黒き花火
気づけば40万文字書いてました。
* * *
「破鎧呪」
みゆぴーが術式を発動させ、灰色がかった青のエフェクトが狂戦斧鳥を蝕む。
直後、リキャストが終わったばかりのホライズフラッシュを叩き込むと、明らかに手応えが変わった。
今まで浅くしか入らなかったダメージエフェクトが大きくなっている。
肉質が軟化し、与ダメージ量が増加しているのは確かだった。
(——デバフがかかりきるまでに倒すのは、流石に無理だったか……!)
ちょっとだけ悔やまれるが、これに関しては割り切るしかない。
元々、無謀な挑戦だったわけだしな。
それよりも——、
「これで物理、魔力どっちもまともに攻撃が通るようになったって事だよな。だったらよ、やってやろうぜ……黒い花火大会をなあ!!」
黒刀を鞘に納め、俺は空いた左手でインベントリを開く。
取り出すのは大量にストックしてあるマジックポーション。
昨日、ライトから黒禍ノ盾を受け取った後、持っていた所持金の半分近くを注ぎ込んで購入しておいたものだ。
本当なら無理に買う必要はなかったのだが、今みたいに連続で盾の特殊効果を発動させたくなった時の為に備えておいたってわけだ。
(……でも、まさかこんな早くに使う事になるとは思わなかったけどな)
まずは一本、一気に飲み干しMPを全快させ、回復したばかりのMPを全て盾にぶち込む。
「——一発目!!」
MPが空になったことを確認して、盾震烈衝を当てると同時、盾に蓄積された闇属性の魔力を解き放つ。
黒い魔力の衝撃波が狂戦斧鳥をかち上げ、吹っ飛ばす。
「まだまだあぁぁっ!!」
間髪入れずに新たに二本マジックポーションを取り出し、即座に飲み干し、MPを新たに盾へチャージして——落花瞬衛の構えを取る。
吹っ飛ばされていた狂戦斧鳥が空中で体勢を整え、落下の勢いを乗せながらバタ足キックを繰り出そうとしていた。
殴られるよりも先に殴って攻撃を中断させてしまおうって事か。
先手を打つことで相手の攻撃を封じる……まあ、狙いは悪くない。
——でもよ、攻撃を当てることが発動トリガーだと思ってねえだろうな?
言っとくが、その予想は甘えぞ。
(なぜなら——)
狂戦斧鳥の鉤爪が盾が触れた瞬間——炸裂した黒の爆発が狂戦斧鳥を飲み込んだ。
「発動タイミングは任意なんだよ!! 勘違いしてんじゃねえぞ、間抜け!!」
黒禍ノ盾の特殊効果は、攻撃にも防御にも応用できる。
攻撃であればヒットした際にぶっ放せばより強烈な一撃に昇華し、防御であればガードに合わせることで攻防一体のカウンター技へと変化を遂げる。
まあ、その代わりに発動タイミングをミスると無駄撃ちになる危険性もあるが、これに関しては俺がヘマしなきゃいいだけの話だ。
攻撃を中断され、立て続けに喰らう吹っ飛ばし。
それでも狂戦斧鳥は、もう一度どうにか空中で体勢を立て直そうとするも、
「——リリジャス・レイ!」
後方から放たれる荒ぶる光の奔流に撃ち抜かれ、そのまま真っ逆さまになって地面へと落下していった。
力無く地面に激突する狂戦斧鳥。
今までだったら即起きしていたが、今回に限っては、その場で身悶えするばかりで立ち上がる気配すら無かった。
「よし!」
戦闘が始まってようやく発生したダウン。
この様子を目の当たりにした双剣使いが嬉しそうに拳を握り締めるが、
「そこ、ボケっとすんな!! 一気に叩くぞ!!」
「双剣の兄さん、ボケーとしなさんな! これでケリつけるわよ!!」
俺とみゆぴーの叱責が重なった。
振り返れば、みゆぴーは召喚していたリスの使い魔を退却させ、代わりにハーピィを彷彿とさせる巨大な翼を持った鳥型の魔獣を召喚していた。
(なるほど……あれが攻撃役の使い魔ってわけか)
