検証と召集と
ひだり達がサラに会いにサブリメティヴ樹海に出発した後、俺はクレオーノと霊峰の間にある草原フィールドに足を運んでいた。
周辺のエリアに行くよりも近場で、且つプレイヤーの数も比較的少ないから、ちょっとした実験や練習にはおあつらえ向きの場所だ。
ここでなら多少派手なことをしても下手に注目を集めることはないだろう。
「さてと。んじゃまあ、サクッと検証してみるか」
ちなみにシラユキは既にログアウト済みだ。
シラユキもいてくれた方が練習になるけど、まず俺一人でちゃんとやれなきゃ話にならないから問題ない。
「……っし!」
周囲に人影が無いことを確認してから俺は、黒禍ノ盾にMPを流し込む。
まずは威力を抑えめにしたいからゲージ半分程度に留め、溜め終わってから俺は軽くジャンプすると同時に盾を自身に叩きつけ、黒の魔力を爆発させた。
瞬間——三割程度のHPの消失と共に、俺の身体は角度をつけながら後方に吹っ飛んでいく。
「ぐっ……!!」
距離にしておよそ十メートル弱。
背中から地面に叩きつけられた後、落下ダメで更にちょっとだけHPが削れるのを横目にすぐに起き上がり、インベントリからポーション二種を取り出し、失ったHPとMPを回復させた。
「……なるほど。MP半分だとこんなもんか」
思ったよりも自傷ダメは少ないな。
限界までMPぶち込んだ状態で”狂戦斧鳥”をぶん殴って魔力を解き放った時は、余波でHPが全損しかけたから、もっとダメージ喰らうもんだと思ってたが……まあ、別にこれならこれでいいか。
「被ダメ量が少ないに越したことはないしな」
それに飛距離は短いが、ちゃんと吹っ飛ぶこともできた。
実験はひとまず成功と言って良いだろう。
「にしても……まさかアルクエでこの技を練習することになるとは」
——ダメージブースト。
ダメージを受けることで発生するノックバックや吹っ飛びを能動的に誘発し、高速移動や本来進入することのできない領域に無理矢理突っ込むテクニック。
RTAやTASでよく使われる御用達の移動方法だ。
JINMUじゃ神足グリッチが優秀過ぎて滅多に使われることはなかったが、この技が開発される前はダメージブーストによる移動が主流だった。
つっても、All Bossとかの中距離以上のカテゴリだと今でもバリバリ現役で使われてるんだけど。
……まあ、それはおいとくとして。
「この感じならMP全ブッパでも問題なさそうだな……」
早速、次はゲージが空になるまでMPを黒禍ノ盾に流し込む。
それからジャンプと同時に盾を自身にぶつけ、二度目のダメージブーストを発生させた直後、俺の身体はさっきよりも空高く打ち上げられる。
——ついでに言うと、HPの九割近くが消し飛んでいた。
「が、はっ!!?」
——おい、なんでダメージが急激に跳ね上がってんだよ……!?
一発目の威力から鑑みるに、喰らう自傷ダメージは精々六、七割くらいだと思っていたのに……MPと比例じゃねえってことか……!!
「く、そっ……!!」
このまま地面に落ちれば、間違いなく落下ダメで自滅する。
仮に体勢を立て直して、綺麗に着地をしたとしても勢いを相殺しきれないだろう。
せめてポーションでちょっとでもHPを回復——って、うわっ、左腕ねえじゃん。
あー……今の一撃で吹き飛んだか。
「——これは詰み、か」
悟ると同時、浮遊感が消え、身体が地面に吸い込まれていく。
……ま、これが終わったら戻ってログアウトするつもりだったし丁度いいや。
久々にデスポーンタクシーの世話になることにしよう。
そして、大地と接触した背中から全身に衝撃が広がると、残り僅かだったHPは消失し、目の前がブラックアウトした。
* * *
モナカからメッセージが届いたのは、本日三度目のログインをした後のこと。
レベリングと素材集めの為、シラユキと共にテクトリコヨトルとシワコヨトルの周回をしていた時だった。
Monica♪:ぬしっち、今時間ある? あとユキりんと一緒?
配信主:時間はあるし、シラユキとは一緒にいるけど、どうかしたか?
Monica♪:ならちょうど良かった! 今からクランハウス戻れる? みんなに話したいことがあるんだ! あ、先に言っとくとちょび〜っと真面目な話ね!
配信主:分かった。もう少ししたらそっち戻る。
(Monica♪のアカウントでメッセージを送るってことは……つまり、そういうことなのか?)
ある一つの予感が過る中、チャット画面をじっと見つめていると、隣にいるシラユキが怪訝そうに首を傾げる。
「……ジンくん、どうかした?」
「ああ、ちょっとな。モナカからの召集だ。次、ボス倒したら一度クランハウスに戻るぞ」
「うん、了解。……でも、呼び出しなんて珍しいね。向こうで何かあったのかな?」
「……さあな。でも、雰囲気的には結構ガチ目な話っぽそうだ」
なんとなくの理由は予想はついているが、今はまだ伏せておいた方がいいよな。
これに関しては、本人の口から話すべき内容だろうし。
「モナカさんが真剣な話……なんだろう?」
「まあ、今はそれよりもボス倒すことに集中するぞ。慣れてきた辺りが一番事故りやすいからな」
「う、うん……! 気をつけるね……!!」
「……よし、それじゃあ速攻で撃破するとしようぜ」
ポンとシラユキの背を叩きつつ、気合を入れてから俺らはボスフロアの中に足を踏み入れることにした。




