当然、勘付かれて
「——っ!?」
「あ、その感じだとやっぱそうなのね。まあ、あんな特徴的な戦い方する人間なんてそうはいないから、間違いないだろうとは思ってたけど」
けらけらと笑いながらみゆぴーは言う。
「JINMU RTA界隈に突如として現れた期待の新星——ん〜、今の戦いっぷりを見れば四天王全員が少年を推すのも納得ですわな。少年なら、そう遠くないうちに四天王喰いもいけるんじゃないかしら」
「お褒めの言葉どーも。そう言うアンタは、界隈の人間……ってわけじゃなさそうだな」
「まあねー。俺はどこにでもいるただのゲーマーよ。あれのRTAとかおっさんには無理無理。というか、ノーマルの通常攻略ですらクリアも出来る気がしないわ」
(まあ……確かに)
こう言っては失礼だが、みゆぴーがJINMUをクリアできるプレイヤースキルがあるかというと、ぶっちゃけそうは見えない。
でも、じゃあ弱いかというとそれも違う。
冷静に戦況を見極める判断力はあったし、状況に応じてすぐに召喚する使い魔を切り替えられる柔軟な対応力もあった。
なんというか……俺みたいに戦闘力でゴリ押すのとは違うベクトルの強さをみゆぴーからは感じられた。
そして、それはシラユキに今後伸ばして欲しい強さでもあった。
「……ま、それはそうと。実は、もう一つ訊きたいことがあるんだよね。どっちかと言うとこっちが本題」
みゆぴーの視線がシラユキへ——正確には、携えた一冊の本へと向けられる。
「お嬢さんのその魔導書——それ、どこで手に入れたの?」
あー、やっぱ勘繰られるか。
思わず、内心で舌打ちを鳴らす。
「その魔導書に刻まれているアーツってリリジャス・レイでしょ。階級詐欺の術式筆頭なんていわれてる」
「は、はい……そうです。階級詐欺というのは、よく分かりませんが……」
「やっぱりそうだったか。……二人共知ってるかもだけど、魔導書って実は超が付くほどのレアもんなのよ」
言われるまでもなく分かっていたことだ。
けど、実際に身内以外のプレイヤーから聞かされると、改めてその希少性を認識させられる。
「今戦ったオーバードだけじゃなくて、どの災禍の眷属にも聖属性は有効だから、聖属性の術式を持ったプレイヤーってそれだけで貴重なのよねえ。普通にやってたら聖属性の適正を持つことは出来ないわけだし」
そういえば——。
思い返してみると、キャラメイクの際に選べる適正属性の中に聖属性はない。
あとついでに言うと魔属性も。
一応、条件さえ達成すれば後からジョブチェンジで適正を聖属性に変えられるし、最悪適正が無くともごく稀に聖属性の術式を習得可能とのことではある。
だとしても全体的に見れば、聖属性の術式持ちが少数なのは事実だ。
「だから聖属性の術式が刻まれた魔導書となるとその希少性は、更にワンランクアップするという訳よ。——それこそ手に入れるには、まだ知られていないユニークを進めでもしない限りは、ね」
——めんどいな。
こいつ、どこまで見抜いている……?
「認知されてるとかされてないとか知るかよ。このゲーム、事あるごとにユニークが発見されてんだし」
「まあそれはそうなんだけど。でもさあ、重要度ってもんがあるでしょうよ。……それで、どこで手に入れたわけなのよ?」
「えっと、それは……」
「——クレオーノだ。教会関係のNPCから受けたクエストのクリア報酬で貰った」
言えば、シラユキが「え」と口を開きかけるが、アイコンタクトで制し、
「でも、ヒントはそれだけだ。発生条件とかそこらは自分で探し出してくれ」
魔導書の入手場所がビアノスだということは、なんとしてでも隠さなければならない。
もしみゆぴーが悪樓の騒動の事を知っていた場合、それで真実に気づかれる可能性が非常に高い。
つっても、このハッタリが通用しているかはぶっちゃけ怪しいが、変に黙秘を貫くよりはまだマシだろう。
「……ふーん、なるほどねえ」
みゆぴーは、含みを持たせたような笑みを浮かべてみせる。
(あー……これは、ダメっぽいな)
直感する。
しかし、
「——ま、そういうことにしておくよ。二人がいなかったらさっきのレイドは負けてたし、無理に訊きだしたいわけでもないしねえ」
意外にもこれ以上追及して来なかった。
逆に思わず身構えると、
「なーに、そんなに警戒しなくたって大丈夫よ。だって、おっさんしがないソロプレイヤーなわけだしー。それにわざわざ若者を困らせるような趣味も持ってないしさ」
「………………」
「あのさ、その、ホントに〜? みたいな目をしないでくれないかなあ。おっさんを信じておくれよ」
「……そう言われても、アンタ胡散臭いし」
「少年、言葉のナイフって知ってる?」
「いや……」
短く答えれば、みゆぴーは「そっかあ」と、哀愁を漂わせ肩を落とした。
その傍らでシラユキが「ねえ」と俺の名を呼ぶ。
「ん、どうした?」
「私は……みゆぴーさんを信じてもいいと思うな。なんとなくだけど、そこまで悪い人には思えないから」
「お嬢さん……!!」
「……表面上だけ繕っているって事も考えられるけど……まあ、シラユキがそう言うんならいいか」
俺も別に一から十までみゆぴーの事疑ってるわけでもねえし。
雑に頭を掻きつつ、みゆぴーにちらりと視線を向ける。
すると、みゆぴーは目を輝かせてシラユキにぐいと詰め寄って仰々しく言う。
「ありがとう。お嬢さんのその優しさ、まるで天使のようだ……!」
「て、天使だなんて……大袈裟です……っ!!」
途端、シラユキの顔が熟れた林檎みたく真っ赤になった。
実際にNPCから天使って呼ばれてたからこそ、余計恥ずかしいんだろうな。
前にビアノスの町長マリオスから言われた時もこんな感じになってたし。
「——はいはい。感謝してんなら、その天使様をあんま困らせないでくれ。それじゃあ、俺らもそろそろ行くから。次どこかで会うことがあれば、またオーバードでも倒そうぜ」
「え……ちょ、少年?」
虚を突かれたような反応を見せるみゆぴーを横目に俺は、街の方に向かって歩き出す。
「行こうぜ、シラユキ」
「う、うん……!」
シラユキも俺の唐突な話の切り上げに戸惑うも、すぐにみゆぴーにペコリとお辞儀をして俺の後ろを追うのだった。




