その剣技、柳の如し
普段よりも反応速度が下がってる。
防御用の盾もたった今投げ捨てたばっかで、代わりに雷牙の盾を装備し直している余裕もない。
そのせいでジャスガもパリィも使えない。
だとしても、それでも自信を持って断言できる。
——一方的なカウンターは可能だと。
視る。
二匹の魔獣によるコンビネーションを。
——クリティカルアイを発動。
それから黒刀を両手でしっかりと握り締め、静かに待つ。
奴らが攻撃を繰り出すその瞬間を。
——続けてドッジカウンターを発動。
「……っ」
互いの行動の隙を埋めるように畳み掛けてくる連撃を最小限の足捌きで躱しながら時折、黒刀でいなし、受け流す。
その際に、そっと置くようなイメージで黒刀を振るい二匹の魔獣に斬撃を浴びせていく。
こうして着実に少しずつクリティカルダメージを重ねていく。
(……向こうからすれば不思議だろうな)
何せ攻撃する度、逆に不可解な深傷がどんどん増えていくのだから。
しかも、大して力を込めていないであろう軽い返し技によって。
まあ実際、気持ち三割程度の力でしか刀は振ってないしな。
だったらなんで高威力の一撃を放てるのか。
理由は、さっき発動した二つのアーツスキルにあった。
ドッジカウンター——普段は機動力の底上げ目的でしか使ってないからあまり真価を発揮することはないが、本来こいつは回避系アーツスキルだ。
効果は発動してから僅かな間だけAGIとDEXに補正をかけ、且つ発動中に攻撃の回避に成功した場合、一定時間通常攻撃&クリティカル威力を上昇させる。
そこにクリティカルアイを掛け合わせることで弱点部位への威力上昇も重なり、首筋や心臓付近に黒刀を沿わせるように斬りつけるだけの一撃が想定以上の火力に跳ね上がるってわけだ。
加えてカウンターの殆どを相手の勢いを利用して当てているからか、スタミナの消費量はかなり少なく済んでいる。
これならこのまま長時間二匹を相手取ることだって余裕で出来るどころか、先に向こうが疲労状態に陥るだろう。
(そもそもこいつらに疲労って概念があれば……だけど)
まあ、それに関してはどっちでもいい。
俺としては向こうの攻撃が激しくなればなるほどカウンターチャンスが増えて好都合ではあるし、動きが鈍ったならこっちから攻め立てることが出来るから。
とはいえ、今の状態的には前者であって欲しい所だ。
——単純にそっちの方がダメージ効率が良い。
「……けど、たまにはこっちからも攻めるとするか」
待つばかりってのもつまらねえし。
テクトリコヨトルの引っ掻きを避けつつ、一太刀斬りつけた後、まだ攻撃モーションに入っていないシワコヨトルの懐に潜り込み三浪連刃を放つ。
高速の三連攻撃を叩き込んでからようやくシワコヨトルが動き出し、番を攻撃されたテクトリコヨトルが報復の噛みつきを繰り出す。
「悪いが——」
読めてんだよ、それ。
即座に鏡影跳歩を発動。
二匹の同時攻撃をバックステップで回避した直後、攻撃終わりのテクトリコヨトルに狙いを定め、ホライズフラッシュで返しの一閃を浴びせる。
それから黒刀を構え直し、二匹の次の動きに備えた瞬間だった。
突如として魔獣二匹は一斉に俺から距離を取ると、遠吠えを上げ全身にそれぞれ体毛と同じ赤炎と青炎を纏わせた。
「来たか、発狂モード……!」
警戒を強め、すぐさま憤怒の投錨者の発動を図る。
……が、二匹の魔獣は俺の予測を上回る速度で各々動き出す。
「チッ……シラユキ!!」
今の形態以降でタゲ集中は強制解除されている。
そのせいでテクトリコヨトルは俺へ、シワコヨトルはシラユキへと襲いかかっていた。
以前の森林での出来事が脳裏を過る。
あの時も特殊行動に入った直後の隙を突かれてしまった。
今すぐにスプリングブーストとドッジカウンターを同時起動させれば、カバーはギリ間に合うか……?
——なんて、前の俺ならそんなこと考えてただろうな。
確かに後衛に攻撃の矛先が向かないよう、仮に向かれたとしても防ぎ、守るのが前衛の役割ではある。
だが……、
「うちのヒーラー、舐めんなよ」
もう守られるだけの存在じゃねえんだよ、シラユキは。
俺には一切脇目も振らず、真っ直ぐとシラユキへ肉薄するシワコヨトル。
そのまま間合いに入り、飛びかかろうとするも、
「——聖蕾・粋護!」
シラユキの周囲を覆う形で展開された防衛タイプの光の結界に防がれ、シワコヨトルの攻撃は失敗に終わった。
「ナイスガード!!」
テクトリコヨトルの突進を躱しながら一太刀浴びせつつ、シラユキに向かって叫べば、シラユキは集中を保ったまま、どこか誇らしげな笑みを浮かべて見せた。
「……来い!!」
続けて即座に憤怒の投錨者を発動してシワコヨトルのヘイトを俺に向き直させ、さっきの状況を作り直そうと試みる。
効果はすぐに現れず、シワコヨトルは発生した結界を破壊しようとしていたが、もう一度テクトリコヨトルにカウンターを叩き込めば、怒り狂いながら速攻でUターンして来た。
「ったく……手、煩わせやがって。最初からそうしろってんだ」
テクトリコヨトルの動きにも注意を払い、俺は再度ドッジカウンターとクリティカルアイを発動させるのだった。
さてと……そろそろ締めと行こうか。
Q.なんでヒロインちゃんは、咄嗟に防衛用の術式を発動できたのですか?
A.一応、ワンちゃん達の情報をある程度下調べしていたからです。とはいえ、咄嗟に対応出来るだけの判断力が無いと間に合わずにボコされるだけなので、ちゃんとヒロインちゃんも後衛として成長してるということですね。




