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帰ってきて知らされる事実

 テレポートには幾つか種類があるらしい。


 まず一つが、直近に宿泊した宿屋のある街に転移する通常のテレポート。

 テレポートでも意味合いは通じるが、他と区別するためにNテレポなんて呼ばれ方がしていたりする。


 それからもう一つは”テレポート(拠点)”——こっちは、クランハウスや個人ハウスといった活動拠点に直接転移する効果を持つ。

 Base(拠点)のBを取ってBテレポなんて呼ばれていたりする。


 他にもテレポ系統の術式は存在するらしいが、メジャーなのはNテレポとBテレポの二つとのことだ。


 宿屋に到着し、個室に入ったところで俺は早速、ひだりから受け取った二つの使い捨て術巻の内、Bテレポの使い捨て術巻を使用してみる。


 何気にこのゲームを始めて初となるMP消費、使い捨て術巻に念を込めれば、足元が光り出し視界が白く覆われる。

 僅かな浮遊感の後、視界が元に戻ると、そこは簡易なベッドが置かれているだけの殺風景な部屋へと変わっていた。


 ダークブラウンの木床にブラウンの木壁。

 天井に吊るされたシンプルなランプ。


 間違いない、クランハウスの中にある俺の個人ルームだ。


「おお……マジで戻ってこれた」


 Bテレポを使うと、直接自分の部屋に戻るみたいだな。

 とりあえず部屋を出て、一階に降りてみる。


 共用ルームには朧の姿があった。


「あ、ジンムくん。お帰り。その様子だと無事に次の街に行けたみたいだね」

「ただいま。ああ、今回は珍しく何もトラブルが起きなかったからな」


 出来れば毎回こうあって欲しいもんだ。


「シラユキさんとチョコさんは?」

「二人で街の中を見て回るって事でエウテペリエに残ってる。多分、暫くしたら戻ってくると思う。そういうライトとひだりはどうしてる?」

「ライトくんもひだりさんも地下で作業中だよ。ライト君は、チョコさん用の装備を作ってて、ひだりさんは今もテレポートの使い捨て術巻? を量産してるはず」

「うっわ……まだ作ってたのかよ」


 最初に作り始めてから、かれこれもう数時間は経ってるぞ。

 俺らがエリア攻略してる間もずっと生産し続けるって、どんだけ没頭してんだよ。


 ……いや、あの兄にして妹ありか。


 思えばライトも考察モード入ると周りのこと何も見えなくなってたな。

 でもまあ、テレポ系の使い捨て術巻はあればある分だけ有り難いから文句は言えないか。


「というか、チョコ用の装備って?」

「ああ、それはね。経緯はどうであれ、同じクランになったのにチョコさんの装備だけ作ってないのは不公平だよねって話になって、それでとりあえずは、昨日のクエストで倒したボスの素材を使って武器を作ることにしたみたいだよ」

「なるほど、そういうことか。確かにチョコだけ店売りの装備だったもんな」


 ビアノス時点で購入可能な装備とライトが生産する装備では、武器にしても防具にしてもかなりの性能差がある。

 結構安価な防具だったとはいえ、レザーシリーズから雷豹シリーズに変わったら合計防御力が100以上も変わっていた。


 攻撃力に関しては聖黒銀の槍があったから、剣と盾でも殴れるようになったくらいの感覚でしかなかったけど、初期武器だった朧とかモナカ的にはそっちの恩恵もデカかっただろうな。


 そう考えると、チョコ用に装備を作ろうって考えに至るのは自然なことか。


「——だとしても、あのボスの武器……か。なんか性能ヤバそうだな」


 武器にした時にアイツの能力がどう反映されるかは分からないが、とりあえず数値がヤバくなりそうなのは何となく想像が付く。

 要求ステータスがどうなるか怖いところではあるものの、まあライトならそこら辺のヘマをしでかすことはないだろう。


「そういや……あのボスについて、なんかライトから話を聞いてたりするか?」

「うん、ジンム君達がエリア攻略している間にチラッとね。でも……完全に初耳だったみたい。姿を見たことも無ければ名前を聞いたこともないって」


 首を横に振りながら朧は答えた。


「……ガチか」


 虚異霊——あいつガチもんの新種だったのか……。

 NPCが存在を知らなくても、まあそういうこともあるか、で流せたけど、ライトも全く知らねえってなるとちょっと話が変わってくるぞ。


 もしかして、昨日大聖堂で受けたクエストってかなり特殊な奴だった——?


「そもそも裂け目の怪物ってワード自体も初めて知ったっぽい。情報を隠してなければだけど、トップ層の人達も知らないんじゃないかとも言ってたかな」

「マジかよ……じゃあ、なんでそんな希少な敵がなんてことないクエストで出現したってんだ……?」

「それなんだけど、ライト君はシラユキさんが関係しているんじゃないかって推察してたよ」

「シラユキが?」


 訊ねれば、朧はうんと首肯する。


「確証は無いけど、シラユキさんが持ってる称号がクエストを発生させるトリガーになってるんじゃないかってことみたい。前にもシラユキさんが起因になって、似たようなことがあったんだよね?」

「あー……蝕呪の黒山羊か」


 思い出す。


 俺がアルクエを始めた初日、シラユキはパスビギン森林で本来出現しないはずの蝕呪の黒山羊——というより災禍の眷属が正しいか——に襲われていた。

 あれもシラユキが発生させたクエストがトリガーになっているかもしれないって話だったんだよな。


 確かにそれなら納得がいくが、【アポロトシアから感謝を賜る者】——真面目にどうなってんだ、あの称号……?


 NPC間でも街を超えるレベルで話題になるし、本来出現するはずのない場所で特殊なエネミーと戦うこと(予想)になるし。

 称号って、そこまでゲームに影響を及ぼすことのない、謂わばおまけ要素的な奴じゃないのか……?


 近いうちにクランメンバーを交えて、シラユキの称号について真面目に考える必要がありそうだ。




 それから少しして、俺は昼食兼休憩の為に一度ログアウトしていた。

 なんだかんだで時間も昼飯時だったし、朝起きてからまだ何も口にしていなかったしな。


 空腹を感じつつ、VRギアを外してからベッドに置いてあるARフォンを手に取り、スリープ状態を解除する。




 ——今朝、起きた時よりも大量の通知で溢れかえっていた。




「……は?」


 訳が分からず、思考がフリーズする。

 働かない頭のまま、SNSと動画サイトどちらも確認する。


 フォロワーもチャンネル登録者も、ログインする前より千五百人近く増えていた。


 わー、二千人だー。

 なんでこんなに増えたんだろうなー。


 ホーム画面に戻ると、チャットアプリにメッセージが届いていたので、アプリを起動する。

 送信主は案の定モナカからだった。




Monica♪:配信ついでにぬしっちのこと紹介しといたよ!!




 もう一度アルクエに現実逃避(ログイン)しようかと脳裏に過ぎるくらい本気で頭を抱えた。

ガチもんインフルエンサーによって更にバズりが加速した件


テレポ系統の術式は、他に前回のキャンプ地点に転移することができるCテレポ、発動地点から範囲内の指定座標へ瞬間移動するアポートなどがあります。

勿論、その上の術式もあると考えられていますが、使い捨て術巻のクラフトレシピすら発見されていないのが現状です。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヒロインちゃんの称号は多分プレイヤーが聖女(男なら聖人?)へ至る条件の一つなんだろうから、通常なら出会わない強敵が試練として配置されるのかな? だとしたら自滅持ちの主人公とは別の意味で地雷な…
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