魔物使い、飄々とまとめて
振り向いた先にいたのは、如何にも胡散臭そうな格好をした男プレイヤーだった。
茶色いボサボサのロングヘアをハーフアップに結え、顎下に無精髭を生やし、風来坊を彷彿とさせるゆったりとしたシルエットの装備は、マジで胡散臭えとしか言いようが無い。
腰に携えているのは、短杖と棍棒——違うな、硬鞭って鞭の一種だったか。
……何のジョブをセットしてるのか読めねえな。
「……アンタは」
「俺かい? 見ての通り、たまたまここを通りかかっただけのか弱ーいおっさんよ。よろしく、少年にお嬢さん」
へらへらとした笑みを浮かべながら男プレイヤー——みゆぴーはウィンクを飛ばしてみせた。
(うわ、めんどくせえのに絡まれたか……)
「——少年。今、めんどくさい奴に絡まれたか、とか思ってるでしょ」
「っ、……何で分かった?」
「顔に思いっきり出てるのよ。けど、この場だけでも仲良くやろうよ。俺たちが生き延びるには、奴さんをどうにかしないといけないわけだしさ」
確かに、みゆぴーの言う通りだ。
俺らがこの窮地を乗り切るには、奴と戦って撃破するしか方法はない。
その為には、例え相手が胡散臭いプレイヤーだったしても、力を合わせて戦う必要がある。
「……なら、作戦はどうする?」
「んー……それよりもまずは、こっちの戦力を確認するところから始めようか。とりあえず手始めに少年、ジョブを教えてもらってもいい?」
「メイン武者の盾使い、サブは武闘家の蹴脚使い」
「なるほど。お嬢さんは?」
「私は、メインが巫覡で適正は長杖使いです。サブは生産職なので……」
「オッケーオッケー。となると……今のところ前が一枚、後ろが二枚、か」
独り呟き、みゆぴーは他のプレイヤーにも話しかけに行く。
随分と悠長に構えているようだけど、そんなんで大丈夫なのか……?
不安が募るものの、意外にも狂戦斧鳥の方から動く気配はない。
本格的に戦闘が始まるまでは、ちょっとだけ準備を整える猶予が与えられてるってことか。
とはいえ、いつ動き出しても対応できるようには警戒はしておく。
——その直後だった。
「……チッ!」
痺れを切らした狂戦斧鳥が強く地面を駆け、みゆぴーへと襲い掛かる。
咄嗟にカバーに入ろうとするが——、
「——第一召喚・”鉄砦”」
みゆぴーと狂戦斧鳥の間に魔法陣が展開される。
そこから出現したのは、高さ三メートルはある巨大な鋼鉄のゴーレムだった。
「ブロック」
下すのは、一言だけの簡潔な指示。
ゴーレムは召喚されるや否や両腕を大きく広げると、狂戦斧鳥の突進を真正面からがっしりと受け止めてみせた。
「よーし、良い子だ。鉄砦、そのまま奴さんの相手よろしくね〜」
飄々とした態度を崩すことなくみゆぴーは、ひらひらと手を振りながらゴーレムに指示を出すと、何事も無かったかのように他のプレイヤーの元へと歩いて行った。
「……魔物使いだったか」
正確に言うのであれば、それの上位系か。
何度か野良のプレイヤーがエネミーを連れているのを遠巻きから目にしたことはあるが、間近で実際に戦わせているところを見るのはこれが初めてだ。
(もしかして、みゆぴー……結構な遣り手だったりするか?)
テイムされたエネミーのことはよく分からないが、オーバードを足止め出来るほどのパワーがあるってことは、相当育成されていると思われる。
……だが、ゴーレムの膂力だけでは狂戦斧鳥を抑えきることは出来ず、十数秒の拮抗の後、徐々に押され始めてきていた。
「……なあ、おい!」
「なあに、心配しなくても大丈夫よ、少年。——第二召喚・”業水”」
みゆぴーが二つ目の魔法陣を展開させる。
次に出てきたのは、全身が水銀で出来た大きなスライムだ。
「絡みつけ」
またも下すのは、一言だけの単純な指示。
水銀スライムはそれに即座に反応すると、見た目以上の機敏な動きで狂戦斧鳥に接近し、まるで沼に引き摺り込むような形で両脚に纏わりついた。
二体がかりの足止めによって、今度こそ狂戦斧鳥の動きを封じることに成功した。
「……凄い」
「ああ、普通にそこらのプレイヤーよりも優秀かもな」
魔物使い……もしかして、俺が考えているよりもずっとポテンシャルを秘めてたりするのか。
魔物使い系統のジョブの可能性を密かに感じていると、残り四人のプレイヤーと話をつけてきたみゆぴーが戻ってくる。
「はいはーい、ちゅうもーく。これから手短に戦闘方針を伝えますよー」
パンパンと二度手を叩き、みゆぴーは、
「時間が無いから簡潔に役割だけ。君ら二人は近接メイン、君は術メインでのDPS。それから少年は俺の使い魔たちと一緒にタンク。お姉さんとお嬢さんは、少年と俺の使い魔たちの回復役を頼むよ。あ、俺はサポート役だからよろしくね〜」
……うん、即席にしては悪くないな。
みゆぴーの提案に特に異論はない。
ステータス的にはタンクとは程遠いけど、盾を持ってるの俺だけだしな。
「何か意見があるんだったら今のうちに」
確認するが、誰も反対意見を出すことはなかった。
「——よし、それじゃあこの方針で行こうか。具体的な作戦とか立ち回りは、戦いながら臨機応変に」