお方だったのですね。ところで、モナにゃんさんはどうしてこの方のページを?」
のほほんとした反応を見せるシラユキら三人とは対照的に、兄妹は愕然とした表情でモナカを凝視していた。
——どうやら、モナカが何を言いたいのかを察したみたいだ。
「まさか……!? いや、まあ……ジンムに引けを取らないプレイヤースキルを見せられては納得だが……本当に、そうなのか……!?」
「えっ、え……えっ!? いやいやまさか、冗談でしょ……!? だって、ジンムってついこの前まで登録者二十人も届いてない零細チャンネルだったんだよ……!!」
「おい、二十一人だって言ってんだろ。そこ間違えんな」
つーかナチュラルに言葉のナイフ刺してくんなし。
底辺だったのは、事実だけどさ。
両目を大きく見開き、わなわなと声を震わせるライトとひだり。
モナカは、そんな二人に対してにんまりと無邪気に笑ってみせると、高らかに宣言するように告白する。
「——そう! だりーとライライは気づいたみたいだけど、改めて自己紹介するね! あたしは——プロゲーミングチーム『Seven's Wish』所属のMonica♪だよ! プロフィールに書いてる通り、FPSとJINMU RTAの配信をメインに活動していて、JINMU RTA Any%では現在四位の記録を持ってまーす! そういう訳だから、みんな改めてよろしくね☆ ……あっ、あとあと、あたしのことは引き続きモナにゃんって呼んでくれたら嬉しいなっ☆」
一息に言い終えると、モナカはキュピーン☆ と可愛らしい効果音がしそうな仕草で、目元でピースサインを作る。
これが配信だったら、ファンからのチャットで溢れ返りそうなものだったが、この場を包んでいたのは静寂だった。
「……って、ありゃりゃ? みんな、どしたの。そんなにポカンとしちゃって」
「どしたの、じゃねえよ。いきなり超弩級の爆弾情報を投下されたら、誰だって固まるだろ。俺だって最初知らされた時は、一瞬思考止まりかけたし」
固まる五人を尻目に、ついため息を溢す。
Monica♪を元々認知していた兄妹は当然として、シラユキも同じくらい驚愕を隠せずにいた。
(——でも、当然といえば当然か)
ずっと前から見知っていたリスナーが、実は超有名配信者でした、なんて唐突に知らされたんだから。
逆に朧とチョコは呆気に取られているようではあったが、そこまで驚いている様子は無かった。
さっきの反応からして、二人ともMonica♪の存在自体あまり知らなそうだったし、そもそもの認識が他三人とは違うのかもしれない。
料理に詳しくない人間が、三つ星レストランのシェフの事を知ってることの方が稀なようにな。
そして、暫しの沈黙の末、ようやく我に返ったシラユキ、ライト、ひだりの三人は、途端に示し合わせたかのように声を揃えて叫ぶのだった。
「「「えええーーーーーっ!!!???」」」
このタイミングでのカミングアウトになりましたが、ぶっちゃけ今まで気づかれなかった方が珍しいくらいです。
もしこの中にモナカのリスナーがいれば、先に気づかれていたと思われます。