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若人の特権

 *     *     *




「あーりゃりゃ、逃げられちゃったかあ」


 少年少女の背中の見送りながら、みゆぴーは惜しむように呟く。

 しかし、表情はあっけらかんとしており、寧ろ当然だと言わんばかりに納得しているようでもあった。


「……まあ、秘匿したいユニークの一つや二つあっても当然か。——それが、件のレイドエネミーに関する事なら」


 ——今から遡ること数日。

 ネクテージ渓谷で発生した悪樓による変異レイド。


 天魔ネロデウスが発端とされる三日間に及ぶ騒動は、多くのプレイヤーを巻き込んだちょっと事件となっていた。


 みゆぴーは現地に居合わせたわけではないので、その時に実際何があったか、その全容を知っているわけではない。

 だが騒動が終わった後、渦中にいた人間から耳寄りな情報を訊き出していた。


「……全く、レイちゃんも惜しい人材を逃してしまったもんだねえ」


 ——クラン『アルゴナウタエ』が、悪樓を撃破したプレイヤーの勧誘に失敗した、と。


 一部からは、ただプレイヤーをより混乱に陥れる為だけに行った自作自演の入団試験などと言われたりもしているが、彼女らは確かにクリアしたプレイヤーのうち二人に声を掛け、クランに誘い入れようとしていた。

 ただ、どちらも首を縦に振らなかったことで計画は白紙になってしまった、とのことだ。


 スカウトに失敗した本人から直接聞いた話だった。


 悪樓を撃破したプレイヤーについて詳しくは訊かなかったし、仮に訊いたとしても彼女が詳細について口を割ることは無かっただろう。

 なのでここからはあくまでみゆぴーの推察になるが、彼女らがスカウトをしようとして断られた相手……そのプレイヤーの片割れこそ、きっとついさっきまで一緒にいた少年のことだと思われる。


「名無し君だったら、誰だって味方に引き入れたくなるもんなあ」


 無名の配信主——突如としてJINMU RTA界隈に現れたという逸材。

 普段、RTA配信など見るタイプではないのだが、Syu-Taが自身のSNSで彼の配信を拡散していたものだから、なんとなく試しに視聴してみてすぐに分かった。


 プレイヤースキルが圧倒的にズバ抜けている。

 それも、他の追随を許さないレベルで。


 加えて戦闘スタイルも特徴的だったものだから、さっき出会った盾使いの少年が無名の配信主とイコールで繋がるまでにそう時間はかからなかった。


 ——とはいえ、だ。

 これは根拠も何もない勘でしかないのだが、悪樓騒動のキーパーソンは彼ではない気がする。


「本当の鍵を握っているのは、隣にいるお嬢さん……だったりしてねえ」


 脳裏を過ぎるのは、彼と行動を共にしていた白髪の少女。

 少年がレイアからの誘いを断ってまで一緒にいることを考えると、それだけ彼女に執着するだけの理由があるのだと思われる。


 トップクランの加入を蹴るほどのユニークか、はたまた別の何かか——。


「……それを探るのは、もしまたの機会が訪れたらでいいか」


 今からでも二人を追おうとすれば容易に可能だが、それは無粋というものだろう。

 遠ざかっていく二つの背中を眺めつつ、みゆぴーはフッと笑みを溢しながら呟く。


「——若人が青春を謳歌しているのを邪魔するほど野暮なことはないからね」




 *     *     *




 ディルシオンでリスポーン先の更新と最低限のアイテム補充だけをした後、俺らはすぐに街を出発し、大陸中央部と西部を繋ぐエリア——”ゲディエイト砂漠”へと足を踏み入れていた。


 砂漠とは言いつつも眼前に広がるのは、いかにも西部劇で出てきそうな赤っぽい土と岩肌が露出した荒野だ。

 空はカラッと晴れ渡り、枯れたような植物がちらほらとあるだけの不毛の大地となっている。


 いや……これも分類的には砂漠に含まれるんだったか。

 まあ、それはどっちでもいいとして——、


「……現実ほどじゃねえけど、急にクソ暑くなったな」

「そうだね。エリアが変わると気候ってこんなにも変わるものなんだね……」


 ディルシオン周辺の街道にいた時は特に暑さとかを感じなかったのに、エリアが切り替わった途端、必要以上に暖房が効いた部屋に入ったかのような感覚に襲われた。


 砂漠なんだから当然と言えば当然なんだけど。

 だとしても、身体に影響が出るほどの変化が出てくるとは予想外だった。


 再現された気候を直に体感できるのもフルダイブの良いところではあるけど、気候に合わせた対策をしなきゃならないのは面倒なところだ。


 ——つっても、専用のドリンク一本で解決するんだけど。


 インベントリを操作し、エナドリ程度の大きさをした一本のガラス瓶を取り出す。

 ブルーハワイのような水色の液体が入ったそれを一口飲めば、感じていた暑さは一瞬で消え去った。


「おお……アイテムの力って凄えな」


 プレイヤーの暑さを軽減させる飲料アイテム——”爽涼の果実水”。


 味は果実ってより、かなり薄めたスポドリのそれであまり美味くはないのだが、これから長時間暑さを耐え続けるよりはずっとマシだ。

 とはいえ、大陸西部のフィールド、エリアにいる間はずっとこれと付き合うことになるかと思うと、ちょっとだけテンションが下がる。


(後でひだりに良い解決策がないか聞いてみるか……)


 などと考えつつ、シラユキも同じアイテムを使用したのを確認してから、気を取り直してエリアの奥に向かうことにした。

爽涼の果実水

 酷暑地域での暑さを緩和してくれる飲料アイテム。必ずしも使用する必要はないが、スタミナに影響を及ぼしたり、場合によってはHPにも悪影響が出てくる為、出来る限りの使用が推奨されている。


ちなみに仮に服を脱いだとしても感じる暑さは変わらないので、防具を外す必要はないです。ついでに言うと、その逆もまた然りです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 青春90割、その他1厘ぐらいじゃないかな [気になる点] アエトッルクププレイヤーと知り合いとは、みゆぴーも上位層なのか [一言] 一部の界隈は早さ競うため服を脱ぐから、脱ぐ必要がなくなる…
[一言] つまり寒冷地のホットドリンクを飲まない場合のスタミナ上限減少スピード加速と、熱帯のクーラードリンクを飲まない場合のスリップダメージが暑い地域に集まっていて、その上1つのアイテムで解決できると…
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