一度、歩みを止めて
作戦会議することおよそ一時間半。
俺とシラユキのステータスや出現するエネミー情報などを照らし合わせながら議論を重ねた結果、どうにか攻略チャートを組み上げるに至った。
「——まあ、ざっとこんなところか」
「うん、良いんじゃないか。これならワンチャンを通せると思うぜ」
「後は……細かいところをやりながら修正していく感じになるか」
ひとまずチャートは無事に完成したが、本当に大変なのはここからだ。
机上の空論にも等しい筋書を現実にする為に、あまりに細い糸を手繰り寄せなければならないのだから。
(けどまあ……それは前も似たようなもんか)
思い返してみれば、悪樓をぶっ倒す時も似たような感じだったし。
出来得る限りの準備をしてトライアンドエラーを繰り返していけば、なんとかなるだろ。
「……さてと。話も一段落ついたことだし、オレはそろそろ落ちるぜ。そろそろ新商品のレビュー動画の撮影をしなきゃだし」
「了解。わざわざ付き合ってくれてありがとな」
「あの、細かなところまで色々教えていただきありがとうございました……!」
「応、二人とも頑張れよ! 陰ながら応援してるからな!」
最後ににかっと笑みを見せてからダイワは席を立ち、店の外へと歩いていく。
ただ数歩歩いたところでぴたりと足を止め、こっちに振り返ると、
「あ、そうだ。この際だし、主には宣言しとくか」
ビシッと俺を指差し、堂々とした表情で言い放つ。
「次はオレが一位になるぜ。DeerさんのWRをブチ抜いてな……!!」
「——っ!? ……ハッ、面白え。けど、上ばっか見て足元掬われねえように気をつけろよ」
「……ああ。だから、主も今度はガバるんじゃねえぞ!」
「うっせえ」
そして、互いに唇を釣り上げると、今度こそダイワは「今度こそ、じゃあな!」店を後にするのだった。
* * *
あれからディヴロザップ大砂漠突破に向けた準備のそのまた準備の為、夕方までネクテージ渓谷で壊邪理水魚を周回してある素材を集めた後、クランハウスに帰還すると、珍しくクランメンバー全員の姿があった。
——そういや、何気に全員がクランハウスに集結するのは初か。
なんて考えていると、俺らに気づいたひだりがブンブンと手を振った。
「二人ともおかえりー。どこまで行けた?」
「とりあえずアイリアスまでは到達した」
「おおっ! ひとまずは順調そうじゃん」
「当然だろ。……ま、そっから先に進むのはそれなりに時間かかりそうなんだけど」
ぶっちゃけ今朝の時点では、一日かければ行けるだろ、なんて思わなくもなかったが、流石に見通しが甘かったと言わざるを得ない。
「やっぱジンムでも一筋縄にはいかないかー。というか、それが普通なんだけどね」
「本当はサクッと行きたかったけどな。まあそれはそうと、その関連でひだりに頼みたいことがある」
「ん、何ー?」
「前に作ったアレを作って欲しいんだ。それも出来るだけ大量に」
インベントリを開き、壊邪理水魚の周回で手に入れた素材アイテムを指差せば、察したひだりは「ほほーん」と目を細めてから、
「よーし、まっかせなさい! 何に使うかは分からないけど、ジンムの望み通りバッチリ作ってしんぜよう!」
自信満々に親指を立てて見せた。
「サンキュー」
「あ——でも、もうちょっとしたらモナにゃん達を連れて例の場所行ってくるから、作業に取り掛かるのはそれが終わってからね」
「分かった。なら、素材は後でチェストに入れておくぞ。……つーか、今日も行くんだな」
「うん、まあね。サラのことは、三人にも早めに紹介しとかないとだし」
後方にいるモナカ達に視線をやると、ひだりの顔つきが少しだけ真剣さを帯びる。
それだけひだりに——兄妹にとって、サラとの約束は重要なものなのだろう。
「災禍の七獣……か。今更だけどアイツらって、いつどうやって生まれたんだ?」
「それがサッパリなんだよね。ライトがあれこれ考察してるけど、情報があまりにも少なくてさ。とりあえず三国時代の頃には既に存在はしてるっぽいけど」
「三国時代?」
初めて聞くワードにシラユキと顔を見合わせる。
「シラユキ、なんか知ってるか?」
「ううん。史実の三国時代とは違うんだろうな、ってことくらいしか……」
シラユキもピンと来てないってことは、ある程度世界観を調べてるような奴じゃないと知らなそうだな。
「三国時代っていうのは、今の国家体制になる前の時代のことね。シラユキちゃんの言う通り、現実の三国時代とは別物だよ。今は一つの国に統一されてるけど、昔は三つの国に分かれてたんだって。詳しいことはライトが知ってるから、気になるなら今度時間がある時に話を聞いてみるといいよ」
「ライトが……ああ、そうさせてもらうよ」
確かにライトならこういう手合いはガッツリ調べてそうだな。
ゲーム内の歴史にもちょっと興味あるし、サラの所から帰ってきたら軽く聞いてみるとするか。
——その後、軽い気持ちで三国時代の話を聞きに行ったら、二時間みっちりと講義を叩き込まれたのは別の話だ。
昔は北、西、東の三つの国に分かれて色々いざこざがあったりしたのですが、北と西の国が大きな戦争をした時に[——規制済み——]だったり、同時期に東国ではオーバードが大量に発生し、討伐しきれなくて[——規制済み——]ことで三国全部滅びかけた為、これまでの敵対関係を水に流して停戦協定を結び、今の国家体制になりました。キンルクエが王都になったのは聖女様がそこにいたからで、もし違う都市にいたのであればそこが王都になってました。
ちなみにクレオーノは三国統一後に建設された都市であり、それからしばらくして南下したNPC達によってビアノス、アトロポシアが開拓されていきました。




