六、四、三の奇妙な集会
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そんな超大物二人に挟まれるというのは、なんとも不思議な気分だ。
「ねえねえ、ヒロぽんは普段アルクエで何やってるの?」
「んー、基本的にはここに籠ってスキルとか装備の調整をしながらベルフレア……緋皇の攻略の手がかりを集めてるぜ。そういうモナにゃんは今、何してんだ?」
「あたしはクランメンバーと絶賛エリア攻略してるとこだよ! オボロンっていうんだけど、ものすっごいポテンシャルを秘めてるんだよねー! それこそKIDと並ぶくらいに!」
「オボロン? ……ああ! 主から聞いてるぜ。まだVRゲー始めて間もないのにソロでエリアボス突破したっていう特大の才能の原石だろ? どんなプレイヤーなのか気になってるんだよな」
「そう? じゃあ、今度オボロン連れてまた遊びに来るよ!」
………………。
……それにしても、打ち解けんの早えな、おい。
まだ会って十分くらいしか経ってねえぞ。
いくらSNS上で既に面識があったとはいえ、実際に会うのはこれが初めてだとは思えないくらいに会話が弾んでいた。
ちなみにダイワが朧のことを知っているのは、モナカを待っている間、互いに諸々の情報交換をしていたからだ。
その過程でダイワの俺の呼び方が”主”に変わっていたりする。
ところで、モナカ……今サラッと朧が大変な目に遭いそうな発言してなかったか。
……けどまあ、朧ならなんとかなるか。
心の片隅で朧を同情しつつ、俺は無言でピッケルを振るう。
霊峰で採掘できる鉱石は他エリアで採れる素材アイテムよりも高値で売れるから、インベントリの格納限界近くまでなるべく多く回収しておきたい。
ライトとひだりに立て替えて貰ったクランハウス代を集めるのもそうだし、ダイワから聞いた話だが、聖女の雫を購入するだけでもかなり値が張るとのことなので、その購入費用を賄う為にも所持金は出来るだけ増やしておきたいところだ。
金策をするなら、本当はここらにいるエネミーをぶっ倒すのが一番手っ取り早いのだが、流石にレベル100オーバーの敵を倒すのは無理がある。
いやまあ、頑張れば倒せなくもないんだろうけど、結構な確率で連戦になるから呪獣転侵が自動発動しやすくなる上に、仮に倒せたとしてもそもそもの労力と対価が見合わない可能性が高い。
それだったら素直に炭鉱夫になっていた方が稼ぎが良いというものだ。
「というかさ、主とモナにゃんは別行動取ってるみたいだけど、なんか理由があったりするのか?」
「う〜ん……理由は無いけど、強いて言うなら攻略タイミングが綺麗に被らないからかなー。だよねー、ぬしっち?」
「……言われてみればそうだな。なんかモナカとは攻略するタイミングが噛み合わないんだよな」
思い返してみると、理由は異なるが、昨日の大聖堂で発生したクエストも、午前中のエリア攻略も丁度いい感じにモナカが不在だった。
まあでも、同じクランだからと言って、無理に攻略の足並みを揃える必要はないだろうし、互いに力を貸して欲しい時に協力し合えればそれでいいと思っているから、今のままでも特に問題はないだろう。
「ふーん……そうなのか。二人が協力すれば速攻で大陸制覇やれそうだけどな」
「むむむ、確かに。ぬしっちと組めば色々過程をすっ飛ばして大陸制覇できそうだよね〜。というか、普通にやれる気がする☆」
「なら、試しにやってみるか?」
「ん〜……やんなくていいや! オボロン鍛えながら攻略するの楽しいし! ぬしっちだって出来るならユキりんと一緒に攻略したいでしょ?」
「……さあな」
曖昧に答えれば、
「え、何!? もしかして彼女!?」
ダイワがぐいっと詰め寄りながら目を輝かせた。
「違えよ。ただのリアフレだ」
「ふーん。ただのリアフレ、ねえ〜」
「……何、その目?」
にまにまと意味深に目を細めるモナカを訝しむと、
「別に〜。『アルゴナウタエ』の勧誘を蹴ってまでユキりんと一緒に行動することを選んだのに、ただのリアフレなんだー、って思っただけだよ」
「おいおい、レイアさんとこのクラン断った理由それだったのかよ! さっき聞いた時、ネロデウスがどうこう言ってたよな!?」
「……嘘は言ってねえよ。ちゃんとネロデウス攻略も断った理由の一つだ。つーか、それを言うならモナカも『アルゴナウタエ』のスカウト断ったじゃねえか」
「にゃはは、あたしは断った理由一つだけだもーん」
……それ誇るようなことじゃねえだろ。
ドヤ、と胸を張るモナカにため息を溢すと、突然ダイワに肩をがっと組まれる。
「あのさ……主。一つ確認しておきたいことがある」
「……何?」
それから真剣な表情と声色で訊ねられたので、つい身構えれば、
「主はさ、その女の子のこと……好きなのか?」
「ぶはっ!!!」
「なるほど。図星か」
盛大に噴き出してしまった。
何でガチトーンで中学生みたいなこと訊いてんだよ!
「ついでにもう一つ。その子って……可愛いか?」
「うん! ユキりんはと〜〜〜〜っても可愛いよ!!」
「なんでモナカが質問に答えてんだよ」
「だって、ぬしっち答えはぐらかしそうだったから。でも、ユキりんが可愛いって言うのは事実でしょ?」
「……まあ、そうだけど」
ぼそりと答えた途端、ダイワとモナカは嬉々とした表情で互いに顔を合わせ、にやりと唇を釣り上げる。
そして、モナカも俺の肩に腕を回して軽い拘束を食らうと、暫く二人からシラユキとの関係性について質問攻めに遭うのだった。
気づけば、十九歳と二十歳に恋愛事情で詰められる高校生の図が出来上がってました()
実は、ダイワも過去に『アルゴナウタエ』からクランの勧誘を受けたことがありますが、緋皇攻略を最優先にする為に誘いを断っています。




