助け合うのがヒーロー
爆炎に呑まれた怪物二体が力無く真っ逆さまに落下し、頭から地面に叩きつけられる。
そのまましばらくして熊さんは一歩も動くことなくポリゴンと散っていった。
対して飛行コブラはというと、まだ息はあるようだが右の翼の半分から先が見事に斬り落とされ、左の翼の大部分を含めた全身のあちこちが焼け焦げている。
そんな状態でなんでまた生きていられるのかと気になるところだが、原因は恐らく単純に与えたダメージ量が少なかったからだろう。
戦闘が始まって最初の方は熊さんを優先して攻撃してたし、同士討ちも熊さんの方がダメージ喰らってそうだったしな。
ボス級のエネミーだけあって、流石に大技一発だけで沈むようなHPはしていないらしい。
とはいえ、ここまで翼がボロボロになってしまっては、再び飛行コブラが空を飛ぶことはもう叶わないだろう。
「それにしても……なんだったんだ、今の技……?」
一つのアーツスキルにしては一連の動作が長すぎる。
となれば幾つかのアーツスキルと素の戦闘技術を掛け合わせたものだと考えるのが妥当だが、じゃあどこからどこまでがアーツスキルで、どこを素の戦闘技術で補っているのかが疑問になってくる。
ただまあ、そこは本人にしか分からないことだから後で聞けたら聞くとして、この戦闘を通して一つ確信したことがある。
常人離れしたプレイヤースキルから繰り出される大太刀を使った剣術と体術を織り交ぜた戦闘スタイル。
Hide-TをSyu-Taだと認識している交友関係。
それとヒーローって言葉をよく口にするJINMU経験者——そんな特徴を持つRTA走者を一人だけ知っている。
「……確かに、アンタなら獣呪持ちになってもおかしくはねえな」
——こんな偶然もあるんだな。
しみじみ思いつつ俺は、ダイワが飛行コブラを撃破するのを静かに眺めることにした。
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【RESULT】
EXP 298760
GAL 154600
TIME 21’49”83
DROP ”赤熊の剛炎爪×3”、”赤熊の重甲殻×2”、”赤熊の尖鋭牙×2”、”呪獣の炎魔核”、”風蛇竜の重鱗×4”、”風蛇竜の尖鋭牙×2”、”風蛇竜の剛翼”、”風蛇竜の逆鱗”、”風蛇竜の碧魔核”
【EX RESULT】
称号【赤の眷属を討ち倒し者】
称号【超・格上殺し】を獲得しました。
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何もしてなかったけど、ちゃんと俺にも経験値とか入っていた。
おかげでレベルが一気に30まで上がっただけでなく、称号もちゃっかり獲得してしまっていた。
「——赤の眷属……ってことは、やっぱネロデウスとは別の災禍が関係してたか」
蝕呪の黒山羊も悪樓もそうだが、ネロデウスの眷属の場合は、黒って言葉が付いてたしな。
となると、他の災禍も別の色で当てはめることが出来そうだ。
それはそうと、やっぱ格上のボスを倒すと得られるリターンが馬鹿にならねえな。
……けど、俺がここまで熊さんと飛行コブラ――赤熊と風蛇竜を引き連れたとはいえ、肝心なところは全部ダイワに丸投げしてしまったことは申し訳ないな。
せめて今手に入った素材と獲得金だけでもあいつに渡しておくべきか。
頭を悩ませていると、ダイワが骸骨の仮面を頭に乗せながら戻ってきた。
「待たせたな、片付いたぜ!」
「……GG。それと悪いな、面倒押し付けてしまって」
「オレがそうしたいから倒しただけだ。ジンムが気にするようなことじゃない」
にっと笑いながらダイワは、インベントリから聖女の聖霊水……に似た回復アイテムを取り出してそれらを身体に振り撒く。
すると、一瞬にして全身を覆う炎が消えて元の姿に戻った。
「……聖女の聖霊水じゃなくても獣呪って解除できるんだな」
「ああ、聖女って名前がつく回復アイテムなら効果はあるぜ。ただ、一番入手難易度の低い聖女の雫でも手に入れるのはかなり面倒だから、気軽に獣呪化はできないんだけどな」
インベントリから別のアイテムを取り出し、自身に振り撒きながらダイワは言う。
なんとなく予想はついていたが、やっぱ獣呪を解除するには必ずしも聖女の聖霊水である必要は無いみたいだな。
「あんたでも簡単に手に入れられないのか?」
「いや、それなりに金がかかるってだけで入手自体はそう難しくない。ただ、わざわざキンルクエに行くのが面倒なだけで」
「あー、確かにここからだと結構遠いもんな」
キンルクエがあるのは大陸北部。
しかもこっちから行こうとすると、ボス撃破込みでエリアを縦断しなきゃならないから、大分手間ではある。
まあ、ダイワならボス戦は楽勝で突破出来るだろうけどな。
「というかさ、それだったら尚のこと俺に聖女の聖霊水を使っちまって良かったのかよ。めっちゃ貴重なアイテムだろ、あれ」
訊ねれば、
「問題ない」
即座にきっぱりと答えが返ってくる。
「オレにとっては、あそこがあのアイテムの使い時だった。それに目の前で助けられるプレイヤーを見て見ぬフリはオレには出来ないからな」
「そうか……じゃあ、アンタにこれやるよ。ちょっとした礼だ」
インベントリからテレポートとBテレポートの使い捨て術巻を取り出し、一緒にダイワ宛てに譲渡申請も飛ばす。
譲渡申請に気づいたダイワがアイテム名を見た途端、慌てて俺の方を向き直した。
「テレポートの使い捨て術巻じゃないか!? しかもNテレポとBテレポの二つも……! なんでジンムがこれを……!?」
「うちのクランメンバーが生産ガチ勢なもんでね。あと色々あって気軽に作れるようになったから常備できるようになったんだよ」
「そうなのか……? いや、だからと言ってそう簡単に受け取る訳には……」
渋る様子を見せるダイワだが、
「さっき有無を言わさず俺に聖女の聖霊水を振り撒いたのはどこのどいつだ? それに今の戦闘で俺にも経験値やらドロップアイテムやらが分配されてんだから、少なくともこいつは受け取って貰わねえと俺の気が済まねえ」
——助け合うのもヒーローだろ。
最後にそう付け加えて使い捨て術巻を押し付ければ、ダイワはようやく観念したように譲渡申請を受諾した。
「……全く、それを言われたら敵わないな」
「だろうな。普段からヒーロー好きを公言してるあんたなら、こう言えば受け取とらざるを得ないと思ってたよ。なあ――ヒーロー」
「——っ、……ハハッ、やっぱバレてたか」
「当たり前だ。つーか隠す気ゼロだっただろ」
指摘すれば、まあな、と一言。
ダイワは——ヒーローはニヤリと口角を吊り上げて見せた。
災禍の眷属の強さは、出現するフィールド、エリアのボスエネミーより1〜2ランク程上になるように変動します。
なので今回倒した赤熊さんは、超強力な個体になっていましたが、出現する場所によっては今の主人公でも倒せる強さになります。ただし、一般的にそういう傾向があるだけの話なので、場合によってはレベル差の暴力で余裕で倒せたり、レベル100オーバーの化け物個体と戦う事になる可能性も低確率ですが発生します。
ちなみに主人公がゲーム開始初日に戦った蝕呪の黒山羊は、通常枠だったのでちゃんとクァール教官より強さが1.5〜2ランクくらい上の個体となっています。だからこそ、双子は初見ソロで撃破した主人公にドン引きしたわけですね。