「あ、ああ……悪い、そうだな!」
双剣使いはハッと我に返るように気を引き締めると、すぐさま狂戦斧鳥に向かって駆け出した。
同様に俺と双剣使いの隣にいた槍使いも狂戦斧鳥へと肉薄し、各々アーツを発動させていく。
三方向から絶え間なく連撃が叩き込まれる。
きっと、側から見れば袋叩きとなっていることだろう。
だが、真の袋叩きはここからだ。
「おーい! 前衛陣、下がれーーー!!」
後方から聞こえてくるみゆぴーの叫び声。
咄嗟にその場を離れれば、後衛の攻撃組が一斉に術式を発動しようとしていた。
「フリジットコフィン!!」
「リリジャス・レイ!!」
「よし、いいぞ——殲滅しろ」
刹那、巨大な氷の棺が狂戦斧鳥を閉じ込める。
荒ぶる白銀の極光が氷の棺ごと狂戦斧鳥を貫く。
そして、魔獣の目の前に浮かび上がった魔法陣からガトリング砲のように放たれた魔力の光弾が、身動きの取れない狂戦斧鳥を容赦無く撃ち抜いてみせた。
周囲を飲み込んで盛大に巻き上がる土煙。
その光景だけで、魔獣が繰り出した攻撃の壮絶な破壊力を物語っていた。
「おいおい、なんつー大技持ってんだよ……!」
属性相性を考慮してもリリジャス・レイより余裕で威力出てんだろ、あれ……!
いやまあ、レベル差と術式の階級を鑑みれば当然ではあるんだけど。
しかし——ふと、気づいてしまう。
まだ土煙の中ははっきりと見えないが、辛うじてシルエットが残っている事に。
「野郎……まだ生きてやがるのか」
なら——おまけにもう一発くれてやるよ。
インベントリからマジックポーションを二本取り出し、MPを全快させてから黒禍ノ盾にMPを注ぎ込む。
傍ら、実験的にまた新たなマジックポーションを取り出してMPを回復させ、回復したMPをそのまま更に盾へと流していく。
(——へえ、イケるのか)
どうやら黒禍ノ盾に一度に溜め込む事の出来る最大MP量は、自身の最大MPってわけではないようだ。
「だったら……!」
また新たにマジックポーションを取り出しては速攻でがぶ飲みして、即座に盾にMPを注ぎ込む。
これを何度も繰り返し、黒禍ノ盾にこれ以上MPが流れなくなるのを感じ取った瞬間、狂戦斧鳥が大きく翼を羽撃かせ、周辺に漂った土煙を吹き飛ばしながら立ち上がってみせた。
「チッ、ダウン中には間に合わなかったか……!」
確実に当てるためにも、もうちょっと寝転がって欲しかったが……仕方ねえか。
「——おい、クソ鳥!! 最後に特大の花火を見せてやるから、こっち来いよ!!」
狂戦斧鳥を対象に憤怒の投錨者を発動させ、みゆぴーの使い魔に向きかけていたヘイトを俺へと強制的に惹きつける。
直後、狂戦斧鳥は禍々しい魔力を大量に放出し、十数メートルにも及ぶ高さで跳躍すると、鉤爪に魔力を纏わせてから落下の勢いを乗せた飛び蹴りを繰り出した。
「——っ!? 馬鹿! 少年、避けろ!!」
正面から迎え撃とうとする俺に気づいたみゆぴーが叫ぶも、今からだともう回避は間に合わない。
「ハッ、心配いらねえよ!」
——いや、避ける必要なんてない。
威力は桁違いかもしれないが、モーションそのものは少し前に繰り出していた飛び蹴りと一緒だ。
つまり、あの攻撃は単発ヒットであり——それならパリングガードが通用する。
——急降下してくる狂戦斧鳥の鉤爪が俺を捉える直前、パリングガードを発動させながら盾を構える。
盾と鉤爪が触れた瞬間、不自然に飛び蹴りは弾かれ、狂戦斧鳥の体勢が大きく崩れる。
「受け取れ——」
守砕剛破を放つ寸前、淡い緑の光が俺の身体を包み込む。
そして——、
「手向けの花火を!!!」
ガラ空きになった狂戦斧鳥のボディに盾を打ち込めば、周辺一帯を黒の閃光が飲み込んだ。




