再び、虹の喫茶店にて
近々、章の構成をちょっと弄ります。
エリア突破に向けてやらなきゃならないことは、それなりにある。
最低限のレベリング、スキルの調整、防具の新調……といった具合に色々あるが、最も重要となるのが——ルートの選定だ。
休憩を終えてアルクエに再びログインした後、Bテレポで一度クランハウスに帰還して諸々の準備をしてから、シラユキと共にクレオーノの中央区に移動し、訪れたのは『ラルカンシエル』。
前にクランの方針会議で利用したNPCカフェの中でシラユキと適当に雑談をしながら時間を潰していると、ふと店内に見覚えのあるプレイヤーの姿が視界に映る。
「ねえ、ジンくん。もしかしてあの人が……?」
「ああ、前に霊峰で会った——」
鮮やかな深紅の着物と後ろで束ねた金の長髪。
それと頭に乗せた金属製の髑髏の仮面が特徴的な侍風の装いをしたプレイヤーは、店内を一望してから、一直線に俺らの方に近づいてきた。
「——よっ、主! 待たせたか?」
「大丈夫だ。それより急に呼び出して悪いな」
「いいって、そんなの気にすんなよ!」
言って、にかりと白い歯を見せたダイワは、俺の前の席に腰を掛ける。
「……と、そうだ。紹介しとく。隣にいるのがシラユキ——俺と一緒に行動してるクランメンバーだ」
「シラユキです。は、初めまして……!」
「応。主から話は聞いてるかもだけど、ダイワだ。よろしくな!」
ペコリと頭を下げるシラユキにイケメンオーラ溢れる快活な笑顔で返すと、そのまま俺に視線を傾け、意味深に目を細める。
「……なるほど。この子が例のリアフレの——」
「言っとくが、お前が想像しているような関係じゃねえからな」
「はいはい、分かってるよ」
——だったら、今すぐそのにやけ面をやめろ。
はあ、と一つ溜め息。
「とりあえず、早速本題に入らせてもらうぞ。わざわざここに来てもらったのは、ダイワに訊きたいことがあったからだ。単刀直入に訊くけど——速攻で黄金楽園に到達できるルートとか開拓してたりしないか?」
「……突拍子もない事訊いてくるな。なんでそう思ったんだ?」
「だって、俺とお前は同じタイプの人間だろ。それなら挑戦していてもおかしくないと思ってな。それで……実際のとこ、どうなんだ?」
訊ねれば、ダイワは一拍置いた後、ニヤリと唇を上げて一言。
「——勿論、開拓済みに決まってんだろ」
それからメニューを操作し、ディヴロザップ大砂漠のマップデータを開くと、それをテーブルの上に広げて説明を始める。
「出発地点はアイリアスで基本的に黄金楽園までは直線で進んでいくけど、幾つか侵入不可障壁が展開するタイプの野生のボスエネミーがいるから、そいつが出現する区域は迂回して行く感じだな」
大まかな道のりを指でなぞりつつ、危険なポイントにはピンを刺していく。
こうして黄金楽園がある地点までの進行ルートを完成させると、
「ほらよ」
そのマッピングデータを俺に飛ばしてくれた。
「サンキュー、助かる」
「これなら戦闘を最小限に抑えていけるはずだぜ。ただ——」
「……最後までエンカなしは無理って感じか」
ああ、とダイワの首肯が返ってくる。
「よほど隠密系のビルドを組まない限りは、必ずどこかしらで戦闘は発生する。その時にどうやって戦闘を切り抜けるかの手段は考えておいた方がいい」
「戦闘を切り抜ける、ね。……全力ダッシュで逃走ってのは無理か」
「できるできないで言えば、多分出来る。つっても、あくまで主一人だったらの話だけど。……でも、そうじゃないだろ」
ちらりとシラユキを一瞥してダイワは言う。
視線を向けていたのは、ほんの僅かな間ではあったが、ダイワの言わんとしていることに気づいたシラユキが表情に翳りを見せた。
「おい……!」
「シラユキに厳しい事を言ってるのは分かってる。でも実際、二人のAGIってかなり離れてるだろ。それで一緒に走って逃げるっていうのは普通に無理があると思うぜ。というか、仮に同じくらいの脚の速さだったとしても、主の本気の動きについて行ける奴なんて限られてくるだろ」
——それこそ、JINMU走者とかじゃないと。
素直に認めたくなどなかったが、正論が故に返す言葉が無かった。
堪らず歯噛みしていると、ダイワはフッと笑みを溢して続けて言う。
「……でも、一人じゃねえってことは、同時にそれだけ戦術の幅も広がるってことでもある。逆に二人だからこそ出来るやり方っていうのもあるはずだぜ!」
(……気休めってわけじゃなさそうだな)
まだ付き合いはかなり短いから人となりを完全に掴めたわけじゃないが、ダイワは裏表がある奴じゃない。
さっきの指摘も今のも、どちらも本心からの言葉なんだろう。
「けど……具体的にはなんか方法はあるのかよ?」
「それをこれから皆んなで考えるんだよ。三人いたら何とやら、って言うしな!」
「……三人寄れば文殊の知恵、ですか?」
「そう、それ! そんなわけでやろうか……作戦会議。俺もバッチリ協力するぜ!」